REPORT◉田中哲也(TANAKA Tetsuya)
PHOTO◉益田和久(MASUDA Kazuhisa)
※本記事は『GENROQ』2020年1月号の記事を再編集・再構成したものです。
現行型M5コンペティション(M5もそうだが)でサーキットを走るのは僕にとって今回が初めての体験だった。一般道でさえ現行型では走ったことがないのだ。
2018年に登場した6代目M5はMモデルのセダンで初めて4WDを採用したモデルだ。M5コンペティションに採用されるM専用の「Mxドライブ」がどのような走行性能を味わわせてくれるのか、非常に興味深かった。
まず走行前にM5コンペティションの複雑な走行モードを予習する。
色々と試してみたが、今回は後輪の駆動トルク配分が増加し、リヤホイールのスリップ許容量が大きくなるMダイナミックモード(MDM+4WDスポーツ)とDSCオフ+4WDスポーツモード、後輪駆動となるDSCオフ+2WDモードの3つの走行モードをチョイスしながら走行することにした。
さあいよいよコースインだ。
まずは搭載される4.4ℓV8ツインターボエンジンに惚れ惚れした。M5より25㎰高められた625㎰の出力、レスポンス、サウンドのどれをとっても「M」だけが持つアイデンティティに溢れている。
実に刺激的なエンジンだ。サーキット走行に適したパワー、そして気分を高揚させる獰猛なエンジンサウンドの演出も素晴らしい。中でもエンジンレスポンスが素晴らしく、ターボであるということを走行中に忘れてしまうレベルである。
ストレートスピードも250㎞/hオーバーを記録したので、リアルワールドでの速さも十分だ。
気になるM5コンペティションのサーキットでの振る舞いだが、先述した走行モードのチョイスによって様々な挙動の変化を体験できるのがとてもユニークだった。
基本的にM5コンペティションはアンダーステア傾向にはなりづらい。しかしDSCオフ+2WDで走った場合、リヤのスライドが少し大きいというFRならではの特性が味わえる。これは従来のM5の特性が継承されているのだろう。
腕に自信のある方はDSCオフ+2WDで走ると、リヤを積極的にコントロールしながらハイパワーFRならではの挙動を楽しめるだろう。
一方、走行モードを4WDに変更した途端、M5コンペティションの走りは大きく変化する。4WDがいかに安定しているか、そしてその安定性がサーキットでの速さに繋がることを痛感するのだ。
特に違いが出るのがコーナーの出口でパワーを掛けていくシーンだ。2WDではリヤがスライドして高度なステアワークが必要だが、4WDではリヤがスライドすることなくクルマは前に進んでいく。ドライバーがコントロールする仕事は圧倒的に少なく、簡単にトラクションを掛けて走ることができる。つまりタイムに直結する挙動に変化するのである。
そして4WDモードの中でもMダイナミックモードはマシンバランスがよりニュートラルになり、楽にタイムを出すことが可能になる。マシンバランスとトラクションの掛かり具合が素晴らしく、不自然な挙動は一切顔を出さない。とにかく走りやすいのだ。
だが、ダンロップからデグナー、ヘアピンからスプーンなどのハイスピードで加速していくコーナーではDSCの介入が少し過剰で、加速が鈍く感じる。この2つのコーナー以外は非常にバランスがよかった。
一方、DSCオフ+4WDスポーツモードはDSCの介入が一切ないため、ハイスピードコーナーでも車速が伸びる。鈴鹿ではDSCオフ+4WDスポーツモードの方がラップタイムは期待できるだろう。
M5コンペティションはこのように通常の4WD、DSCオフ時の2WD/4WDスポーツなど様々な走行モードが1台で楽しめる稀有なモデルだ。僕が今まで乗ったクルマの中で走行モードによる挙動の変化の差が最も大きく、本当にワクワクするクルマだった。
4WDでタイムを狙うも可、2WDでドリフトを楽しむも可。スイッチひとつで異なる走りを楽しめる、そんなクルマは唯一無二だろう。
SPECIFICATIONS BMW M5コンペティション
■ボディサイズ:全長4965×全幅1905×全高1480㎜ ホイールベース:2980㎜
■車両重量:1950㎏
■エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ 総排気量:4394㏄ 最高出力:460kW(625㎰)/6000rpm 最大トルク:750Nm(76.5㎏m)/1800~5860rpm
■トランスミッション:8速DCT
■駆動方式:AWD
■サスペンション形式:ⒻダブルウイッシュボーンⓇマルチリンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ:Ⓕ275/35ZR20Ⓡ285/35ZR20
■車両本体価格:1858万円