TEXT●ノア セレン
PHOTO●山田俊輔
大きいことに越したことはない的な風潮がかつてはあった。ところが今の世の中、コンパクトでスマートであることや、身の丈に合った、エコなライフスタイルなどが声高に語られるように。大きくて無骨で力強いべらんめぇ父ちゃんよりも、家事もそつなくこなすイクメンがもてはやされる時代である。
ファットボーイを見ると、そういうのに真っ向から立ち向かうようなボリュームである。どうだ! デカいだろう! 太いだろう! カッコ良いだろう! と。風潮なぞ知らぬ、カッコイイとはこういうことだ! と。どうにも男心を刺激してくるバイクなのだ。
この型になったファットボーイは新しいソフテイルフレームや大きい方の114キュービックインチ(1870cc)ミルウォーキーエイトエンジンを搭載するなど進化しているが、そんなことよりもさらに太くなった足周りがインパクトである。フロントタイヤで160幅、リアに至ってはかつての200からさらに240幅に太くなっているのだ。もはやバカバカしいほどの太さ。たまらないのである。
そんなことを考えながら乗るわけだから、エンジンをかける前から何だかニヤニヤしてしまう。またがって視界に入る各パーツを見ても、みんなタイヤ同様に極太なのだ。アメリカのモンスタートラックのようなイメージだろうか。ハンドル周りも妙に太く、ゴツイ印象。フォークは正立なのにライト周りと一体化した三又部分周辺はものすごくマッチョだ。そしてそのライトも典型的な丸ではなく、流線型でしかも発光部もリング式のポジション灯など個性的だ。
エンジンをかければ、同時に試乗したストリートグライドスペシャルと同じ、静かでスムーズなフィーリング。極低回転域でリズムよくアイドリングする様はハーレーエンジンの進化を感じさせると共に、相変わらず唯一無二の感覚であることも実感する。
車体を起こして走り出すと意外やコンパクトに感じるから面白い。300kgを越える重量ながら、全体的に重心が低く足もベタベタに付くおかげだろう、路面に近い所でストレスなく滑っていくような感覚で走らせられる。唯一危惧していたのはファット(過ぎる?)タイヤの操舵感だ。というのも、以前のファットボーイでは交差点を右左折するだけでも思うようにバイクが曲がってこずに「ヨットット……」なんてことがあったからだ。ところがタイヤがさらに太くなっているにもかかわらず、あの時の感覚は和らいでいてストレスなくストリートライドができたのは嬉しい誤算だった。新ソフテイルフレームにはこんな常識外れの極太タイヤでも無理なく曲げられる許容度があるということか。
失礼な話、ファットボーイは見た目重視のちょっとゲテモノモデルという印象もあったが、試乗した結果これがけっこうおもしろい。見られた時のインパクトは相当なものだし、跨った時に視界に入る景色もクロームたっぷりで高級感溢れ、同時にメーターやライトなどデザインに未来的な要素もあって新鮮だ。正直、すっかり気に入ってしまったのである。
文句なしにカッコ良いものを妥協なく求めるようなべらんめぇ父ちゃんにももちろん乗って欲しいが、家事もこなすイクメンパパにこそ、このワイルド感を味わってほしい。「俺のバイク、カッコ良いだろう!」と男が胸を張りたくなるバイクである。
追伸:親しみやすさは高い方なので女性の方も十分楽しめるモデルだと思います!
左右スイッチボックスは一般的なハーレーの配置。左右独立式ウインカーは慣れが必要だ。
●パワーユニット
エンジン:Milwaukee-Eight® 114
ボア:102 mm
ストローク:114 mm
排気量:1,868 cc
圧縮比:10.5:1
フューエルシステム:電子シーケンシャルポートフュエルインジェクション(ESPFI)
エキゾースト:2-into-2 スタッガード;マフラー内触媒
●ディメンション
全長 :2,370 mm
シート高:675 mm
最低地上高:115 mm
レイク(度):30
トレール:104 mm
ホイールベース:1,665 mm
フロントタイヤ:160/60R18,70V,BW
リアタイヤ:240/40R18,79V,BW
燃料容量:18.9L
オイルタンク容量:4.7L
出荷時重量:304 kg
●ドライブトレイン
プライマリードライブ チェーン式・ギア比:34/46
ギアレシオ(全体):1ST 9.311
ギアレシオ(全体):2ND 6.454
ギアレシオ(全体):3RD 4.793
ギアレシオ(全体):4TH 3.882
ギアレシオ(全体):5TH 3.307
ギアレシオ(全体):6TH 2.79
●シャシー
フロントタイプ:5 マシンドレークスターキャストアルミ
バックタイプ:マシンドレークスターキャストアルミ
ブレーキ・キャリパータイプ:フロント固定4ピストン・リアフローティング2ピストン