REPORT●青木タカオ(AOKI Takao) PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
激戦区となっている110〜125ccスクーター市場は現在、30万円超えのアッパーモデルとリーズナブルな20万円台前半のモデルがそれぞれ設定され、各社凌ぎを削っています。ホンダなら「PCX」や「リード125」、ヤマハなら「シグナスX」や「NMAX」などが前者、後者はホンダ「Dio110」やヤマハ「アクシスZ」という顔ぶれです。
スズキは「アドレス110」「アドレス125」という強力な2枚看板を後者に持ちますが、30万円超えのアッパーモデルという点では長らく不在でした。そこで2018年6月に発売されたのが、新開発125ccスクーター「SWISH(スウィッシュ)」です。
スズキ・スポーツモデル共通イメージの縦2灯LEDヘッドライトやフル液晶ディスプレイを用いたメーターなど、ライバル勢にひけをとらない装備を持ち、エッジの効いたスタイルも上質でスポーティなもの。アルミキャストホイール採用の足まわりは前後10インチで、力強い加速と優れた燃費性能を両立する「SEP(SUZUKI Eco Performance)」エンジンを搭載します。
冬場も快適に走れるようグリップヒーターやシートヒーター、ナックルバイザーを標準装備するのが「SWISH LIMITED(スウィッシュリミテッド)」。かつてアドレスにあった“リミテッド”仕様ですが、現行ではスウィッシュに設定されているのです。
指先の冷たさを和らげるグリップヒーターは、寒い季節にとてもありがたいもの。後付けより標準装備されている方がやはりキレイでスマートだと、リミテッドを指名買いする人はアドレスV125時代から少なくなりません。5段階の温度調整ができるほか、OFFも選択可能となっています。
手に当たる風をブロックし、グリップヒーターの温熱効果も高めるナックルバイザーも新車時より標準装備。また、シート座面下にはヒーターユニットが内蔵され、スイッチを入れれば冬でもお尻が暖かくなるのは、ありがたいとしか言いようがありません。シートヒーターはサーモスタットによる自動温度制御により、一定の温度を保ち過熱を抑止。グローブをしたままでも操作しやすいスイッチを、ハンドル右に備えます。
全長1830mm、全幅740mm、全高1095mmの車体サイズは、1925×745×1105mmのPCX(前後14インチ)や1900×685×1135mmのアドレス125(フロント12/リヤ10インチ)よりひとまわりコンパクトですが、前後12インチのシグナスX(1890×690×1120mm)に近いゆったりとした感覚で、足を投げ出せる余裕あるフットスペースはフラットで、広々としています。
ライディングポジションに窮屈さはなく、身長175cmの筆者の場合、ジャストフィットと言えるでしょう。シート高は770mmで、両足を出してもカカトまで地面に届きます。左右の足もと付近が絞り込まれるようにカットされたフロアボードが、足着き性の良さをさらに向上させました。
乗ると前後10インチならではの取り回しの良さや身のこなしの軽さが際立ちます。LEDヘッドライトやフル液晶デジタルメーターを備えた上級モデルとしながら、車体はあえて大型化せずあくまでもコンパクト。原2スクーターはこうあるべきというスズキの強い姿勢を感じます。
ちなみにチーフエンジニアの説明によると、スウィッシュという車名は英語の擬態語で、日本語で表現するなら「シュシュッ」であったり「ヒュッ」という音。素早い身のこなしや風を切って動く様、スマートさ、お洒落を表現しています。
都会での機敏な走りという点では大径ホイールより優位な前後10インチですが、「高速域で不安定」というユーザーの意見に耳を傾け、スウィッシュではタイヤ幅を太めの100mmサイズとし、高い接地性を確保しました。フロントフォークのインナーチューブ径はアドレスより太い33mmとし、フレームもより高い剛性を確保。軽快性と安定感を高次元で両立しているのでした。
SEPエンジンは燃費性に優れる(WMTCモード50.1km/L)だけでなく発進加速に優れています。開発陣の比較走行テストでは「アドレス125」や「アドレスV125S」に対し、発進で0.1秒、30km/h追い抜きで0.3秒短縮。0→15m付近のダッシュは同等ながら20m付近から両車を引き離し、中間加速でも上回り、街乗りでのより軽快な走りを実現しています。
また、ガソリンタンクをフロアボード下に配置し、低重心化を実現するとともにシート下の収納スペース(容量28L)を大きく設定。フロントインナーレッグに燃料給油口を設け、メインスイッチによりワンアクションでオープンできる構造もありがたいところです。
