「ネオクラシック」あるいは「レトロモダン」などと呼ばれるセグメントが人気を博し、各メーカーから往年の名車をオマージュしたモデルがリリースされる昨今ですが、ずっと早くからそうしてきたのが「トライアンフ・ボンネビル」シリーズです。最新モデル「T120」に乗ってみます。




REPORT●青木タカオ(AOKI Takao) PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

メーカーを代表する由緒正しき名門

 バイクに詳しく、トライアンフの現行ラインナップを知る人は独創的なトリプルエンジンやMOTO2エンジン供給など、スーパースポーツからアドベンチャーまで多岐にわたる活躍をイメージするかと思いますが、昨今のモーターサイクル事情に明るくない人にも、そのブランド名は広く知れ渡っています。

 特に1950〜60年代の英国車全盛期を知る人には、トライアンフといえばすぐにピンと来るはず。北米市場進出を目指す日本メーカーがこぞってお手本にしたのが「ボンネビル」をはじめとしたブリティッシュスポーツだったのです。ジェームズ・ディーン、クリント・イーストウッド、スティーヴ・マックイーンといった銀幕のスターが乗ったことでも知られています。

 トライアンフは1956年、アメリカ・ユタ州ボンネビル・ソルトレイク・フラッツでの最高速アタックで、214マイル(時速約342.4km)を記録し高性能をアピールしました。その偉業を記念し、発売したのが1959年の「ボンネビルT120」。そう、最新モデルと同じネーミングなのです。

 つまり“ボンネビル”はトライアンフの由緒正しき血統であり、メーカーを代表するブランド。1990年に再スタートした新生トライアンフは3〜4気筒モデルしかありませんでしたが、2001年に伝統の空冷360度クランク・バーチカルツイン(DOHC4バルブ790cc)で「ボンネビル」を復活させます。

 まだ「ネオクラシック」や「レトロモダン」などという言葉がなかったときで、ジャンルを切り開いた立役者とも言えます。

Bonneville T120……1,550,000円(消費税10%込み)

 現行型「ボンネビルT120」は水冷1200cc化され、味わい深い270度クランクを採用しています。パラレルツインには空冷エンジンのような冷却フィンが刻まれ、キャブレターをインジェクション化したのは2007年でしたが、FIボディをキャブレター風のカバーで覆うというビンテージムードを崩さない配慮が細部にまであるのが見事としか言いようがありません。




パイプハンドル、2眼メーター、白いパイピングが施されたダブルシート、クロススポークホイール仕様としたスチール製リムのホイール、タンクのラバーパッド、フォークブーツ、左右2本出しのピーシューターマフラー、ルックスも限りなくクラシカル感が追求されています。

1200ccもの大排気量バイクとは思えぬ、ジャストフィットと言っていいサイズ感です。前傾すぎず起き上がりが強すぎず、自然なライディングポジションでゆったりとしています。

シート高は790mmで、身長175cmのライダーだと両足を出してもカカトまで地面に届き、足着き性に不安はありません。ハンドル幅も広すぎず、コンパクトな姿勢をとることも可能です。小柄な人も苦にしないでしょう。

ツインらしい鼓動もあって、味わい深さと現代的な走りが共存

スロットル・バイ・ワイヤによる電子制御で、エンジン出力を好みや状況によって切り替えられるパワーモードやトラクションコントロールを搭載し、懐古主義ではないことは乗るとすぐにわかります。




スロットル操作にリニアに反応し、鋭く加速してくれますし、吹け上がりも淀みなく滑らか。低回転域からトルクフルで、早めにシフトアップするとツインらしい鼓動も感じられ味わい深いのも魅力です。

キビキビした走りも持ち味

 またフロント18インチならではの、大らかさだけでなく手応えもしっかりとある安定感のあるハンドリング、そして適度にしなりインフォメーションの多いシャシーもライディングを面白くしています。剛性をしっかり確保しつつもガッチリし過ぎず、サスペンションがしなやかに動いて操りやすい。




 古き良き時代の味わい深さは現代によみがえって洗練されたスタイルにあるのだけでなく、テイスティなエンジンフィーリングにもしっかりと存在し、そのうえで現代的な安定感のあるスポーツライディングが楽しめます。現代のブリティッシュツインが、世界中で高評価を受けていることが頷けます。

