東京モーターショーでお披露目されながら、ミラノショー(EICMA2019)まで詳細についてベールに包まれていたトリシティ300。それが、いよいよ発表となった。新たな機構は? スペックは? 


TEXT●大家伝(OYA Den)

アーバンモビリティが最も賢い選択となる予感

 アーバンモビリティの世界をリードするブランドの1つであるヤマハからトリシティ300が発表され、その詳細がEICMA2019で明らかになった。トリシティ300は”The Smartest Commuting Way(最もスマートな通勤方法)“をコンセプトに開発されたリーニングマルチホイール(LMW)車の第4弾であり、LMWシリーズのミドルクラスに位置するモデルである。




 旋回時の優れた安定感や自然なハンドリングを生み出すLMWテクノロジーに、パワフルで環境性能に優れる“BLUE CORE”エンジンを組み合わせ、都市部でのコミューティングに安心感や快適性をもたらすものとなっている。さらに車両の自立をアシストする「チルトロックアシストシステム(TLA)」も採用し、利便性と快適性を一層向上している点も見逃せない。




 そしてEU圏であれば、自動車の"B"ライセンス(あくまでザックリではあるが、日本の普通自動車免許的なもの)で乗車が可能だというのも大きなトピックだろう。つまり都市部における移動手段として"B"ライセンスを所持する自動車ユーザーならトリシティ300を選択肢に入れられるので、自動車ならではの渋滞や駐車場といった問題、トリシティ300の安定感などに魅力を感じてもらえる可能性が強いと言えそうだ。







ディテール&ポイント解説

 Leaning Multi Wheel(LMW)テクノロジーは、前2輪の大型スポーツモデル「NIKEN」で実績のある操舵軸とリーン軸をオフセットする“LMWアッカーマン・ジオメトリ”を採用。専用設計された高度なLMWアッカーマンサスペンション/ステアリングシステムは、平行四辺形リンクとフロントホイールの内面に取り付けられたデュアルフォークチューブによる片持ちフロントサスペンションという構成。このレイアウトによりスポーティかつ俊敏でスムーズなハンドリングが可能となり、滑りやすい路面や不均一な路面での安定感を向上させている。


 また72°のステアリングアングルがマシンのユーザーフレンドリーなキャラクターに貢献し、トリシティ300を混雑した道路で非常に操縦しやすいものとしている。そして2本のタイヤがフロント側のトラクションを確保し、2枚のフロントディスクによる十分な制動力を実現。なので3輪レイアウトに関連する安心感&安定性といった面が強化されている。そして470mmのトレッド幅とすることで、ステアリング操作とコーナリングのバランスを最適化。自然なフィーリングで旋回を楽しめる。

 ヤマハとして「2輪または3輪の経験がほとんどない、またはまったくない多くのライダーに関心を持ってもらう」ため、十分な信頼性と卓越した俊敏性を提供する軽量シャーシの開発に専念。最適化されたステアリングジオメトリと470mmトレッドを組み合わせ、ホイールベースは1,590mmに。この寸法は前後約50:50の重量配分と組み合わされ、ハンドリング特性と軽量感に寄与する理想的なシャーシバランスを保証。これにより自然なステアリングと優れた安定性を備え、難しくない操縦性を実現。


 この新しく設計されたフレームは強度と剛性のバランスがとれた小径のチューブで構成され、ヘッドパイプ領域の周りにプレートを使用することで正確なコーナリングを実現。また振動感を最小限に抑えるために、リンク型システムを使用してエンジンを新しい軽量フレームに取り付け、スムーズで快適な乗り心地を実現している。

 ヤマハは比類のないライディング体験を提供するだけでなく、最もアクティブでスマートでモダンなスタイリングとクラス最高の仕様を提供するプレミアム都市モビリティ車両としてトリシティ300を開発。そのダイナミックな外観は、MAXシリーズからのスタイリングキューを織り交ぜたもの。これはTricityデザインの次のレベルへのさらなる進化を示したものであり、ナイケンのDNAも取り込まれているのは言うまでもない。


 スタイル上の特徴の1つは、コンパクトで空力的なフロントカウルだ。おそらくこのカテゴリーに属する他モデルのデザインよりもスリムで高い。オーバーハングのないトリシティ300の短くて狭いノーズは、ツインフロントホイールの間にオープンスペースを残し、機敏で軽くてスポーティなキャラクターを強調している。

 他の多くの3輪モデルとは異なり、トリシティ300には前後に14インチのホイールが装備されている。このバランスのとれたレイアウトがライダーに優しいキャラクターに貢献しているそう。


 なお新しい14インチタイヤはブリヂストンと共同開発され、Battlaxスクータータイヤと同じトレッドパターンを共有する一方で、剛性の最適化されたバランスとトリシティ300の特定の要件を満たすように設計された新しいコンパウンドを備えているのだという。これにより高いレベルのトラクション、耐久性、雨天性能など、多くの利点が備わっている。

