TEXT● ノア セレン
以前に鳥取県のサッカーチーム「ガイナーレ鳥取」の取材に行ったことがあるんですが、チームの資金捻出のために取り組んでいる一つの事業の中に「芝生の育成」があったんです。なんでも鳥取の土壌は芝生育成に向いているらしくて、サッカーチームだからこそ持つ芝生に対するノウハウを生かして芝生を作ろうというんですね。そして芝生を育成するために、休耕地を借り上げていたんです。その時にあの「野人・岡野」が言っていました。「荒れ放題になってる休耕地ってホントもったいない。全部芝生にしちゃえば、ヨーロッパみたいにそれが人々の交流の場になる」って。
なるほどなー、芝生っていいナァ、と思ったわけですが、同時に芝生育成のために切り開かれた休耕地を見たとき、ここでダートトラックとか、ヨーロッパ的に言えばグラストラックとか、そんなバイク遊びもできるなぁ! とも思ったのでした。鳥取に限らず、日本にはたくさん休耕地がありますからね。北関東在住の僕の周りにも使ってない畑はたくさんあります。荒れ放題の所もあれば、とりあえず草は刈っているけど何にも使ってないってところもあるんですが、じゃ近所のこの休耕地を借りてさ、ダートトラックゴッコをしたいじゃないか! と思ったのでした。近所だったらわざわざトランスポーターにバイクを載せて遠くのサーキットやオフロードコースに行かなくていいし、疲れたらお茶やらご飯やらすぐそこだし、今日は終わり! って思ったら即風呂ビール。ローカルにバイク遊びができたらイイナ、ってわけです。
休耕地って言ったって、いきなり知らない地域に行って「バイクでグルグル走り回りたいからこの土地貸して」っていう人に(休耕しているからと言って)大切な農地を貸してはくれないでしょう。でも知ってる土地ならどうでしょう。僕は幸い生まれ育った地元にUターンしたクチで、近所の人はみんな知り合い。ツーカーなわけですが、これを読んでいる読者の方々の中には、もっと何世代も前から地域に根差している農家さんもいることでしょう。実家が土地持ちじゃなくても、親戚のおじちゃんがどこかの畑を休ませているってことは十分あるはずです。もしくは「あの荒れてる栗林は誰のもの?」って聞いてみたら意外にも気ごころ知れた人の持ち物だったりして。
「あんだ、〇〇さんちの坊ちゃんかえ! 大きくなったなや! ん? バイクで走ンのぉ? かまねかまね!」
……的な、ね、そんな展開になりえないとも限らないわけで、どうせ使ってない休耕地、「草刈りしますから!」なんて言って、月イチぐらいでバイクを走らせても、だーれも損も迷惑もしないと思うんですよね。そんな妄想を膨らませていると、使ってない畑ばかりが目に入ってきちゃう。お、あそこイイナ!とか。ちょっと勾配があるじゃん!とか。ここなら家からバイクを押してこれるぜ!とか。しまいには「こんなコースレイアウトにしようかな」なんて妄想が広がります。どれどれ、あそこの土地は誰の持ち物かな?
そもそも遠くのサーキットやオフロードコースまで出かけていくための時間やコストが捻出しにくいのがアラフォーです。お父さんだけ遊びに行っちゃ家族の目も厳しいことでしょう。だからなんと言っても近くなきゃいけない。すぐに気軽に行けて、家から「ご飯ですよ~」っと家族が歩いて呼びにこれるぐらいが理想ですね。気軽に行けるってのが大切です。バイクで遊びに行くことが仰々しいと腰が重くなるんですが、もう散歩感覚で「ちょっとグルグルしてくるワ」ぐらいの、日常のリフレッシュの一コマにしたいものです。
もうひとつ近くなきゃいけない理由は、そこにアクセスするために公道を走りたくないからです。公道を走るとなるとナンバーが必要。そうするとただの日常のリフレッシュなのにコストがかかってきちゃう、もしくはいちいち軽トラに積んでいかなきゃいけなくなっちゃう。もちろん、本気を出してバイク遊びに没頭するならそれでもいいのだけど、休耕地スクランブルはそういうコンセプトじゃないからね。なのでベストは、自宅のすぐ隣ですね。
「忙しいお父さんの、ハードルが低くてコスパ高いバイク遊び」ですから。無理があっちゃいけないんです。自然体で日常生活の中にバイク遊びが存在するのが理想です。
じゃあどのぐらいの広さがあればバイク遊びができるのさ、ってハナシですが、ミニバイクならば100坪ぐらいから楽しめる気がします。でもね、どうせなら一反ですよ、イッタン。一反歩(いったんぶ)なんて言い方をしますが、これは坪の単位の延長線で、30坪が一畝(いっせ)、で300坪が一反です。約1000㎡なので「うわ、おおきいな!」というイメージだけれど、一般的な田んぼは一反単位だったりするからバイクを走らせるとなるとそんな広すぎるという感じはないし、そもそも地方ではまだまだこの単位で土地が分かれてるんです。
だからちょっと大きい土地だと「なん反」みたいな話になりますね。ちなみに10反で一町です。後ろに歩という漢字をつけて、一反歩(イッタンブ)、一町歩(イッチョウブ)などというと、土地の面積の話をしているのが分かりやすいと思います。
1000㎡ということは、100m×10mの土地ってことですね。土地は実際にはいろんな形をしてるけれどこれだけあればちゃんとエキサイトできる気がするし、コースの設定によってはトリッキーにもハイスピードにもできるでしょう。よし、イッタンブを探せ!
刈払い機を左右に振りながら草刈りしていくと、おおよそ2メートル幅ぐらいの道ができていくわけです。刈った草はそのままだから、ヨーロッパなどで行われる「グラストラックレース」みたいな感じでしょうか。
こちら、イギリスで見たグラストラックです。アメリカでは土の上を走るダートトラック、イギリスやヨーロッパでは芝生が多いからグラストラック。濡れた芝生は大変に滑るから場合によってはものすごいカウンターが当たってたりします。サイドカーもあったりするんですよ。
イッタンブもあるのに畑をやらないのももったいないですからね、トマト、キュウリ、マメ、ジャガイモなどを植えました。順調に育ってきたものの、小さなオレンジ色っぽい虫にやられまくって、カボチャは全滅しました。悔しい。
なんとなくオーバルができたのでTT250Rで試走。エンデューロレース仕様のため凸凹タイヤがついてて、一瞬でコースが荒れます。しかも250ccだとちょっと持て余す……。音も大きいしなあ。もう少し小さい排気量で、タイヤもスライドしやすいようなもので、何よりも排気音が静かなのが良いですな。地域の中でバイク遊びですからね、迷惑がかかっちゃいけない。