L9963は、STのバッテリ・マネージメント・システム(BMS)プログラムにおける最新世代の製品。同プログラムでは、EV用バッテリを開発する主要な機関・企業と協力し、これまでにも先進的な製品を開発してきた。2008年に開始され、現在も進行中のLG Chem社との共同開発や、2017年に発表された、中国の研究開発機関であるIMECASおよびEV用バッテリ技術を開発するEPOCH社との共同開発などが挙げられる。
STのオートモーティブ &ディスクリート製品グループバイスプレジデント 兼 スマート・パワー・ソリューションMACRO事業部ジェネラル・マネージャであるAlberto Poma氏は、次のようにコメントしている。 「STは、電子技術の専門性を最大限に広げ、より環境にやさしいモビリティの実現に貢献しています。新しいバッテリ・マネージメントICは、EV用バッテリ・マネージメント技術における主要パートナーとの10年以上にわたる協力により実現しました。同製品は、EVのバッテリ・マネージメントにおけるあらゆる側面を強化し、市場訴求力と信頼性を高めてユーザ体験の向上に貢献します」
一般的なBMSアプリケーションでは、STのSPC5をはじめとする高性能かつ安全性に優れた車載用マイクロコントローラによって制御される複数のL9963を使用して、バッテリ・スタック内の複数のセルをモニタする。
L9963は現在量産中。詳細および価格については、STのセールス・オフィスまたは販売代理店まで。
L9963は、スタックされたバッテリ・セルを14個までモニタでき、1.7V~4.7Vの範囲において±2mV以下の誤差で電圧を測定してセルの状態を保全する。電圧の測定値は、すべて測定と同時にデジタル化されるため、セルの同期遅延をなくすことができ、このタイプのバッテリ・マネージメントICでは初の機能と考えられている。
また、外付けの温度センサを7個までモニタできるため、システムによる変動の検知と安定性の維持を強化できる。
L9963はISO 26262規格に基づくASIL-Dに準拠し、完全な冗長性を持つセル測定回路が内蔵されているため、安全性の向上に加えて「リンプ・ホーム」モードにも対応可能。また、自動車の安全要件を満たす包括的な異常検知および通知機能も搭載されている。
シリアル・ペリフェラル・インタフェース(SPI)に加え、絶縁型のシリアル通信インタフェース(2.66Mbps)を備えており、バッテリ・スタック全体をモニタする複数のL9963間での高速通信に対応する。これにより、8個のL9963で96個のセルの測定 / 変換を4ms未満で実行することができる。さらに、トランスによる絶縁と容量性絶縁を組み合わせた動作も可能。
また、優れた堅牢性により、外付けのツェナー・ダイオードなしでホット・プラグに対応することができる。通常、バッテリをオフにすることができないため、BMS保護用にツェナー・ダイオードが必要だが、L9963によってこれらの部品が不要となり、コスト削減が可能。