1月16日〜18日に東京ビッグサイトで開催されていたオートモーティブ ワールド2019。新日鐵住金がクルマの軽量化についてさまざまなソリューションを提案していた。


*本展は業界関係者のための商談展です。一般の方のご入場はできません。


TEXT &PHOTO◎萬澤龍太(MANZAWA Ryuta/MotorFan TECH)

 クルマにとって軽いことは絶対的なメリットをもたらす。にもかかわらず、クルマはどんどん重くなっていく。その理由は新しいデバイスの付与だったり、継続して用いるシステムの継続更新だったり、設計マージンを充分にとったまったく新規の部品だったりとさまざまだろう。しかしどこかで決断し、心機一転を図る必要がある。新日鐵住金のN-safeを眺めていて、そんなことを感じた。



 展示パネルの説明によれば、N-safeを構成するボディ部材の数々は1180、1310、1470MPaと、軒並み1000MPa超の鋼板。その大半が冷間プレスで成形可能というところに、同社の鋼板技術の高さがうかがえる。




 通常、高強度鋼板の成形には熱間プレスを用いる。理由は、冷間でプレスすると、型が離れるときに鋼板が弾性変形を起こしてしまうため。そこで、鋼板を高温に熱して軟らかくした状態でプレス、金型と接触するときの低温化で焼き入れ効果をねらうのが熱間プレス工法だ。当然ながら、冷間プレスに対して手間も時間もコストもかかる。だから使用部位は衝突時にエネルギーを受け止めるためのピラーやバンパービームといった一部に限られているのだ。




 その高強度部材が冷間で打てるとなったら、生産設備の大幅な刷新を図る必要がなくなる。適用範囲も拡大し、自動車のボディのあり方が大きく変わる。具体的には鋼板の強度が高いならプレスする部品を薄く、つまり軽くできる。同じ厚さで作るなら、より強度を高くできる。




 顧客(自動車メーカー)からの高い要望に応えてきた新日鐵住金だからこそ実現した製品群である。「やはり高いんですか」とストレートに訊いてみると、「そうですねえ……」とおっしゃりながら、鋼板がプレス時によく伸びるために加える成分が理由のひとつだと教えてくれた。

1470MPa材のセンターピラーへの適用例。

同じく1470MPa材の適用例。フロントピラーに用いることでキャビンをかご状で強固に守るコンセプト。

 このほか、素材置換についても提案がなされていた。目にとまったのはサスペンションアームのアルミから鋼板プレス成形品への転換である。




 高強度と軽量化の両立手段として、サスペンションアームのアルミ化はよく知られる手段である。鍛造品として仕立てる際に形状の自由度が高いことから、高剛性デザインにできるのも、キャストアルミ部材のメリットのひとつだ。


 それに対して鋼板でアームを作るとき、同程度の強度/剛性を確保するためには上下モナカ合わせの溶接構造とするのが一般的である。新日鐵住金はそのような構造にせず、打ち抜きのアームの一辺にのみブレースを溶接、モナカ合わせと同等の性能を実現した。強度解析をした結果、収縮するこの部分に補強を加えれば性能を満足させられるという。


 

従来品は780MPa材で作っていたことでアルミ品に対して重量でかなわなかったが、今回980MPaを用いることでアルミ鍛造品に比肩しうる重量にできた。

 展示品を実際に持つと、アルミ品に対して板金品はとても軽く驚いた。しかしこれは、アルミ品に備わっているピボットやブッシュ類が備わっていないからとのこと。現状では同等レベルの重量に収まるという。では、高強度鋼板を使えばもっと軽くすることはできるのかと訊いたら、可能性はあるという。


 加えて、鉄の性情も後押しする。アルミの材料疲労特性に対して高寿命ということもあり、特性を改善できるのだ。常に振幅を繰り返す部材だけに、ここは大きく期待できるところである。




 頑丈なアーム+サブフレームというトレンドが、頑丈なサブフレーム+軽いアームという流れに、近年の新型車を眺めると感じる。本技術はその「軽いアーム」の実現に寄与できるだろう。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 じつは、鉄は軽い!? 新日鐵住金の考えるクルマの軽量化技術