REPORT●青山尚暉(AOYAMA Naoki)
PHOTO●神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
※本記事は2019年9月発売の「新型N-WGNのすべて」に掲載されたものを転載したものです。
スーパーハイト系軽自動車のN-BOXが今や日本で一番売れているクルマとなっている一方、スーパーハイト系と人気、販売台数を二分するハイト系ワゴンのN-WGNは、同ジャンル6台中、5位に沈んでいた(2018年データ)。それではホンダの、Nシリーズのプライドが許さない! というわけで登場したのが新型N-WGN。現行N-BOXと同じNシリーズ第二世代プラットフォーム、エンジン、CVTといった基本部分をそっくり受け継ぎ、走行性能のベンチマークは世界基準のコンパクトカー、VWポロ(先代)と、開発にかける志は極めて高い。
ここでは全体的な進化幅がより大きいと感じられるカスタム系の中でも受注比率で45%を占めるというターボモデル、L・ターボをメインに、ライバルとの比較試乗を行ないたい。
さて、新型N-WGNだが、エクステリアデザインはどのライバルとも趣を異にするボックス型のボンネット、メッキ面積の大きいフロントグリルが特徴的だ。全方向の視界を向上させたインテリアは、常識的なインホイールメーターをあしらったインパネまわりの上質で落ち着いた雰囲気が大人っぽい。
走りに関わる進化は著しく、エンジン、CVTの基本スペックこそN-BOXと同じながら、ホンダの軽自動車で初めて、レーシングカーの開発も行なわれる最新のHRD Sakuraの風洞実験室で空力性能を開発したほか、カスタムターボの足まわりは、先代のホットハッチ!?とも言える硬さを解消した乗り心地重視のセッティングに変更。CVTには、ジイドRSやヴェゼルRSに使われている、約40㎞/h以上で作動するブレーキ制御ステップダウンシフトやリニアな加速感をもたらすGデザインシフトの採用を始め、より安定方向に振ったAHA=アジャイルハンドリングアシスト、新制御ロジックの電子制御パワーステアリング、フロントサスペンションのサイドフォースキャンセリングスプリング、ブレーキコントロールがより快適に行なえるリンク式ペダルなど、ホンダ最新の走りに関わる高度な技術を惜しみなく投入しているのだ!
しかも、ステアリングにはチルト機構に加え、テレスコピック機構をホンダの軽自動車として初採用。併せてシートのハイト調整幅を拡大したことで、小柄な人から大柄な人まで、より最適で自然なドライビングポジションが取れるようになったのも、運転のしやすさ、疲れにくさに直結する進化である。
もちろん、2020年から世界的に搭載が義務化される自動ブレーキを含む先進安全支援技術のホンダセンシングも最新スペックを投入。詳細は後で触れるが、全車にサイド&カーテンバックとともに標準装備。高速走行、渋滞時の快適度を高めるACC(アダプティブクルーズコントロール)は、ついにホンダ軽初の渋滞追従、0〜135㎞/h対応に。
直列3気筒DOHCターボ/658㏄
最高出力:64㎰/64000rpm
最大トルク:10.6㎏m/2600rpm
車両本体価格:166万3200円
WLTCモード燃費:21.2㎞/ℓ
ハイト系ワゴンのライバルとしてまず紹介するのがデイズ・ハイウェイスターだ。新型は日産が初めて軽自動車専用のプラットフォーム、エンジン、CVT、電子アーキテクチャーなどのすべてを新規開発するとともに、スマートシンプルハイブリッド、日産自慢の同一車線内半自動運転技術のプロパイロット&オペレーターサービス、SOSコールなどを用意。エクステリアはミニセレナを思わせる存在感の強さ、デザイン性が光る。インパネには贅沢にもソフトパッドを用いるほか、引き出し式トレーや助手席ドアの車検証入れなどを完備する使い勝手の良さも自慢である。
ワゴンRのカスタム系がスティングレー。アメリカンな顔つきが特徴で、マイルドハイブリッドを搭載。インテリアは横基調のインパネが特徴で、前方視界の開放感、デザインの先進感、上質感で圧倒。車格を超えた居住感覚をもたらしてくれるのだ。
現行モデルのデビューが2014年と最も古くなったムーヴはカスタム系の王道を行く1台。軽量高剛性のDモノコックボディを採用し、カスタムのさらに上を行くハイパーグレードを用意。が、最新のライバルと比較すると、内外装ともに古さを感じさせるのも事実。先進安全支援装備は揃うが、ワゴンR同様、ACCも未装備だ。