 経験の浅いライダーを念頭に開発されたトリシティ300では、ブレーキにクラス最高のシステムを採用。フロントとリアの両方に14インチホイールを採用したことにより、3つのホイールすべてで267mmの大径ディスクを採用。これにより、さまざまな路面でのブレーキ制御性が向上。滑りやすい路面での偶発的なホイールロックアップを防ぐためにABSを装備しているだけでなく、3つのホイールすべてにバランスの取れた制動力を提供して制御を強化するヤマハの統合ブレーキシステムも備えている。


 これは、ライダーがリアブレーキのみをかける場合に左レバー、またはフットブレーキを介しての入力を受ると、イコライザーを通過して前輪と後輪にブレーキ力がかかる仕組み。フロントブレーキとリアブレーキの両方が同時に適用される場合には前輪に適用されるブレーキ力は両方のレバーからの入力の組み合わせとなり、右レバーを単独で操作するとフロントブレーキのみが作動する。このようにブレーキ力を3つすべてのブレーキに均等化し、リアブレーキだけに過度の力がかかるのを防ぐことで、Unified Braking Systemはスムーズで穏やかな乗り心地に貢献。

 トリシティ300の重要な機能は、チルトロックアシストシステムだろう。これは、マシンが停止したときに直立した状態を維持できるようにするというもので、LMW機構の上部平行四辺形アームにキャリパーとブレーキディスクが取り付けられたもの。


 チルトロックアシストシステムが作動すると、キャリパーのコンパクトな電動アクチュエータがパッドをディスクに押し込み、平行四辺形リンクを所定の位置にロックする構造となっている。このチルトロックアシストシステムは、スロットルが開くとすぐに自動的に解除される。そしてシステム自体はサスペンション機能から完全に分離されているため、駐車時の取り回しが軽く簡単なものにしている。 なお、一時的に直立姿勢の保持を支援するシステムなので、メインスタンドがけも簡単に行える。

 トリシティ300に搭載されるパワーユニットは、ヤマハ最新のBLUE COREエンジンだ。これは、パフォーマンス、経済性、汎用性といった求められるファクターを理想的にバランス。水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒300ccエンジンは、XMAX 300譲りでトリシティ300の独自の要件に適合する多くの主要な機能が組み込まれている。


 高レベルの燃焼効率を達成するために、燃焼室と吸気ポートの形状が最適化され、軽量のDiASilオフセットシリンダーに耐久性のある鍛造ピストンを装備。燃料噴射装置のマッピング設定も最適化され、強力な加速と優れた燃料効率、そして環境への配慮も怠ることはない。


 またセミドライサンプ潤滑システム(ヤマハのMotoGPバイクでも使用)によりパワー的なロスが軽減され、従来のものよりも軽量でコンパクトな一体型鍛造クランクシャフトも装備。 さらに冷却システム用のバイパス型サーモスタットが、エンジンのウォームアップの高速化と燃費の向上に貢献。

 43.5Lのシート下収納スペースには2つのフルフェイスヘルメット、または1つのフルフェイスヘルメットとA4サイズのブリーフケースを収納可能。LED照明も装備。停車時にはパーキングブレーキがマシンを固定し、燃料タンクとシートロックはボタン操作式で煩わしいこともない。さらにフロントパネルにはDCコンセントも装備し、充電および給電の心配も無用だ。

 スマートキーシステムにより、キーを持っているだけで電源のオン/オフ、エンジンの始動と停止が可能。そしてハンドルバー、シート、燃料タンクリッドのロック解除もスマートにこなす。

 LCD機器は、すべての関連情報を明確でわかりやすい表示で提供するよう設計。 メーターパネルには大型デジタルスピードメーターの他、バータイプのタコメーター、時計、オドメーター、トリップメーターなどをインストール。また、ABS、ティルトロックアシストシステムステータス、TCS、などを示すインジケーターライトも装備。

欧州仕様「TRICITY300」主要仕様諸元



全長×全幅×全高:2,250mm×815mm×1,470mm


シート高:795mm


軸間距離:1,595mm


車両重量:239kg


原動機種類:水冷4ストロークSOHC4バルブ


気筒数配列:直列単気筒


総排気量:292cc


内径×行程:70.0mm×75.9mm


圧縮比:10.9:1


最高出力:20.6kW(28.0PS)/7,250r/min


最大トルク:29.0N・m(3.0kgf・m)/5,750r/min


始動方式:セルフ式


燃料タンク容量:13L


燃料供給方式:フューエルインジェクション


タイヤサイズ(前/後):120/70-14/140/70-14


カラー:Tech Kamo、Icon Grey、Gunmetal Grey





情報提供元: MotorFan
記事名:「 じつはこれが都会にちょうどいい排気量! ヤマハトリシティに300cc版が登場| EICMA2019