REPORT◉佐藤 久実(SATO Kumi)
PHOTO◉篠原 晃一(SHINOHARA Koichi)
※本記事は『GENROQ』2020年4月号の記事を再編集・再構成したものです。
もはや、スーパースポーツからラグジュアリーブランドに至るまで、SUVが当たり前のように存在し、各ブランドを支える重要なモデルとなっている。ベントレーも例外ではない。そして、好調なベンテイガに、さらなるパフォーマンスアップを図ったベンテイガスピードが追加された。とはいえ、日本での販売台数はわずか20台だという。そのキャラクターを探るべく、2月上旬、伊豆方面まで足を伸ばした。暦の上では大寒を過ぎているが、すっかり暖冬に慣れきったカラダに、“例年並み”の外気温がものすごく寒く感じられた。
ベンテイガスピードが特別なモデルであることが一目で分かるのは、テールゲートスポイラーだろう。威風堂々としたスタイリングにすんなり溶け込んではいるが、エアロダイナミクスを追求した結果であることは想像に難くない。
一方、インテリアは相変わらず、上質なのに親しみがあり、居心地の良い空間だ。カーボン、レザー、そしてアルカンターラ、いずれもブラックでシックながら、明るさがある。ダイヤモンドキルトに施された白のコントラストステッチも、アクセントになっている。運転席に乗り込み、ドライブ開始。と、間もなくシートヒーターが冷え切ったカラダを温めてくれた。
まずは東名高速道路から新東名・長泉沼津ICを目指す。ドライブモードは、最適なモードを自動で選んでくれるデフォルトの「B」。毛足の長いカーペットの上を走っているかのような、滑らかなドライブフィールを堪能する。が、ここまでのところ、スタンダードモデルのベンテイガとの違いは感じられない。いや、おそらくテールゲートスポイラーなどエアロダイナミクスの向上分は効いているのだろうが、もともと安定性や快適性が高いから、正直、直接比較でもしなければわからない。「スポーツモード」を選んだ時のみ、ダンピングレートとロール剛性が高められるそうだ。試しにスポーツモードにしてみた。ボディや足元がちょっと引き締まった感はあるが、高速でわざわざ選択する必要もなしと判断、後ほどワインディングで改めて試すことにした。
ちなみにベンテイガスピードは“世界最速SUV”に君臨する。何をもって最速かと言えば最高速が306㎞/h。ちなみに2番手は、ランボルギーニ・ウルスの305㎞/h。その差、わずか1㎞/hだ。仮にサーキットを走ったとしても300㎞/hオーバーなんて滅多に体験できる速度域ではなく、ましてや、そこでの1㎞/h差なんて、まず、体感することはできない。でも、これは偶然ではなく、あえて狙ったとしか思えない。相手はスーパースポーツブランドのランボルギーニであり、もっと言えば同じフォルクスワーゲングループに属する。それこそ、「2番じゃダメなんですか?」というフレーズが浮かんだ。いや、今でこそベントレーは高級車ブランドのイメージが強いが、そのDNAはれっきとしたスポーツカーブランドだ。おそらくほとんどの人にとって未知の世界でありながら、開発陣は最速にこだわったのだろう。後発である以上、トップを行かなくては、という意地とプライドにかけて。
635㎰/900Nm、0→100㎞/h加速3.9秒と驚異的な数字が並ぶが、実際にアクセルペダルを踏み込むと、ヘッドレストに頭を打ち付けるような唐突な加速もなく、その高性能ぶりを過剰にアピールすることなく、紳士然としているからさらに「ギャップ萌え」となるのだ。
さて、高速道路から伊豆縦貫道を経て、西伊豆スカイラインに入る。ここで再び「スポーツモード」を試す。接地のダイレクト感が増す分、今までいなしていたアンジュレーションを拾い、荒れた路面ではコツコツした入力が伝わる。だが、それでも不快さはない。重さ2.5tもあるヘビー級SUVゆえ、そもそも俊敏性を求めようとは思わない。
ダルくもなくシャープ過ぎもしないステアリングを切っていくと、ボディ全体をスムーズにキレイな身のこなしで動かす。こんなに大きくて重い巨体が動いているのに、それを感じさせない。十分スポーティな走りであり、アクセルを踏み込めば速さもある。でも、不思議とこんなシチュエーションでさえ、目を三角にしたり、テンションを上げて走ったり、とそんな気分にはならない。チューニングの妙に浸りながら、心地良くワインディングでの走りを楽しませてもらった。そして、漸くベンテイガスピードならではの走りを堪能することができた。
さらに南下し、下田方面に向かうと、その手前で景色が変わった。河津桜は満開一歩手前という感じだったが、冬景色の中をドライブしてきた目には、鮮やかなピンクがとても映えた。まだまだ寒いけど、ひと足早い春を感じられたような気分になった。
のんびり走って片道約3時間のドライブ。伊豆縦貫道ができたおかげで、南伊豆が近くなったように感じられた。道路環境が整って便利になったのも大きいが、快適なクルマでのんびりクルージングしていると、時間の経過が早く感じられる。ベントレーは毎度のことながら、ステアリングを握っていると心豊かにしてくれ、移動の“質”を高めてくれる。それは、ハイパフォーマンスモデルのベンテイガスポーツでも同様だった。非日常の究極とも思える最高速にもこだわるけれど、日常も大事にする。そんな思いの感じられる、逞しくも優しいクルマだ。
〈SPECIFICATIONS〉ベントレー・ベンテイガスピード
■ボディサイズ:全長5150×全幅1995×全高1755㎜
ホイールベース:2995㎜
■車両重量:2560㎏
■エンジン:W型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5945㏄
最高出力:467kW(635㎰)/5000~5750rpm
最大トルク:900Nm(91.8㎏m)/1500~5000rpm
■トランスミッション:8速AT
■駆動方式:AWD
■サスペンション形式:Ⓕダブルウイッシュボーン Ⓡマルチリンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ:Ⓕ&Ⓡ285/40ZR22
■車両本体価格:3000万円