モーターファン・イラストレーテッド163号の特集は「差動 vs 差動制限」。なぜこの特集を発案するに至ったのか、舞台裏をご紹介しよう。

 そもそもは東京オートサロンで登場したGRヤリスだった。あのクルマ、FFベースなのに後輪優先駆動配分ができるというのである。待て待て、カップリングのAWDだったらMax.50:50でしょ。なのに40:60とか30:70ができるとエンジニア氏はおっしゃる。できる理由は前後軸の回転速度差。リヤ側のギヤ比をフロントに比べて小さくすることで可能になるという。「なるほど、そういうものなのか」。これが説明を聞いた素直な感想。カップリングの特性や使い方というものを理解できていなかったのである。

 これをきちんと紹介したいと考えた。GRヤリスが世の注目を集めているのは間違いない。これをコアとして、では周りのコンテンツをどう固めるか、企画骨子をどうするか。そこで「四つのタイヤを余さず駆動させるテクノロジーを紹介したい」と訴えたところ、編集会議は紛糾した。制御ロジックを解説しないとダメだ、サスペンションはどうするのか、「タイヤの摩擦円」はどう扱う、センサ類も取材したい、ドリフト走行も紹介したらどうだ、そもそもこの間同じような特集やったじゃねーか——収拾がつかなくなった。執筆陣も「余さず駆動する」というフレーズに対してそれぞれ思うところが多々あり議論百出、侃侃諤諤(むしろ喧々囂々か)、そして甲論乙駁、時間を経るにつれて「何を話していたんだっけ」という状況に陥った。




 後日、意見の整理を試みた。やりたいのは「四つのタイヤを余さず駆動させるテクノロジーの紹介」、トリガーはGRヤリス。これまでも多々駆動系の特集は組んできたが、「駆動系」という単語に表されるようにドライブトレイン全体の紹介であり、装置の解説に主眼を置いた企画だったように思えた。だったら「余さず」のところをきちんと理解できるページを作ろうと考えた。

デフギヤの差動具合を示すイラストも新規で作成した。(ILLUSTRATION:熊谷敏直)

こちらはLSD。差動制限とはいったい何かを詳しく解説した。(ILLUSTRATION:熊谷敏直)

 構成は三部。


1)左右で余さず駆動〜前後でも同様


2)AWDシステムの最新事例


3)トルクベクタリングとはなにか




 1)はデファレンシャルギヤの解説、そしてLSDの存在理由である。歯車の集合体であるデフは一瞥しただけでは何がどうやって動いているのかが非常にわかりにくい。LSDの働きと対比して図解することで、左右に余さずトルクを伝えるとはどのような仕組みなのかをわかりやすく説明した。加えてゴルフGTI TCRを試乗、「なぜFFにLSDを入れるのか」というテーマでページを仕立てている。


 その流れで「センターデフというものも左右デフとやっていることは同じ」というストーリーとし、ならばカップリングとはどのように違うのかという対比を試みた。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR仕様。VAQと称する電動油圧式LSDを備える。

 2)では、ここ最近のクルマでユニークなAWDシステムを採用するものを取材した。GRヤリスの新規取材は車両発売前ということで叶わなかったが、東京オートサロンでうかがった内容と今回新たに仕入れた知見とを組み合わせ、詳細な解説としている。


 ・ジェイテクトITCC


 ・GRヤリスのGT-FOUR


 ・マツダi-ACTIV AWD


 ・日産アテーサE-TS


 ・スバルAWDの4種

マツダCX-8のi-ACTIV AWDも、ITCCを用いるシステム。

 3)は今回の企画趣旨とは少々外れるものの、AWDシステムとセットで語られることの多いトルクベクタリングを再検証した。最近安易に使われる嫌いのあるこの単語について、果たして本来はどのような意味だったのかを含めて識者に取材した。


 ・ホンダSH-AWDの生みの親に訊く


 ・三菱自動車の考えるヨー付与


 ・久保愛三先生の考えるEV時代の走行性安定性向上策

久保先生の考えるEV用差動/差動制限装置。(ILLUSTRATION:熊谷敏直)

 このほか第二特集として2ストロークサイクルの可能性を掲載。ぜひお手にとってご覧ください。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 デファレンシャルギヤが頭の中で回るようにしたい:MFi163「差動 vs 差動制限」