TEXT◎世良耕太(SERA Kota)
MAZDA3のSKYACTIV-X搭載車は、世界初の「火花点火制御圧縮着火(SPCCI)」を実現した高効率のガソリンエンジンを積んでいることだけが特徴ではない。マツダが独自開発したハイブリッドシステムを搭載しているのも特徴だ。ただし、「M Hybrid」の名称が示唆するように、マイルドハイブリッドだ(いや、マツダのM?)。搭載するモーターの出力は小さいし、バッテリーの容量も小さい。
モーターはストロングハイブリッドの多くがそうするような、トランスミッションに内蔵する方式ではない。オルタネーターやスターター機能とアシスト、エネルギー回生を兼用するタイプで、マツダはベルトドリブン・インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター(ベルト式ISG)と呼ぶ。(12Vではなく)24Vで駆動し、最高出力は5.1kW、最大トルクは48.5Nmだ。見た目は大きなオルタネーターである。
減速時に回生したエネルギーは、助手席側のフロアに搭載するリチウムイオンバッテリーに蓄える。容量は0.216kWhで、重量は9.5kgだ。24Vの電圧を車載電装品の駆動電圧である12Vに変換するDC-DCコンバーターも、M Hybrid搭載にあたって追加になったコンポーネントだ。
5.1kWの最高出力から推察できるように、M Hybrid搭載の狙いはパワーアシストではない。「あくまで燃費です」と、開発に携わる森本昌介氏(マツダ株式会社 パワートレイン開発本部 PT制御システム開発部 第1制御システム開発グループ アシスタントマネージャー)は説明する。力行(エネルギー放出)側も、パワー感の増強を狙って行なうのではなく、あくまで燃費の向上が狙いだ。
「エンジンの高回転領域で燃焼効率をより高いところに持っていく使い方です。モーターの仕事分だけ、エンジンを休ませる考え方です」
SKYACTIV-Xは広い領域で高い燃焼効率を誇るが、内燃機関である以上、相対的に効率の悪い領域は存在してしまう。そこはモーターでカバーし、エンジンの効率を助ける考えだ。モーターは「上乗せ」のためにあるのではなく「穴埋め」のためにある。
ベースとするエンジンの効率が悪ければ、サポートしなければならないモーターの負担は大きくなり、大きな出力が必要になる。だが、SKYACTIV-Xは効率が高い領域が広いので、サポート役の負担は小さくて済む。だから、最高出力5.1kWの小さなモーターで充分というわけだ。システム全体の軽量化にもつながる。
「モーターを賢く使っているのがM Hybridの特徴で、考え抜いたところです。力行側もそうですが、回生側のエネルギーをいかに刈り取るかに着目しました。弊社で採用しているi-ELOOP(アイ・イーループ)は、減速エネルギー回生システムと呼んでいます」
CX-5などが搭載しているi-ELOOPは、減速時の運動エネルギーをオルタネーターで回生し、キャパシタに蓄えるシステムだ。減速エネルギーの回生に特化したシステムで、駆動時のアシストは行なわない。アクセルオン時はオルタネーターによる発電を休止し、キャパシタからDC-DCコンバーター(最大25V→12V)を経由して電装品に電気を供給する。エンジンの負担を軽減して燃費向上に結びつける考えだ。M Hybridはその発展形と捉えることもできる。