TEXT:瀨在仁志(Hitoshi SEZAI) PHOTO:MF.jp
2016年に国内販売終了となったRAV4が、19年4月フルモデルチェンジして日本市場に戻ってきた。18年11月にはすでにアメリカ市場で発表されていただけに、この日を心待ちにしていた。直後に行なわれた試乗会での印象は上々。ボディはひと回りは大きくなったにもかかわらず、2.0ℓNAエンジンはオンもオフもしっかりと路面を蹴り上げ、基本性能の進化を実感させてくれた。
トヨタのクルマは、数年前までは見た目やパッケージングなどはお客さま目線でよくできていても、走らせてみるとがっかりすることばかりだった。それが大きく変わったのは、トヨタが提唱する次世代アーキテクチャー『TNGA』を投入してから。シャシーはもちろんのこと、エンジンや、ミッションに至るまで、次世代に向けて大きく進化させた開発手法によって、ここ数年はほぼ期待どおりの走りが実現できている。
なかでもカムリやカローラスポーツの出来はメイドインジャパンの精度の高い作りに、走りの良さがプラスされたものになっており、私が選考員を務めるCOTY(日本カー・オブ・ザ・イヤー)で共に10点を投票したくらいだ。残念ながらどちらもイヤーカーにはならなかったが、ここのところトヨタの出すニューモデルからは目が離せない。
そんななかでのRAV4登場だから、少々甘めの評価となってしまっているかもしれないが、力強い外観同様、新4WDシステムの採用や、トヨタ車初の2リッターNAのダイナミックフォースエンジン(171ps/207Nm)、ダイレクトCVTの搭載など、結構心をくすぐられる。
今回はそのポテンシャルを改めて確認できるよう、房総方面のドライブコースを選んでみた。試乗車は、アドベンチャーである。箱根同様に、数多く試乗を行なってきた房総方面は、夏の真っ盛りにもかかわらず、脇道に入っていくと格好のハンドリング路を見つけられるなど、まさにRAV4のグレード名どおり、アドベンチャー気分を味わえる。
大きくなったボディは同行した女性編集者の弁では『手に余る大きさ』とやや幅広だが、カムリと同じTNGAのGA-Kプラットフォームは、正しい操作に対しては正確に反応。ステアリングフィールも、背の高さからくる外乱の影響を受けづらく、直進時に落ち着きがあるし、ステアリングの切り始めの動きも一体感がある。
ボディ自体は確かにカムリよりも全幅が15mmワイドで背が高いこと(全長×全幅×全高:4610mm×1865mm×1690mm)を考えると街中では近寄るクルマも気になるかもしれないが、こと走りに関してはイン側のタイヤがどこをトレースしているかがわかるような、無駄がなく落ち着いた走りを味わえる。ボンネットもフラットで両隅も確認しやすいから、正しいポジションでボディの大きささえ認識してしまえば、クルマの動きに不安はないはず。少しドライブすればすぐに馴染めるに違いない。
ECOモード(モードはECOとノーマルとスポーツ)で走っていると、前後駆動力配分はフロントが主体だったが、スポーツモードに切り替えてペースを上げていくと、駆動力がリヤへも振り分けられていることがインジゲーターからも良くわかる。リヤに駆動力が伝わることで接地性が高まるのか、ボディの微小な動きが抑えられ、安定感が増すフィーリングだ。
センターデフがあれば常時、駆動力が4輪に振り分けられることで、同様の安定感を保てるが、新4WDシステムといえどもオンデマンドではやはりその期待はかなえられない。
新システムの持ち味は、3つの電子制御カップリングと前後駆動力を切り離す機構を採用したことで、オンデマンド4WDでありながら、リヤの左右駆動力配分を行なえることや、完全にFF状態で走れること。プロペラシャフトをフリーにできることで駆動ロスをなくして燃費に貢献する一方、積極的に踏んでいったときには、リヤ駆動力を左右個々に増減させることで旋回力を高めてくれる。経済性とハンドリングを両立させたことがウリだ。
