TEXT&PHOTO:生江凪子(NAMAE Naco)
Special Thanks:柿沼秀樹(Type R 開発責任者/本田技術研究所)
柿沼秀樹氏(以下、柿沼。敬称略):よろしくお願いします。どうぞ、お掛けください。
Motor-Fan.jp編集部(以下MF):色、いいですね。
柿沼:色、いいでしょ! もう、ボクが「黄色しかないだろう!」って。「黄色! 絶対に黄色」って、最初から言って決めました。
MF:ところで、限定1000台、日本では200台ですね。シリアルナンバーにJPNと刻印されていますが、これは国で違うってことですよね。どのナンバーも001から始まって、1000っていうナンバリングは、ないということですね。
柿沼:そうです。全世界で約1000台ってことで、それを地域で振り分けて、で、日本は200台。001から始まって200まで。日本と欧州、北米。もちろん同じ001でもJPNだったり地域が刻印されているんで同じシリアルプレートは一切ないです。
MF:はい。そして、これは……抽選、ですよね。販売方法ですが。
柿沼:その販売方法も、いま検討しているんです。我々としては、タイプRのコアファン、いままでタイプRを愛してくださってきた方々にお渡ししたいので、(販売方法を)そのようにできないか、という要望はしております。
MF:それ、重要なことですよね。
柿沼:重要ですね。
MF:こっち(白いカラーリングのタイプR)は、オートサロンで発表された車両ですね。
柿沼:そうです。
MF:リミテッドとの違いは、先ほどプレゼンでおっしゃっていた違いのほかになにかありますか。
柿沼:あれですべてです。まず、ベースとして進化をさせて、そこから防音材とかを抜いて軽くして、鍛造ホイールとカップ2タイヤ。で、そのカップ2タイヤに合わせたセットアップ、サスペンションのダンパーのセットアップとか、ステアリングのEPSとかも全部、このタイヤ・ホイールウエイト、このマッチングに合わせた専用のセッティングをしました。
MF:やはり、乗り味は違いますよね。
柿沼:軽くなってタイヤのグリップが上がる、というタイヤ・ホイールの違いがあるじゃないですか。その違いがあるぶんをダンパー側でよりバランスを上げたっていう感じでしょうか。
MF:リミテッドは、インシュレーターをいっぱい取って、防音材も剥がしているじゃないですか。やはり乗ってすぐにわかるくらいダイレクトなんですか。
柿沼:もう、ダイレクトですよ。
MF:うるさい感じ?
柿沼:いや、それこそ初期のインテグラタイプRとかシビックタイプRはうるさかったですが、その頃よりも骨格構造のNV特性も格段に進化しているので、防音材を抜いてもそんなに昔みたいに「うるさくて乗っていられない」ってクルマじゃないですよ。そうですね、うるさくてどうのこうのより、より(エンジン音が)ダイレクトに聞こえるよねって感じでしょうか。
MF:タイプRは日本でも、もちろん欧州やアメリカでも人気があるんだと思いますが、地域としてはどこが一番アツいんでしょう。ファンとしては。ヨーロッパの人たちが一番こういうクルマを「待ってました!」ってなってくれるんですか。
柿沼:そうですね。ヨーロッパもそうですけど、北米も結構アツいですね。
MF:この新しいシフトノブは、明らかに使いやすそうな気がします。
柿沼:そうなんですよ。使いやすいです!
MF:カチャカチャしてみたいです。
柿沼:ぜひ、やってみてください。どっちでも(ノーマルもLimited Editionも)同じものを使っていますから。
MF:で、あのシフトノブにもかなりのこだわりが、きっとあるんですよね?
柿沼:あれはボクのこだわりです、完全に。2002の NSX R から、球形になったんですね。で、それ以降のタイプRって、基本全部あれを使っていてきているんですけど。ボクは、02のタイプRの開発も多少関わっていたんで、その頃からちょっと違うなってじつは思っていたんです。
MF:新しいシフトノブはこの手(柿沼さんの)に一番馴染むってことですね。
柿沼:馴染むっていうかね。まん丸って、イメージ的には手の収まりもいいし、まん丸が一番いいじゃないかって感じると思うんです。でも、実際にそれを横に動かして前に、後ろに動かすっていうと結局まん丸だと、その瞬間その瞬間の圧力、手の中の圧力がどうしても点になっちゃうんですよ。点とか線とかになっちゃう。だけど、もともとのタイプRの頃ってみんな縦長だったんですけど、手を普通に添えて、こう握ったときに、この手の中でどの部分も接触して、面圧がちゃんと分散されてより正確な操作がしやすくなるんです。なるんですよ。
MF:今回、シフトノブに芯を入れているのはなぜですか?