給油時にシートからライダーが降りる必要がなく、キーを抜いてキャップにさし込むという手間もありませんし、キャップを外してどこかに置くというアクションも不要としています。
また、インナーポケット上、イグニッションスイッチ横の使いやすい場所にUSB電源ソケットを装備し、スマートフォン等の充電に対応しているのも見逃せないグッドポイントです。
人気の原2スクータークラス。ラインナップを充実化するホンダやヤマハに対し、スズキは「スウィッシュ」と「アドレス」だけで対抗しますが、この布陣はじつに強力ではないでしょうか。現行ラインナップの立ち位置・キャラクターを以下に整理しました。
■アドレス110
荒れた路面にも対応する前後14インチで、軽量コンパクト、経済性に優れアセアンでも活躍します。
■アドレス125
フロント12インチでゆったりとした乗り心地。快適性と実用性を両立しています。
■先代アドレスV125S
前後10インチで、軽快な取り回し。
■スウィッシュ
アドレスV125Sに変わる前後10インチモデル。軽快、スタイリッシュ、便利なのに加え上質感もプラスされています。
■スウィッシュ リミテッド
冬も快適な豪華仕様。スズキ原2スクーターのフラッグシップと言えます。
いかがでしょうか。この守備範囲の広さと死角なき構え。原2スクーター選びの参考にしていただきたいと思いますが、今回乗った「スウィッシュ リミテッド」は間違いなく冬は最強。寒さに強い、これは通勤など日常の足としては欠かせぬ条件ではないでしょうか。
1灯ながら存在感のある大きさのLEDヘッドライト。両サイドをダクト形状とすることで、GSX-Rシリーズを源流とするスズキ・スポーツモデルを彷彿とさせるアグレシッブなフロントマスクとしています。
グリップを握る両腕を走行風から守るナックルバイザー。グリップヒーターの温熱効果を高めます。
5本スポークデザインの10インチ・アルミキャストホイールを装備。ブレーキは2ポットキャリパーと200mmローターの組み合わせ。
整然としたデザインの液晶デジタルメーター。多くの情報を表示しながらスマートで視認性が高い。
シートヒーターのスイッチはハンドル右に装備されています。
標準装備ならではの信頼性、取付けの美しさがあるグリップヒーター。スイッチは冬場に厚手のグローブをしたままでも操作しやすいプッシュボタン式を採用し、5段階の温度調節が可能です。
座面を温めるシートヒーターを標準装備し、寒い季節でも快適な走りを実現しました。
ヘルメットを収納しても、まだスペースに余裕のある大容量シート下トランクスペース。500mlペットボトル2本が入る広さのフロントインナーポケットもさらにあります。
多角断面のマフラーカバーもスポーティで、ボディとの一体感を高めています。
快適な乗り心地を実現するツインショックは3段階のスプリング調整が可能。力強い加速性能と優れた燃費性能を両立するSEP(SUZUKI Eco Performance)エンジンは、空冷単気筒124ccSOHC2バルブです。
LEDコンビネーションランプが精悍なリヤビューを演出。トップケースの追加装備を想定したリヤキャリアが標準装備されているのも嬉しいところです。
型式 2BJ-DV12B
全長 / 全幅 / 全高 1,830mm / 740mm / 1,095mm
軸間距離 / 最低地上高 1,250mm / 120mm
シート高 770mm
装備重量 ※1 115kg
燃料消費率 ※2 国土交通省届出値:定地燃費値 ※3 51.0km/L (60km/h) 2名乗車時
WMTCモード値 ※4 50.1km/L (クラス1) 1名乗車時
最小回転半径 2.0m
エンジン型式 / 弁方式 AF11・強制空冷・4サイクル・単気筒 / SOHC・2バルブ
総排気量 124cm3
最高出力 ※5 6.9kW 〈9.4PS〉 / 7,000rpm
最大トルク ※5 10N・m 〈1.0kgf・m〉 / 6,000rpm
燃料供給装置 フューエルインジェクションシステム
始動方式 セルフ式
潤滑油容量 0.8L
燃料タンク容量 5.5L
クラッチ形式 乾式自動遠心シュータイプ
変速機形式 Vベルト無段変速
フレーム形式 アンダーボーン
ブレーキ形式(前 / 後) 油圧式シングルディスク / 機械式リーディングトレーリング
タイヤサイズ(前 / 後) 100/90-10 56J / 100/90-10 56J
乗車定員 2名
排出ガス基準 平成28年国内排出ガス規制に対応