とくにスポーツモードにしたときのハンドリングはコーナーの中盤以降で、ステアリングを切っている方向に加速しながら向きを変えていくような動きを見せる。タイヤの軌跡が4本個々に旋回方向のラインを描いていこうとしてくれるので、力のタメも少なく無駄な動きが発生しにくく、ロールも少ない。
もっともセンターデフがないので、フロントブレーキを摘まない限りはリヤがフロントの駆動力を超えることはできず、ランサーエボリューションのようにフロントの軌跡を超えるほどの大きな旋回力は持ちえないし、パワーが出てくる中高回転域以降にしかその恩恵にはあずかれない。アドベンチャーのネーミングどおり、不整地で4輪の駆動力配分を積極利用する機動力をもちながら、背反する街乗りではFF優先で高い経済性を両立させたことこそが新型RAV4の持ち味。新世代4WDのこだわりと言って良い。
エンジンや乗り心地に関しても、興味は尽きない。2.0ℓNAダイナミックフォースエンジンは、回すとシャカシャカと機械的なノイズが耳障りなものの、1630㎏のボディとは思えない加速力は見せてくれるし、巡航領域では音や振動はスッキリとしたもので、日常的な使い勝手は悪くない。
組み合わされるミッションは、発進用の1速ギヤを追加したことで、CVTのゆるい加速感から解放され、AT以上にダイレクトかつスムーズな走りが味わえる。CVTの守備範囲も高速寄りにシフトしたことで、中速域でのジャンプシフトや、まったり加速も緩和され、少ないタイムロスでパワーを引き出してくれる。このあたりも2.0ℓNAで不満なく走れる大きな要素になっていることがわかる。
ただ、CVT領域に入っている状態でキックダウンなしで登坂や加速を行なうと、低いギヤ比領域でも力不足。MTで言うなら3速で走っているような狭間がある。積極的にアクセルを踏める人には、街乗りの法定速度程度まではキックダウンしてくれるので不満は出ないだろうが、ハイブリッド車のようにトロトロした走りに馴染んでしまっている人には加速も変速もできず、もどかしさを感じさせてしまうことになる。
街乗りから、高速、ワインディングと走ってきた印象をひと言でまとめるなら、新型RAV4は無骨な外観に似合わず、機能と走りは洗練された新世代SUV、といった感じ。限られたパワーを、新技術によって駆動力や加速力を上手にコントロールして、無駄なく性能を引き出している。シャシー性能もロール方向に加えて、特に前後方向の動きが抑制されて、背の高さを感じにくい。シャシーには余力はありそうだけど、エンジンもミッションも、それぞれが効率よく仕事をして、最大限の相乗効果を生み出している。
TNGAの技術がフルパッケージングされたことで、RAV4の走りは成立し、トヨタがやりたい次世代のクルマ作りというものがよく理解できた。次はもっとも身近なコンパクトカーで同じことができるのか、まさか昔のトヨタに戻るはずはないだろうが、安くて良いクルマ作りにこそ、トヨタの真の実力が試される。今回は納得できたけれど、ここから先だ。今後のトヨタのクルマ作りにも大いに期待したい。
SPECIFICASIONS
TOYOTA RAV4 Adventure
全長×全幅×全高:4610mm×1865mm×1690mm
ホイールベース:2690mm
車両重量:1630kg
サスペンション:
F|マクファーソンストラット式
R|ダブルウィッシュボーン式
駆動方式:フルタイムAWD
エンジン
形式:2.0ℓ直列4気筒DOHC
型式:M20A-FKS
排気量:1986ℓ
ボア×ストローク:80.5mm×97.6mm
圧縮比:13.0
最高出力:171ps(126kW)/4800rpm
最大トルク:207Nm/4800rpm
燃料タンク容量:55ℓ
燃料:レギュラー
トランスミッション:CVT
WLTCモード燃費:15.2km/ℓ
市街地モード:11.5km/ℓ
郊外モード:15.3km/ℓ
高速道路モード:17.5km/ℓ
車両本体価格:313万7400円