TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)
今のところ国産車でセミ自動運転ともいえる機能の導入に最も積極的なのは日産だろう。「プロパイロット」と名付けられたそれは2016年にミニバンのセレナに採用され登場した。その時の試乗会に参加した前MFi編集長から訊いた興味深いハナシが忘れられない。
日産の本社は横浜なので、試乗ルートとして首都高速の横羽線を選んだそうな。横羽線の上り、東神奈川から子安にかけて、ほぼ直角の切り返しをするコーナーがある。筆者にとっては格好のテストコーナーであり、勝手知ったる場所なのだが、クルマによって通過速度が結構変わる箇所でもある。
前編集長は予めACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の速度を○○㎞/h(大体で想像してください)に設定し、手放しで件のコーナーに差しかかった。常識的に運転するならば、そこはブレーキはかけないまでもスロットルからは足を離し、いくばくか減速しつつ前荷重で進入するコーナーである。ところがセレナはノーブレーキで設定速度をキープしたままコーナーに入っていったそうだ。タイヤはスキール音を発生しながら盛大にロールし、曲がりはしたもののあまりの恐ろしさに、その後の走行では設定速度を大幅に下げざるを得なかったらしい。
そのハナシを知人の自動車評論家にしたところ「じゃあ、もっと怖い四号線の新宿から代々木にかけてでやったらどうなるんだろう?」と言う。
ほんじゃぁ試してみっか……、と思いつつも時は流れ、そんな時日産の自動運転に関与する技術チームと懇談する機会を得た。いろいろ興味深いハナシを伺えたのだけれど、その最中に例の件を持ち出して訊いてみた。
「いやそれは無理です。ACCは前車との車間と障害物を避けるための機能しかなく、道路の曲率に合わせて速度調整するのは現状できませんから」
なるほど、自動運転の関門のひとつがよく分かった。ロードマップに記されているように、車両側のカメラだけでは道路状況に合わせて速度を調整することは不可能であり、そのためには詳細な道路と施設のデータをカーナビのデータに付加し、スロットルとステアリングと連携させなければならないのだ。
また、現状のステアリング自動操作はかなり使用を限定されており、あくまでも進路と速度を決定するのはドライバーの責任で、特にステアリング操作は緊急時、最後の最後の手段なのだ。プロパイロットはACCの速度を30㎞/h以上に設定しないと機能せず、それ以上の速度、特に障害物回避となればかなり高度なブレーキとの連携が必要となるから、実際には道路上の白線を目安に車線逸脱防止に限定されているといってよいだろう。
車線キープしかできないならそれなりに、どういう振る舞いを見せるのか。興味はいよいよ募り、マイナーチェンジでシリーズハイブリッドである「e-Power」がセレナに搭載されたのを機に、テストしてみることにした。