東京モーターショー2019で「ハスラーコンセプト」として参考出品された新型二代目スズキ・ハスラーが、初代発表のちょうど6年後にあたる2019年12月24日に正式デビュー。2020年1月20日より販売が開始された。今回試乗したのは、新開発のR06D型NA(自然吸気)エンジンを搭載する上級グレード「ハイブリッドX」FF車と、R06A型ターボエンジンを搭載する最上級グレード「ハイブリッドXターボ」4WD車。千葉県・幕張メッセ周辺の一般道と高速道路で、モーターファン・イラストレーテッド(MFi)誌の野崎博史編集長とともに、運転席と後席を随時交代しながら試乗した。なお当日は、真冬ながら土砂降りの雨が降っていた。




REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)


PHOTO●遠藤正賢/MFi/スズキ/ヘンケルジャパン

初代スズキ・ハスラーワンダラー

 ハスラーといえばやはりそのレトロモダンな、かつ色やドレスアップの仕方次第でマッチョにもフェミニンにも化ける、懐の深いクロスオーバースタイルが最大のセールスポイントだろう。新型にもその路線は色濃く踏襲されているが、筆者の第一印象はキープコンセプトどころかむしろ「随分タフさを強調する方向に振ったな」というものだった。

新型スズキ・ハスラーのサイドビュー

 スズキの開発陣によれば、これは「アウトドアアイテムがこの6年間でファッションアイテムとして日常生活に溶け込んだというトレンドを反映したもの」。初代と並べて比較するとよく分かるが、ボディ形状もウィンドウグラフィックも、フェンダーアーチをはじめとした各部品のディテール処理も、何もかもが四角く、タフなものになった。そして、「新設されたリヤクォーターウィンドウを強調しつつ、ハードトップ車のテイストを盛り込んだ」という2トーンカラーではより顕著に、ジープ・ラングラーを思わせるサイドビューになった。

3連インパネカラーガーニッシュを採用した新型ハスラーの運転席まわり

 そんなエクステリアとは対照的に、インテリアは既存のあらゆるクルマにも似ていない、文字通りオンリーワンの世界に生まれ変わった。中でもメーター、オーディオ、アッパーボックスを囲んだ3連インパネカラーガーニッシュのインパクトは絶大で、東京モーターショーでも「なんだこれ!?」と驚く一般来場者が一人や二人どころの騒ぎではなかったのを、今でもよく覚えている。




 またこのおかげで、走行中に周辺のスイッチ類やエアコン吹出口を確認・操作しようとする際、どこに何があるのかが非常に把握しやすくなっている。デザインのためのデザインに堕することなく、機能を体現したデザインになっている辺り、スズキのインテリアデザイナーの高い力量を感じずにはいられない。…カラーパネル以外の質感が相変わらず低いのは玉に瑕だが。

リヤシートはヒップポイントが高まったことでホールド性も改善
フロントシートはベンチシートからセパレートシートに変更


 また、ホイールベースを35mm延長し、全高を15mm拡大したのに加え、各部のピラーが前後方向にも左右方向にも立てられ、より四角いボディ形状となったおかげで、初代も充分に広かった視界と室内空間はより一層広大になった。同時に前席のヒップポイントを下げて上方視界を0.5°拡大し、乗降性と信号の視認性を改善。後席のヒップポイントを逆に5mm上げて見晴らしを良くしつつホールド性を高めているのも「技あり」だ。

使い勝手がさらに進化したラゲッジルーム
取り外せて丸洗いできるラゲッジアンダーボックス


 荷室は初代に続き防汚タイプで、後席を倒せばほぼフラットになるという美点も継承されている。新型ではさらに、後席の前後スライドを荷室側からもできるようになり、取り外せて丸洗いできるラゲッジアンダーボックスが全車標準装備されたため、使い勝手はさらにアップしている。

「ハーテクト」のアンダーフロア
新型ハスラーのカットボディ。オレンジの線は構造用接着剤使用部位


 そして、デザイン以上に大きく変わったのが、メカニズムだ。




 初代ハスラーはスズキのFF車系軽自動車で最後の旧世代プラットフォーム採用車だったが、これが新世代の「ハーテクト」に一新された。と同時に、スズキ初となる構造用接着剤をBピラー付け根やリヤホイールハウス周りに用いながら、A&Bピラー、バックドア開口部の結合を滑らかにして環状骨格構造を形成。ねじり剛性を約30%、曲げ剛性を約20%高めつつボディ全体の連続性も強化した。