ハイト系ワゴンは、高めの全高を生かした室内全体、後席居住空間のゆとり、ワゴンのように使えるラゲッジまわりのアレンジ性が魅力となる。例えば身長172㎝の筆者が新型N-WGNに乗り込めば、実測で前席頭上に250㎜、フラットフロアの後席頭上に195㎜、膝まわりに最大320㎜(前後200㎜のスライド位置による)ものスペースがある(デイズ同215、170、340㎜、ワゴンR同230、145、320㎜、ムーヴ同225、150、290㎜)。全車、コンパクトカー、どころか中型車をも上回る居住空間の持ち主ということだ。
が、毎日の生活の中で活躍するクルマとしてむしろ重要なのはシートの掛け心地。前席を座り比べると、N-WGNのカスタムは上級車さながらの分厚いクッション感、お尻を沈ませて身体をホールドさせる心地良くもカーブなどで上半身がふらつきにくい理想的な着座感を実現(標準車はよりソフトな掛け心地)。デイズはソファ感覚の掛け心地で、クッション性の良さ、背中の包み込まれ感はなかなかのもの。ワゴンRとムーヴも、お尻が沈み込む、ソファ的なクッションの厚み感ある掛け心地が特徴だ。ちなみに、ドアライニングの厚みはそこはかとない安心感をもたらしてくれるのだが(側面衝突を想定した場合など)、N-WGNはクラスで最大級の厚みがある。同時にひじ掛けも大きい。室内幅の寸法では不利になるものの、乗員の安心感、快適度を優先した配慮と言える(アキュラのデザイナーによる)。
ターボモデルは動力性能の余裕から、フル乗車する機会も多いはずで、後席の掛け心地も気になるところ。その点で褒められるのは、座面のクッションの底付き感がない高級ソファ感覚の掛け心地を後席にも奢ったN-WGN、フロアに対するシート位置が最も高く、より自然なイス感覚の掛け心地、立ち上がり性の良さをもたらすワゴンRだ。
ラゲッジルームの使い勝手はどうか。そもそも軽自動車はキャビン優先のパッケージが基本。後席スライドを最後端位置にした場合、奥行きはN-WGNが360㎜〜、デイズ370㎜〜、ムーヴ325㎜〜、ワゴンRに至っては285㎜〜でしかない。が、後席を前スライドさせれば、後席に大人がしっかり座れる状態で、奥行き最大値は実測でN-WGN555㎜、デイズ540㎜、ムーヴ565㎜、ワゴンR450㎜と、日常的な荷物の積載に困ることはない。
その中で際立つのが、先代よりラゲッジフロア地上高を180㎜! も低めたN-WGN。開口部の高さは何と490㎜(段差なし)と、デイズの640㎜(段差約15㎜)、ワゴンRの700㎜(段差40㎜)、ムーヴの50㎜(段差40㎜)と比べ、圧倒的に低く、開口部に段差がないため重い荷物の出し入れに有利。これはめったに使われない床下収納をなくすことで成立させているのだが、純正サイズのタイヤ4本が並べられる(スタッドレスタイヤの交換に行く際などに便利)、先代比+24ℓの134ℓの容量となったラゲッジの肝は、耐荷重50㎏のボードによる上下2段使いが基本という点だ。ハイト系のラゲッジは天井が高く、上部空間が無駄になりやすい問題点の解決策でもあり、高さ約20㎝の下段部分を外から見えない収納としても使える。ちなみに後席格納によるラゲッジ奥行き拡大(フラットフロア)は、ボード上段状態が基本となる。
直列3気筒DOHCターボ/659㏄
最高出力:64㎰/5600rpm[モーター:2.0kW]
最大トルク:9.2㎏m/2400-4000rpm[モーター:40Nm]
車両本体価格:164万7000円
WLTCモード燃費:21.2㎞/ℓ
さて、ここからは各車の走行性能について述べたい。
N-WGNのカスタムL・ターボで走りだせば、出足からのエンジンのスムーズさ、ステアリングの自然ですっきりとしたリニアな操舵感にまずは好感触。しかも、個人的にN-BOXで気になっていたアクセルの踏み始め、約2000rpm前後で発生したゴロゴロする感触がほとんど解消されていたのがうれしい。開発陣に聞けば、CVTの変速マップを書き換え、ゴロゴロする領域をなるべく使わない制御に改めたのだとか。
そこからの加速感は3気筒感など皆無に等しく、1000rpm台後半から沸き上がるトルクと、ホンダのターボユニットらしい質感の高い硬質なエンジンフィールが味わえるものだ。が、先代と違い、過激さは薄れ、大人っぽいジェントルかつリニアな加速力を発揮する。また、乗り心地も大きく改善されている。先代はスポーティ過ぎる!?硬さがあり、後席では段差などで突き上げ感が目立ったのだが、新型は前後席ともにシートの掛け心地の良さもあり、路面を問わずフラットで快適そのもの。段差やマンホールを越えてもそのまろやかかつ、しなやかなタッチの好印象は変わらない。ロードノイズの遮断も軽自動車の域を超えたもので、車内はごく静か。それこそ、軽自動車に乗っていることを忘れさせてくれるほどの乗り味なのである。
