AMGが独自開発した初のGT 4ドアクーペが日本上陸を果たした。
AMG63モデルの中で最強となる639㎰を誇るモンスターだ。
その異次元の走りを伊豆のワインディングロードで堪能した。
REPORT●大谷達也(OTANI Tatsuya)
PHOTO●市 健治(ICHI Kenji)
※本記事は『GENROQ』2019年10月号の記事を再編集・再構成したものです。
パフォーマンスと洗練度のバランスにおいてメルセデスAMGの新境地を切り拓いた……。そうメルセデスAMG GT63S 4ドアクーペを評価するのに、私はまったくためらいを覚えない。
よく知られているとおり、GT 4ドアクーペはEクラスやCLSと共通のプラットフォームをベースに開発された。その点において、プラットフォームをゼロから造り上げたメルセデスAMG GT 2ドアクーペとは大きく成り立ちが異なる。しかし、だからといってEクラス・ステーションワゴンの上屋だけを変えて手っ取り早く4ドアクーペに仕立てたと考えるのは間違い。たとえば、フロントに搭載されるエンジンの下側には補強用のアルミプレートが追加されて捻り剛性を改善。ラゲッジフロアにはカーボンコンポジットが用いられているほか、車体の各部にアルミやスチールからなるガゼットならびにクロスメンバーを追加し、正確なハンドリングに必要なボディ剛性を確保している。また、ボディ構造がEクラスやCLSと違うことは、この2モデルよりもホイールベースが10㎜ほど延長されていることからも明らかだ。
基本となるスタイリングはエレガントでバランスもいい。4ドアクーペでは後席のヘッドルームを優先してスリークなルーフラインが崩れるケースが少なくないなか、GT 4ドアクーペは流れるようなファストバックを実現。テールゲートの終端も低く抑えられており、美しさと軽快感を両立している。
その一方で、マットブラックにペイントされた試乗車は精悍さのなかに獰猛さも兼ね備えており、迫力は申し分なし。粗い縦格子のパナメリカーナグリルやリヤウイング(AMGカーボンパッケージに含まれる)といったディテールも、GT 4ドアクーペのスポーティなルックスを引き締めている。
インテリアはさらに鮮烈で、赤と黒のレザーが貼られたAMGパフォーマンスシートがレーシングカーを彷彿とさせる雰囲気を醸し出す。相対的に幅が広く、しかもステアリングの近くまでせり上がっているセンターコンソールは、GT 4ドアクーペのフロアが極限まで低められていることを無言のうちに物語っている。これがただの4シータークーペでないことは一目瞭然だ。
しかし、そうした過激な内外装とは裏腹に、エンジン音は意外にも控えめ。音色自体はAMGらしい迫力あるV8サウンドながら、その絶対的な音量は決して大きすぎない。従来のAMGモデルよりも一段階低めのボリューム設定は、GT 4ドアクーペのキャラクターによくフィットしているように思う。
センターコンソール上の短いセレクターレバーを手前に引いてDレンジを選択。そこからスロットルペダルをゆっくりと踏み込めば、油圧多板式クラッチ(シングルクラッチ)とプラネタリーギヤを組み合わせたAMGスピードシフトMCTは滑らかに発進して見せた。
サスペンションブッシュがゴム製ではなくナイロン製ではないかと思わせるほど硬質な感触の足まわりはあいまいなところが皆無で、おかげでステアリングは極めて正確。こう聞くと神経質なハンドリングと思われるかもしれないが、決してそうではなく、切り始めはゲインが滑らかに立ち上がる特性で扱い易い。さらにステアリングを切り込んでもリニアリティは良好だから、いきなりワインディングロードを走り始めても戸惑うことはまずないだろう。
トランスアクスル方式の2ドアクーペとは異なり、4ドアクーペのギヤボックスはエンジンの直後にレイアウトされているが、それでもフロントヘビーな印象は薄く、ワインディングロードでは軽快なフットワークを示す。しかも、前後のグリップバランスが良好で、かなり攻めたつもりでもステアリング特性はニュートラルのままで揺らぐことがない。フルタイム4WDの4マティック+と4WSの組み合わせが、この安定しきったハンドリングに大きく貢献しているはずだ。
それ以上に強い感銘を受けたのが、荒れた路面でコーナリングを試してもステアリングが左右に取られる現象が見られない点。2ドアクーペを含むメルセデスAMGモデルは、ステアリングインフォメーションを優先した影響なのか、凹凸のある路面でステアリングが左右にぶれることが多いのだが、4ドアクーペではそんな片鱗さえ見せない。かといってステアリングインフォメーションが乏しいわけでもなく、ドライバーは雑音に惑わされることなくドライビングに没頭できる。個人的には、この洗練されたハンドリングを大いに歓迎したい。
639㎰に900Nmという強烈なパフォーマンスを誇る4ℓV8ツインターボエンジンは例によって自然吸気かと思うほどレスポンスが良好だ。出力特性もリニアに立ち上がっていくためにとても扱い易く、文句のつけどころがない。この点は現行メルセデスAMGの大きな強みといっていい。
GT 4ドアクーペには、メルセデスAMGの顧客がパナメーラに流出するのを防ぐ役割も期待されているらしい。もっとも、パナメーラの各モデルはいずれも快適志向が強く、63Sほどスポーティなモデルは存在しない。敢えていえばGTSがいちばん近いが、それでもパナメーラのほうが快適かつ洗練されている。過激なアピアランスも、GT 4ドアクーペのキャラクターを明確に物語っているといえるだろう。