往年のアルピーヌA110をモチーフとしてその現代版となるべく登場したその名もA110に早くも高出力バージョンとなるA110Sが登場した。ポルトガルのエストリルサーキットで島下泰久が試した。




REPORT◉島下泰久(SHIMASHITA Yasuhisa)


PHOTO◉ALPINE




※本記事は『GENROQ』2020年1月号の記事を再編集・再構成したものです。

 試乗の舞台はエストリルサーキットとその周辺の一般道。それだけ書けば皆さん、このクルマの狙いは容易に想像できることだろう。




 アルピーヌA110Sは、週末などのサーキット走行を楽しむようなユーザーに向けて開発された。とは言え、レーシングカーにナンバーを付けたような代物ではなく、軸足はあくまで一般道での日常使いに置きつつ、より高い速度域に於けるより正確なハンドリング、速いコーナリングスピードを目指したモデルだ。




 外観上の変更点はわずか。トリコロールに代わって各部にCFRPがあしらわれ、ブレンボ製大径ブレーキはキャリパーがオレンジに塗られる。2㎏弱の軽量化をもたらすCFRP製ルーフ、4輪で5㎏軽いフックス製鍛造ホイールも用意された。




 インテリアはディナミカと呼ばれるシンセティックレザーとCFRP、オレンジのアクセントでまとめられている。シートはサベルト製の軽量タイプである。




 もちろん重要なのは中身だ。まず1.8ℓターボエンジンはブーストアップにより最高出力を40㎰増の292㎰に高めている。320Nmの最大トルクは不変ながら、発生回転数はA110の2000rpmから2000〜6400rpmへと大幅に広げられた。トランスミッションは7速DCTで変更は無い。




 シャシーは、ピュア/リネージ用より前後とも10㎜ずつ幅広且つ専用の構造とコンパウンドを持つミシュランPS4に合わせて見直されている。前後のスプリングは約50%、アンチロールバーは100%もハードに。それに合わせてハイドロリック・コンプレッション・ストップを用いたダンパーの減衰力、ESCのセッティングも見直されている。




 まず一般道での試乗で、まず心を掴んだのがエンジンだ。トルクバンドが広がったことで全域でアクセル操作に対するツキが良くなり、走りの一体感、そして軽快感が格段に高まっているのである。個人的なA110への数少ない不満が、これで解消されたと言っていい。

高出力化とともにミシュラン・パイロットスポーツ4もコンパウンドや構造が改められた。車高が低められ、さらに低重心となった。

 乗り心地は確かに引き締まった感触だが、ゴツゴツするようなものではなく十分に快適。ただし、CFRP製ルーフとフックス製鍛造ホイールを組み合わせた仕様は、操舵応答の立ち上がりがやや緩く、突き上げのカドがやや鋭角だった。開発メンバーに聞くと、マッチングテストは入念に行われており、おそらくサーキットで酷使された個体だったが故の問題ではないかということだった。




 実際、別の個体で臨んだサーキットでは走りには何も文句をつけるところは無く、思い切り走りを満喫でした。ポイントは、リヤのスタビリティが大幅に高められこと。けれど徹底的な安定志向というわけではなく、滑らせるのも止めるのも意のままという感覚に躾けられている。




 快感なのは、ほんのわずかにリヤを滑らせながらの気持ちの良いニュートラルステアでターンインできる低中速コーナー。その先でテールスライドが起きても挙動変化は漸進的で、急な動きの気配に不安になることは無い。それでは高速コーナーはと言えば、こちらも安心感は絶大。空力の影響もあるのか、むしろ踏んでいった方が安定するかのようだ。




 エンジンパワーは、まさにちょうど良いところにある。全域で欲しい時にすぐさま力が得られるし、トップエンドまで回しきれば切れ味鋭い吹け上がり、迫力のパワーの伸びを味わえる。足りなくはないが持て余すことも無く、使い切る、踏み切る歓びを堪能できるのである。




 A110Sは確かにパワーがあり、価格も高いのだが、クルマとしては上位モデルというより、むしろピュアやリネージとは別の楽しさ、個性をもち、A110というスポーツカーの世界を押し広げる存在だと見るべきだろう。これまですでに400台以上がデリバリーされたという新生アルピーヌにとって世界でも3番目の市場である日本には、早ければ今年のうちに上陸するとのことだ。

インテリアトリムはオレンジのステッチが印象的なディナミカと呼ばれる意匠で統一される。ステアリングの12時の位置のマークもオレンジだ。


SPECIFICATIONS アルピーヌA110S


■ボディサイズ:全長4180×全幅1798×全高1248㎜ ホイールベース:2419㎜


■車両重量(DIN):1114㎏


■エンジン:直列4気筒DOHCターボ 総排気量:1798㏄ 最高出力:215kW(292㎰)/6400rpm 最大トルク:320Nm(32.6㎏m)/2000~6400rpm


■トランスミッション:7速DCT


■駆動方式:RWD


■サスペンション形式:Ⓕ&Ⓡダブルウイッシュボーン


■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク


■タイヤサイズ:Ⓕ215/40R18 Ⓡ245/40R18


■パフォーマンス 0→100㎞/h加速:4.4秒 最高速度:260㎞/h 


■環境性能 CO2排出量(NEDC):146g/㎞


■車両本体価格:899万円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 Alpine A110S試乗記 エストリルサーキットで堪能した使い切れるミッドシップスポーツカー