柿沼:重さですね。ミッション側、ノブが生えてるミッション側に、ノブの動きに対する荷重特性みたいのが下で決まるんですけど、その荷重特性とその、要するに振り子ですよね。振り子の先っぽの重さが違うと全然、なんていうかな、シフトフィールが全然が違うんです。
MF:それはグラム単位ですよね。2g変わったら相当変わる世界ですか。
柿沼:先ほどの資料にも出ているんですが、いみじくも昔のチタン製のノブっていうのは、チタンの比重が重く、熱伝導率が低いという長所があるんです。チタンとアルミって、価格がね、数倍も違うんです。
MF:ほぅ。そんなに違うんですね。
(編集部注:アルミの比重は2.7(鉄の3分の1)に対してチタンの比重は4.5。熱伝導率はアルミが0.49に対してチタンは0.041)
柿沼:チタンに戻るって、なかなか(コスト的に)ハードルが高いですからね。
MF:チタン製だとオプションでウン万円、みたいなことになっちゃうんですね。
柿沼:チタンの良さのひとつに、熱伝導率が低い、っていうことがあるんですよ。アルミの熱伝導率は高いので炎天下の真夏に触ると熱い! 真冬に触ると、冷た! でしょ。それはアルミの熱伝導率が高いから。すぐに周りの温度になっちゃう。でも、チタンは熱伝導率が低いんで、なかなか温度が上がり下がりが鈍いんですね、そこもチタンのいいところ。ほかにも、コストの問題で無理だけど、チタンが持っている特性のひとつに比重によるウエイトがアルミより重い、っていうのもあるんですね。そこの良さを今回の(開発の)なかに、ノブの変更のなかに採り入れたくて、わざわざアルミの中に鉄芯を入れたんです。
MF:あとステアリングもアルカンターラを使用して、しかも3枚重ねにしてますね。
柿沼:まぁまぁ、構造上そうですね。いままでは芯鉄に対して1枚ぺろっと本革を巻いていたのですが、アルカンターラはそのまま巻くと本革の半分くらいの厚みになってしまうんですよ。一回、1枚だけで巻いてみたんですが、細くなっちゃった。「ちょっと細い!」って。「細いから、厚くしろ!」って言ったらアルカンターラ社から「いや、厚くできません」って言われちゃった。でも、芯鉄太くしたら、それはフルモデルチェンジの開発になっちゃうんで、それもできない。どうしよう?アルカンターラにしたいのに、細くなっちゃって頼りないステアリングになっちゃったら嫌だ! ってなりました。で、「何か考えろ」って言ったら、「こういう手はどうでしょう」って出されたのが、内側にもう2枚巻くっていう手法でした。
MF:さすがに、裏に巻くやつは別素材ですよね。
柿沼:はい。材料はアルカンターラ表皮ではないですけど、通常、アルカンターラは1枚しか巻かないので。裏に2枚巻いて径を合わせた。そうしたら、副次的に「あれ、ちょっと弾力性が上がるじゃん」って。例えばバックスキンって、陽に当たったりすると固くなってガチガチになって触感が固いな、っていうのが多いじゃないですか。そうなるのも嫌だったんですよ。なんかこう、バックスキンの良さと手の収まりとかカスカス感みたいなのがないようにしたかった。
MF:アルカンターラの耐久性はやっぱり強いほうですか。
柿沼:磨耗は、そうですね。ただ、やっぱり、どうしても起毛タイプなので本革製よりは……。でも、起毛タイプは濡らして固く絞ったウェスでお手入れしてあげたら、寝ちゃった毛が起きて結構復活するんですよ。
MF:そうなんですね。あぁ、確かにさっきステアリング握ったとき、すごく握りがよかったんですよね。
柿沼:でしょ! でしょ!
MF:本当にびっくりするくらい。また、先ほど竹内さん(シャシー設計開発担当・竹内治氏)に、なんか前よりも女性が乗ってもイケる車両になった気がするってお話をさせていただいていたんですよ。
柿沼:いや、前のもイケますよ(笑)!
MF:違うんです。何年か前なんですけど(2017年モデル)、乗って座ってハンドルを握った感じが、まだ動かしてもいないうちからちょっと無理! って。
柿沼:ああ、硬質感の問題かな。
MF:そうそう。で、それが今回びっくりするくらい、「なんかいいな」と感じました。
柿沼:それは本革巻のカチカチのと、まん丸のレーシーすぎる(ノブ)、ねぇ。
MF:今回はイイトコ獲りな気がしますよ。
柿沼:それは本能っていうか、考えて感じることじゃなくて、反射的に感じるようなところだと思う。
MF:そう! 座った瞬間「あ、走りたい」って思いましたもん。あ、ドライビング技術があれば、です。すみません。
柿沼:技術がなくても大丈夫ですよ!
MF:ありがとうございました。
会話末に(笑)と入れるとすべてに書かねばならなくなるので割愛したが、笑い声がやまないインタビューで、開発される皆さんがクルマをどれほど愛し、楽しんで作り上げたかがわかる時間となった。
発売はベースグレードのタイプR が夏頃、Limited Editionが秋頃を予定しているという。ぜひ、ディーラーへ足を運んで、実車に触れてみてほしい。Limited Editionに関しては実車に触れる機会はないかもしれないが、 タイプRでも充分にその想いは感じていただけるはずだ。
そしてつい、口にしてしまうに違いない。「タイプRでいいので、サンライトイエローⅡにしていただけませんか」と。カラーチューンという意味ではない。それほどまでに想いを共有したいクルマがホンダから出たことを、うれしく思えた。