従来のマスチックシーラー(左)と「テロソンHDF」(右)とのルーフ振動分布比較図

 加えて、ルーフパネルとルーフクロスメンバーとの接合に、軽自動車で初めて「高減衰マスチックシーラー」を採用した。これはヘンケルのゴム系接着剤「テロソンHDF(High Dumping Form)」で、素材内部のせん断応力を熱エネルギーに変換する効率が従来品よりも高く、こもり音の低減に有効なうえ、制振パッドなどの併用が不要かつ振動が伝播しやすい薄引き鋼板を骨格に使用可能となるため、軽量化にも寄与するという。




 そのほか、直線的で衝突時の入力を流しにくいピラー形状に合わせ、A&Bピラーに1180MPa級の冷間成形鋼板を用いて必要な強度を確保。かつ980MPa級鋼板の使用比率を初代の7%から15.6%にまで高め、ドアパネルなどを省いたボディ単体で約4kg軽量化している。

 これらの効果は、良くも悪くも、走り始めてすぐに体感できる。細かな凹凸を乗り上げた際に姿勢変化を減衰するのが素早く、操舵に対する応答性とリニアリティは初代と比較にならないほど改善された。また粗粒路ではルーフからのこもり音が少なく、前後席間で会話しやすくなっているのを体感できた。

テスト車はNA・ターボ車とも165/60R15 77Hのダンロップ・エナセーブEC300+を装着

 しかしながら、ボディが従来の「ハーテクト」より大幅に剛性アップしたのに対し、サスペンションは他の「ハーテクト」採用車種と基本的に変わっていない。従来はボディが逃がしていた分の入力が逃げなくなったためか、高速域や大きな凹凸を乗り越えた際はサスペンションがバタつき、乗り心地は見る見る悪化。挙動も不安定になりやすい傾向にある。

ターボ4WD車のアイソレーテッド・トレーリング・リンク式リヤサスペンション

 また、リヤサスペンションがトーションビーム式のFF車、同じく「アイソレーテッド・トレーリング・リンク」と呼ぶフルトレーリングアーム式を採用する4WD車とも、リヤ両輪が同時に凹凸を通過するような状況で、特に後席では突き上げが非常に強い。しかも、、ルーフのこもり音が抑えられたことで、後席ではホイールハウスからのロードノイズやスプラッシュノイズ、運転席では高速域での風切り音が目立つようになっていた。




 端的に言えば、初代ハスラーよりは進化していても、これまでの「ハーテクト」採用車種と比べると、新技術の採用によってむしろバランスが崩れてしまっている。開発陣によれば、これらの技術は当初の予定より前倒しで投入されたようだが、これでは他の部位とのバランスを取る時間もコストもなかったのだろうと邪推せざるを得ない。

新開発のR06D型NAエンジン

 では、ターボエンジン以外は全面的に改良された、パワートレインはどうか。




 NAエンジンは新開発の「R06D」型となり、スズキの軽自動車では初めてデュアルインジェクションシステムとクールドEGRを採用。従来のR06A型に対しシリンダーブロック高やボアピッチ、バルブ挟み角などを維持して混流生産やエンジンルーム高の低い車種への搭載にも対応しつつ、ボア×ストロークを64.0×68.2mmから61.5×3.8mmに変更し、圧縮比を11.5から12.0へ高めている。

新型ハスラー全車に搭載されたアイシン・エイ・ダブリュ製CVT

 またCVTは全車とも、副変速機付きのジヤトコ製からアイシン・エイ・ダブリュ製に変更。現行スペーシアのものをベースとしながら、オイルポンプを低圧と高圧の2系統に分けることでポンピングロスを、ベルトエレメントの形状を見直すことでフリクションロスを低減。副変速機の省略などにより約7kg軽量化する一方、変速比幅は5.6から6.5へとむしろ広がった。

マイルドハイブリッドのリチウムイオンバッテリーは助手席下に搭載

 全車に搭載されることとなったマイルドハイブリッドも、ISG(Integrated Starter Generator)の最高出力を従来の全車1.6kWから、NA車は1.9kW、ターボ車は2.3kWにアップ。リチウムイオンバッテリーの充放電効率も改善して、モーターアシスト可能な速度域を85km/hから100km/hにまで拡大している。




 そのほか、ターボ車にはモーターアシストトルク増大などの制御変更を行う「パワーモード」、4WD車には発進時のエンジン出力を抑えるとともにブレーキ制御も併用する「スノーモード」が追加された。