トラディショナルな真円ヘッドライトは最新式のデイタイムランニングライト(DRL)で、ライトパターンは現代的。被視認性にも優れ、安全かつ省エネタイプです。

インナーチューブ径41mmのカートリッジ式フォークに、32本ワイヤースポークを組むスチール製リムをセット。磨くのも楽しそうです。

フロントブレーキは2ピストンキャリパーと310mmローターの組み合わせ。ダブルディスク仕様とし、制動力やタッチは申し分ありません。

伝統的でスタイリッシュな二眼メーターは、ギヤポジションセンサーや燃料計、平均燃費、瞬間燃費、トラクションコントロールのオフ設定など機能盛り沢山となっています。ライディングモードは「ROAD」と「RAIN」が選択可能です。

丸いミラー、TRIUMPHのロゴが刻まれたハンドルクランプ、緩やかな前傾姿勢をもたらすバーハンドル、オフセットされた給油口とつい触れたくなるタンクキャップ。ライダーは絶えず、これを見ていられます。

グリップヒーターを標準装備。T120がアッパーグレードであることを示しています。またトルクアシストクラッチ搭載で、レバーの操作感が軽いのも嬉しいかぎり。長距離走行での疲労軽減、乗りやすさも向上します。

空冷エンジンのように美しいフィンが刻まれた直列シリンダー。フューエルインジェクションのスロットルボディもキャブレター風に仕上げられています。

白いパイピングが施され、パッセンジャー部の座面のみタックロール調としたダブルシートもまた往年のブリティッシュスポーツを彷彿とさせるものでしょう。

コンベンショナルなツインショックは、プリロード調節機構付き。120mmのホイールトラベル量を確保しました。

テールライトはLED式ながら、クラシックなムードが漂うリヤまわり。クロームのグラブバーは大柄で荷物の積載にも役立ちます。

地面とほぼ水平、真っ直ぐに後方へ伸びる2本のマフラーもトライアンフのクラシックスタイルに欠かせないものです。

Bonneville T120主要諸元

■エンジン、トランスミッション


タイプ 水冷SOHC並列2気筒8バルブ 270°クランク


排気量 1200 cc


ボア 97.6 mm


ストローク 80 mm


圧縮比 10.0:1


最高出力 80 PS (59 kW) @ 6550 rpm


最大トルク 105 Nm @ 3100 rpm


システム マルチポイントシーケンシャル電子燃料噴射


エグゾーストシステム クロームメッキ仕上げ 2-INTO-2 エクゾーストシステム


駆動方式 xリングチェーン


クラッチ 湿式多板式 アシスト付


トランスミッション 6速




■シャシー


フレーム 鋼管製クレードル


スイングアーム 鋼管製両持ちタイプ


フロントタイヤ 32本ワイヤースポーク、スチールリム18 x 2.75インチ


リアホイール 32本ワイヤースポーク、スチールリム17 x 4.25インチ


フロントタイヤ 100/90-18


リアタイヤ 150/70 R17


フロントサスペンション 41mmカートリッジ式フォーク 120mmトラベル


リアサスペンション プリロード調節式ツインショック、120mmリアホイールトラベル


フロントブレーキ 310mm径ツインディスク、2ピストンフローティングキャリパー、ABS


リアブレーキ 255 mm径シングルディスク、Nissin製シングルピストンフローティングキャリパー、ABS


インストルメントディスプレイとファンクション LCDマルチファンクション表示機能付アナログスピード&タコメータ、シフトポジション、燃料計、航続可能距離、サービスインターバル、時計、トリップメータ、ハンドルバーの操作ボタン、ヒーテッドグリップ動作状態表示、燃費表示、トラクションコントロール、スロットルモード表示機能。




■寸法、重量


ハンドルを含む横幅 785 mm


全高(ミラーを含まない) 1100 mm


シート高 790 mm


ホイールベース 1450 mm


キャスターアングル 25.5 º


トレール 105.2 mm


車両重量 乾燥重量 244 kg


燃料タンク容量 14.5 L
情報提供元: MotorFan
記事名:「 ネオクラシックなんて言葉がなかったときからシーンを牽引|トライアンフ ボンネビルT120試乗