TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
東京オートサロンに出かけるのは晴海時代(古っ)を含めて何回目になるだろうか。近年は「モータースポーツ」関連を軸に、最新量産モデルやチューニングカーに寄り道しながら、会場を歩いている。
プレスコンファレンスが始まる15分前(つまり1月11日金曜日午前9時15分)に東8にあるTOYOTA GAZOO Racing(以下TGR)のブースにたどり着いたら、ステージのまわりはすでに黒山の人だかりで、引き返そうかと思った。引き返しても誰も困らないが、そうもいかないと思い直して人だかりから少し距離をとって始まりを待つことにした。ステージはまったく見えないが、近くにステージの様子を映し出すモニターがあった(ラッキー)。
お目当てはGRスープラ スーパーGTコンセプトである。プレスコンファレンスとフォトセッションが終わってステージの見通しが利くようになったところで眺めてみた。隣に、カモフラージを施した新型スープラ(A90)プロトタイプが展示してある。
こんなに小さなクルマで「GT500のベースとしてどうなの?」という疑問が湧く。例えば、BMWはWEC(FIA世界耐久選手権)に参戦するLMGTEの車両を開発する際、コンパクトなZ4で運動特性および空力面で苦しんだ反省もあり、大柄なM8を選択した。重量増は悩ましいが、ホイールベースが長くなって旋回時の挙動は安定するし、フロアの面積が増えてダウンフォースの獲得に有利になるからだ。
しかし、これと同じロジックはGT500にはあてはまらない。ベース車両が大きかろうが小さかろうが、GT500の技術規則に合致した車両に仕立てれば、似たような性能に収束するようにできているからだ。GRスープラ スーパーGTコンセプトは大まかに表現すれば、ベース車両である新型スープラを前後方向と幅方向に拡大し、高さ方向には押し潰した寸法になっている。
WECのLMGTEはFIA GT3などと同じでベース車両の車体骨格をそのまま用いるが、DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)と技術規則を共有するスーパーGT GT500は、共通モノコックを使う決まり。ホイールベース値も規定されており、2750mmである。全長は4725mmだ(2020年の規則では変更される見込み)。全幅は1950mm、全高は1150mmである。
ベース車両を問わず、ボンネットフード先端の高さ、ルーフの高さ、Cピラーの位置は共通。前面視した際と側面視した際のボディ外寸を調整するスケーリング(例えば、前面視した際にキャビンがコンパクトな車両は広くする)が導入されているので、ベース車両にかかわらず前面投影面積は変わらないし、サイドシルエットも似通ったものになる。
GRスープラ スーパーGTコンセプトを見ると、トランクリッド上面に水平の板が張り出しているのがわかる。これは性能向上を狙ったアイテムではなく、規則で定められたもの。空力性能に差が出ないようにするための策だ(「うまくできている」と各社の開発エンジニアは口をそろえて証言する)。LC500などのようにベース車両がボリューム感たっぷりの場合は目立たないが、スープラはお尻が小さいので庇のように張り出してしまっている。
結論からいえば、ベース車両が大きかろうと小さかろうとGT500車両に仕立てたときのパフォーマンスに大きな影響はない。ただし、ベース車両が変われば開発はイチからスタートすることになるので、開発陣は今ごろ大忙しに違いない。
ちなみに、東京オートサロンで初公開されたGRスープラ スーパーGTコンセプトは単なるショーカーではなく実走が可能。とはいっても2020年スペックになっているわけではなく、レクサスRC Fがベース車両だった2015年がベース。デザインラインと呼ぶ空力開発可能エリアの一部であるサイドシルの処理にその面影が残っている。