エンジン・CVT・マイルドハイブリッドの協調制御イメージ

 このように、パワートレインはほぼ別物になっているにも関わらず、すでに完成の域にあると言っていい。初代ハスラーはモーターアシストの有無で落差が激しかったが、大柄な男性二人が乗車しても、エンジンのみの領域でもNA・ターボ車問わず加速はスムーズ。逆にアシストが入っても、それを分かりやすく体感させる過剰演出は影を潜めた。これはエンジン、CVT、マイルドハイブリッドの協調制御が進化し、CVTが変速する際のラバーバンドフィールをモーターアシストが適切に補うようになったことも功を奏しているのだろう。




 ただし高速道路では、NA車は90km/h付近を境に「空気の壁を感じる」(野崎編集長)ほど加速が鈍化。初代ハスラーと比較しても、3ps&5Nm低い最高出力&最大トルクの数値以上に追い越し加速が苦しく感じられた。これはWLTCモード対応と実用燃費向上を主眼として低中回転域重視の設計になったエンジンのみならず、各部のコーナー形状が工夫されつつもスクエアになったボディ形状も、大きく影響している可能性がある。

R06A型エンジンを踏襲するターボ4WD車のエンジンルーム

 なお、ターボ4WD車では、こうした高速域での苦しさは皆無。「パワーモード」を選ばずとも、充分に力強い加速を得ることができた。「パワーモード」はむしろ、800kg超の車重に対し絶対的なポテンシャルがどうしても足りないNA車にこそ、高速道路での合流・追い越し加速などの際に欲しいのだが、このモードがターボ車にしか用意されないことには大いに疑問を呈したい。

「デュアルカメラブレーキサポート」のステレオカメラ

 新型ハスラーではADAS(先進運転支援システム)「スズキセーフティサポート」も進化した。「デュアルカメラブレーキサポート」が標識や夜間の歩行者も検知可能になるとともに、後退時衝突被害軽減ブレーキ機能が追加。ターボ車にはさらに、スズキの軽自動車では初めて、全車速追従アダプティブクルーズコントロール(ACC)と車線逸脱抑制機能(LKA)が標準装備されている。




 このうちACCとLKAを高速道路で試したが、ACCは従来のスズキ車より加速制御がスムーズになったものの、依然として車間距離は取り過ぎ、減速制御も若干ラフな傾向にある。だが、使用するとかえって危険というほどではなく、疲労軽減と事故防止には一定の効果があると思われるだけに、特に疲労軽減の観点からはNA車にこそむしろ標準装備してほしい所だ。




 またLKAは警告・操舵アシストとも、介入のタイミングが遅く感じられた。しかしそれ以前に、他の軽自動車メーカーが車線中央を維持するレーントレースアシスト(LTA)を投入しているのに対し、スズキだけいまだにLKAに留まっているということ自体、寂しい話ではある。




 デザインや使い勝手のみならず走りも大幅に進化した新型ハスラーだが、技術面ではその使い所も含めて煮詰め不足が散見される。とはいえここから熟成が進めば、ハスラーや今後デビューする新しい軽自動車が、今やベンチマークとなっている最新世代のホンダ「N」シリーズに肉薄し追い越す可能性は決して低くない。その日が訪れることを心から期待している。

新型スズキ・ハスラー ハイブリッドXターボ

【Specifications】


<スズキ・ハスラー ハイブリッドX(FF・CVT)>


全長×全幅×全高:3395×1475×1680mm ホイールベース:2460mm 車両重量:820kg エンジン形式:直列3気筒DOHC 排気量:657cc ボア×ストローク:61.5×73.8mm 圧縮比:12.0 エンジン最高出力:36kW(49ps)/6500rpm エンジン最大トルク:58Nm(5.9kgm)/5000rpm モーター最高出力:1.9kW(2.6ps)/1500rpm モーター最大トルク:40Nm(4.1kgm)/100rpm WLTC総合モード燃費:25.0km/L 車両価格:151万8000円




<スズキ・ハスラー ハイブリッドXターボ(4WD・CVT)>


全長×全幅×全高:3395×1475×1680mm ホイールベース:2460mm 車両重量:830kg エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ 排気量:658cc ボア×ストローク:64.0×68.2mm 圧縮比:9.1 エンジン最高出力:47kW(64ps)/6000rpm エンジン最大トルク:98Nm(10.0kgm)/3000rpm モーター最高出力:2.3kW(3.1ps)/1000rpm モーター最大トルク:50Nm(5.1kgm)/100rpm WLTC総合モード燃費:22.6km/L 車両価格:174万6800円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 ハスラーに採用されたスズキ初の構造用接着剤と軽自動車初の高減衰マスチックシーラーはどんな効果をもたらすのか?