TEXT◉大谷達也(Otani Tatsuya) PHOTO◉Audi Sport GmbH
最初に訊ねたのはアウディ・グループのなかにあってアウディスポーツGmbHがどのような役割を果たしているのか、という点である。
「アウディ・ブランドのコアバリューといえばいまも昔も『技術による前進(Vorsprung durch Technik)』ですが、これを具体化した内容としては、現在、世界的なメガトレンドとなっているものを中心としています。その主要な概念は3つあって、ひとつは人口が都市部に集中するグローバルな都市化、もうひとつは生活のデジタル化、そして3つ目が多くの人々の考え方がサステイナブルを重視するようになったことで、健康や自然な暮らしを大切にするようになった点が挙げられます」
「一方、かつては革新性(プログレッシブ)、洗練、スポーティの3つがアウディ・ブランドのコアバリューとして掲げられていました。しかし近年、スポーティというイメージが弱くなっていました。とはいえ、健全な意味でのスポーティという概念は誰にとっても大切なもので、現在も欠かすことができません。そこで、このスポーティさという概念をアウディスポーツがサブブランドとして提供することで、アウディ・グループ全体のバリューに貢献することが求められているのです」
続いてレンツにアウディスポーツGmbHが具体的に担っている役割について説明してもらった。
「私たちが担当しているビジネスフィールドは4つあります。ひとつはアウディ・エクスクルーシブ、ふたつ目はアウディ・コレクション、3つ目はカスタマーレーシング、4つ目はアウディR8ならびにRSモデルの企画・開発です。ただし、フラッグシップのR8については生産も私たちの役割です」
「このなかで中心的な事業とされているのがアウディ・エクスクルーシブで、具体的には製品のインディビジュアル化です。これには、顧客のオーダーに応じてたった1台だけのユニークな製品を生み出すことから、数百台程度の小ロット生産までが含まれています」
「次はアウディ・コレクションです。一般的に言って、コレクションというとファッションや時計といった商品を思い浮かべるかもしれませんが、私たちはお客様のライフスタイル全体を重視して企画や製品化に取り組んでいます」
「そしてスポーティさを実際の製品としてお届けしているのがR8やRSモデルで、これらは単にハイパフォーマンスなだけでなく原則的にすべてのモデルがクワトロを搭載しています。これをベースにして、私たちのヘリテイジであるモータースポーツに取り組むのがカスタマーレーシングです」
ところで、R8やRSモデルのコンセプトはどのようにして形作られていくのだろうか?
「基本仕様を考えるのは我々アウディスポーツGmbHです。その基本仕様書にしたがって、我々自身の手で開発を行います。試作車の製作に始まって量産が始められるまでの準備を、すべてアウディスポーツGmbHのエンジニアが担っています。R8を除くRSモデルの生産はアウディ本社で行われますが、品質保証の最終的な責任を負うのはアウディスポーツGmbHです。しかも、R8やRSモデルにはサーキット走行も視野に入れた品質保証が求められるので、特別に選ばれたレーシングドライバーによりニュルブルクリンクのノルトシュライフェなどで品質の確認を行っています」
同じロードカーでありながら、RSモデルには通常のアウディにはない強い個性が息づいている。その源はどこにあるのか? レンツに語ってもらった。
「私たちの工場をご覧になっていただければよくご理解いただけると思いますが、アウディスポーツGmbHの製品がとびきりエモーショナルなのは、作り手のハートが情熱的だからだといえます。アウディ・グループには全体で約5万人の従業員がいますが、アウディスポーツGmbHの従業員はわずかに1130人です。しかし、その全員が自分の業務に積極的で、技術的な能力の高い従業員が揃っています。つまり、熱意ある従業員が様々な革新に挑戦し続けている。そうしたなかから生まれるのがアウディスポーツGmbHの製品なのです」
では、アウディスポーツの今後についてレンツはどのような展望を持っているのだろうか。
「アウディスポーツは未来に対しても十分な準備ができています。様々なパワートレインを開発しているのはそのためです。実は、アウディ初の完全な電気自動車として先頃に発表されたe-tronも私たちが手掛けています」
電気自動車の時代がやってきてもアウディスポーツGmbHの重要性はまったく変わらない。そのことは、どうやら間違いなさそうである。
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