REPORT◉田中哲也(TANAKA Tetsuya)
PHOTO◉益田和久(MASUDA Kazuhisa)
※本記事は『GENROQ』2020年1月号の記事を再編集・再構成したものです。
AMG GT4ドアクーペのフラッグシップたるGT63Sを鈴鹿のピットで初めて見たとき、その迫力に圧倒された。AMGであることを誇らしげに語る巨大なパナメリカーナグリル、流麗なクーペラインを描く全長5050㎜の大柄ボディ……そのオーラは凄まじかった。
外観だけでなく搭載される4ℓV8ツインターボのエンジンパワーも639㎰/900Nmと強烈だ。だがその一方で気になるのは車重が2tオーバーとヘビー級なことだ。GT63Sは鈴鹿でどのような走りを披露してくれるのだろうか?
コースインを終え、ゆっくり慣熟走行していると、メーター画面内に、タイヤの空気圧と温度が表示されていることに気がついた。どうやらフロントタイヤのほうが温まるのが早いようだ。
GT63Sには4WSの「AMGリアアクスルステアリング」が採用されているが、その効果は如実に表れた。ヘアピンコーナーではリヤがすっと軽くスライドして、綺麗にマシンの向きを変えてくれる。そして速度の高まるスプーンコーナーではクルマの向きがスッと変わるというより、リヤがしっかりとグリップし、安定したコーナリングを楽しむことができた。
さてタイヤが温まったので全開走行だ!
まずシケインからの立ち上がりでは、4WDのトラクションの良さと900Nmというエンジントルクの凄まじさを体感した。2150㎏もの重さを感じさせないほどの圧倒的な加速で、最終コーナーを全開で駆け抜けていく。AMGスピードシフトMCTのシフトアップは一瞬で行われ、ストレートでは250㎞/hの速度に達した。
AMGがチューニングを施したM177型4ℓV8ツインターボエンジンは素晴らしくパワフルでトルキーだ。レスポンスも抜群でアクセルを踏めばどこからでも反応するので、とても扱いやすくドライバビリティがよい。フルタイム4WDは立ち上がりのトラクションが素晴らしくて、パワフルなエンジンの性能をフルに発揮させてくれる。
さすがに1コーナーではブレーキング時に車重の影響が出てしまったが、安定感やブレーキ性能はとても高いレベルでまとめられている。ダンロップからデグナーまでの高速コーナーでは、その強烈なパワーによる高い車速と重さによる慣性からアンダーステアが強いのが気になった。
デグナーをクリアしてヘアピン、ここでは想像よりはるかによく曲がりトラクションの掛かりもグッド。そして鈴鹿の名物である130Rは車重ゆえにアンダーステアが出るものの、ミシュラン・パイロットスポーツ4Sを装着したフロントタイヤの接地感が高く、安定したコーナリングを披露してくれた。車重こそ重いが、エンジンパワーがもたらすストレートの速さと4WSの効果により、安定感は高いと言えるだろう。
特筆すべきはGT63Sのモニターにはラップタイムを計測する機能が装備されていたことだ。ベストタイムと走行中のタイムを比較してくれるので、まるでレース中のような気分を味わわせてくれる。これはサーキットを走るユーザーにとっては嬉しい機能だろう。
先述したタイヤのマネージメントも含めてサーキットでドライバーが必要とする情報をしっかりと伝えてくれているのは素晴らしい。まさにAMGの良心と哲学を垣間見た気がした。
ちなみにタイムアタックは行わなかったが、ラップタイムは2分25秒程度を記録した。2tオーバーの車重を考えると、これはとても高いポテンシャルと言えるだろう。
走行前は重い車重を考えると鈴鹿サーキットで本来のパフォーマンスを発揮できるのか、不安だったがそれは杞憂に終わった。途方も無いパワーを安定感のあるフルタイム4WDが支え、サーキットでも安定した速さを見せつけた。2tオーバーのGT63Sをコントロール下におき、鈴鹿を攻めるのはなんとも不思議で楽しい体験であった。
SPECIFICATIONS メルセデスAMG GT 63 S 4マティック+
■ボディサイズ:全長5050×全幅1955×全高1445㎜ ホイールベース:2950㎜
■車両重量:2150㎏
■エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ 総排気量:3982㏄ 最高出力:470kW(639㎰)/5500~6500rpm 最大トルク:900Nm(91.8㎏m)/2500~4500rpm
■トランスミッション:9速AT
■駆動方式:AWD
■サスペンション形式:Ⓕ4リンク Ⓡマルチリンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ:Ⓕ265/40R20 Ⓡ295/35R20
■環境性能(WLTCモード) 燃料消費率:7.7㎞/ℓ
■車両本体価格:2397万円