モーターは最大出力160kW、連続出力80kWを発生。エンジンを始動することなく、モーターだけで450Nmのトルクを発生するため、電動走行時でも迅速な追い越しが可能だ。ZF内製の新開発モーターには、従来の銅線コイルに換えて溶接した銅製ロッドを使用することで、サイズを大幅に変えることなく高いパワーを実現している。「ヘアピンテクニック」と呼ぶこの技術は、パワー密度を左右する銅の密度を大幅に高めることができる。
およそ300ボルト(V)の高電圧を使用するプラグインハイブリッドに加え、マイルドハイブリッドも今後数十年にわたって大きな役割を担っている。48Vを使用するこのシステムは、エネルギー回生でCO2排出量の削減に貢献する。さらに、エンジンが比較的多く汚染物質を排出する発進および加速時にサポートを行うことで、汚染物質の排出量低減にも役立つ。
48Vドライブは駆動系のいくつかの場所に装着が可能。エンジンアウトプット側のクランクシャフト(「ポジション1」)とインプットシャフト(「ポジション2」)が特に効率的だ。ZFの新世代ユニットは、どちらのタイプにも対応している。モーターは25kWの最大出力を発生し、現実的にエンジンのあらゆる作動パラメーターを最適にサポートする。
モーターを制御するのがパワーエレクトロニクスである。バッテリーからの直流電気をモーターに適した交流に変換するとともに、モーターのパワーとスピードをコントロールする。現在のシリーズハイブリッド用パワーエレクトロニクスは、靴箱ほどのサイズがあるが、ZFは、4世代目の8速ATで、これをトランスミッションハウジング内に収めることに初めて成功した。ハイブリッドドライブの車体への組み付けにおける複雑さが解消され、通常のトランスミッションとほぼ同様となるため、完成車メーカーに大きなメリットをもたらす。さらに車内の高電圧ケーブル数も減り、安全性の向上につながる。
トランスミッションのサイズを変えずにパワーエレクトロニクスを内部に収めるには多くの課題があった。ZFは、様々な改良に加えて冷却系に新たな考え方を導入することでこれを解消した。特に高電圧モデルのIGBTで顕著だが、パワーエレクトロニクスに使用されている半導体は熱を持つ。ZFは、パワーエレクトロニクスを車の空調システムの冷却系に接続することでこの問題を解消した。
さらにギヤシフトを行う油圧システムの大幅な小型化も行った。これまで3.1リットルだった8速ATの油圧制御ユニットは、1.8リットルとコンパクトになっている。これは主に、ダイレクトシフトバルブを使用することで実現した。エレクトロマグネティック(電磁)アクチュエーターの採用により、これまでの電動プレッシャーアクチュエーターに必要だった追加のピストンやブッシュ類が不要になった。
新しい8速ATに追加されたパ―ツは全てハイブリッド用を念頭に設計されている。これまでのトランスミッションでは、エンジンが直接駆動するベーンセルポンプと電気走行時に作動する電動ポンプまたはパルスメモリー方式と、オイルポンプが2基使用されている。これが、次世代型ではパワースプリットポンプ1基になる。エンジンが停止している状態では、直結された小型のモーターが作動する。
新しいトランスミッションは、その機構もハイブリッドに適した設計がされている。4つのプラネタリーギヤと5つのシフトエレメントはこれまでと同じながら、フリクションパワーの改善により効率化を向上させた。その結果、エンジン駆動時におけるCO2排出量は1キロメートル走行あたり1グラム減少し、電気駆動での航続距離も延びている。
特にプレミアムセグメントにおける、高い快適性とノイズ低減への要求を満足するため、新しい8速ATは縦置きトランスミッションとして設計されている。信頼性の高い機械的技術の採用により、ハイブリッド操作(走行)時にも、高い要求を達成している。さらにZFが開発した遠心振り子ダンパーの最適化で、電気駆動からエンジン駆動への切り替えにドライバーがほとんど気付かないレベルまで振動を抑えている。将来的にトランスミッション制御モジュールはエンジン特性マップではなく、全システムコンポーネンツの数学的モデルに基づいた制御を行うようになる。これは、将来に向けてますます複雑化しているドライブラインに対応するため、必要不可欠になるだろう。
ZFは、この新世代の8速ATの量産を2022年からドイツにあるザールブリュッケン工場で開始し、中国と米国における市場投入を予定している。このようにZFは、電気自動車(EV)の即時普及が難しい市場セグメントにおいてもCO2排出量の削減に貢献できるよう、ハイブリッドの普及にも力を入れている。