高速走行でのビシリとした直進性の良さ、カーブや高速レーンチェンジでのリヤがズシリと踏ん張る安定感の高さに至っては、下手なコンパクトカーを大きく凌ぐレベル。カスタムターボのみに装着されるリヤスタビライザーの効果も絶大と言っていいだろう。
CVTのダウンシフト制御も優秀だ。約40㎞/h以上で作動するその機能は、パドルシフトでのシフトダウンやエンジンブレーキ的な役割を果たし、山道や高速旋回、下り坂で威力を発揮。安心感、スピードコントロール、再加速性能に貢献する。上手な使い方として、例えばブレーキを2回、ポンポンと踏むことで、ギヤが2段落ちるイメージの減速が行なえるのだ。また、先代のLレンジに変わり、Sレンジを採用。より坂道や雪道でも使いやすい穏やかなローレンジ設定としている。
直列3気筒DOHCターボ/658㏄
最高出力:64㎰/6000rpm[モーター:2.3kW]
最大トルク:10.0㎏m/3000rpm[モーター:50Nm]
車両本体価格:165万8880円
JC08モード燃費:28.4㎞/ℓ
デイズも走行性能では軽自動車のトップレベルにある。とにかくスマートシンプルハイブリッドによる全域のスムーズさ、静かさ、ステップアップ感ある加速フィール、上質感ある乗員に伝わるショック、音、振動が最小限の乗り心地、そして総合的なシャシー性能は軽自動車らしからぬ実力だ。特に、箱根ターンパイクの下りのような、延々と続くつづら折りの降坂での操縦性、フットワークの確かさ、安定感、安心感は感嘆に値する(NAモデルでも)。ただし、日常でよく使う、微低速走行域のフレキシビリティー、走りやすさについては注文アリ。今回の4車中、唯一、ギクシャクした挙動を示す場面があった。
ワゴンRはスティングレーのカスタムハイブリッドTで800㎏でしかない軽量ボディとマイルドハイブリッドのモーターアシストに注目だ。軽やかでスムーズさ際立つ爽やかな走行性能、全域の扱いやすさと静粛性の高さ、エンジンを高回転まで回した時の気持ち良さが持ち味。乗り心地もクラスを超えた上質感がある。さすが、軽ハイトワゴンのパイオニアの意地を見せてくれる力作だ。
ムーヴは据え切りで重過ぎると感じるステアリング、カーブでのロールの深さ、ハイパーを意識!?し過ぎた乗り心地の硬さ、そしてタイヤ、ロードノイズに起因する、車内の絶大なるこもり音が終始、気になる。走行性能ではデビュー年次の古さを隠せない、という印象で、新型タントが用いた次世代新開発プラットフォーム=DNGAを使うであろう次期型に期待したいところだ。
ところで、今や軽自動車にも不可欠な先進安全支援装備だが、抜きんでているのはN-WGN。夜間の歩行者や移動自転車にも対応し、渋滞追従型ACCまで備えた10種類以上の機能を満載したホンダセンシングを全グレードに標準装備! しているからだ。これで前後誤発進抑制機能にブレーキ制御まで加わればなお良し。デイズはACC機能を含むプロパイロットをハイウェイスターのプロパイロットエディションとして設定。その高速道路同一車線半自動運転機能はむしろ重心の高いセレナより優れている印象で、前後踏み間違い抑制機能にブレーキ機能を用意している点がポイント。一方、ワゴンRとムーヴはACCの設定がなく、先進安全支援機能は基本的な範囲となる。よって、全グレードにホンダセンシングを標準装備する新型N-WGNが一歩リードしていることは間違いないところ(専用ナビ装着+スマホ接続でオペレーターサービスも利用可/SOSコールの設定はないが、あおり運転被害時対応などで有効だから早期の装備を願いたい)。
結論を述べれば、デザイン、走行性能、乗り心地の良さで際立つのはN-WGN。そしてデイズとワゴンRが続く。それにACCを含む先進安全支援装備の充実度(全車標準)を加味すれば、N-WGNの優位性がさらに光って当然だ。N-BOX同様、このハイト系ワゴンのジャンルでも、新型N-WGNがクラスを牽引する可能性は極めて高いと思える。特に高速走行をする機会の多いユーザーにとって、N-WGNのターボモデルは、全方位で理想的な選択となりうるだろう。
直列3気筒DOHCターボ+モーター/658㏄
最高出力:64㎰/6400rpm
最大トルク:9.4㎏m/3000rpm
車両本体価格:162万5400円
JC08モード燃費:27.4㎞/ℓ