一般にその対策として、①完全重希土類フリー化技術開発、②希少な重希土類資源を高効率に有効活用する技術開発、③新たな資源開発、④リサイクル技術開発、⑤代替技術開発など、様々な取り組みが行われている。昨今、急激に進行しつつある自動車の電動化を永久磁石の分野で支えていくためには、いずれも重要な取り組みであり、これらの取り組みを通じて磁石業界として多様な選択肢を提供することが必要不可欠である。
そのような中、大同特殊鋼、ダイドー電子とHondaは2016年9月、ハイブリッド車用駆動モーターに適用可能な高耐熱性と高磁力を兼ね備えた、重希土類完全フリー熱間加工ネオジム磁石を世界で初めて※3実用化した。ダイドー電子では、ネオジム磁石を一般的な製造工法である焼結工法ではなく、熱間加工法により製造している。熱間加工法は、ナノレベルの結晶粒を高度に配向させることができる技術で、一般的な焼結磁石の10分の1程度の微細な結晶粒組織を得ることができ、より高い耐熱性が実現可能。この熱間加工法とHondaのモーター設計技術の進化により、ハイブリッド車駆動モーター用に実用化された重希土類完全フリー熱間加工磁石は、Honda製1モーターハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-DCD※4」を搭載する小型ハイブリッド車に採用され、以降、同社はその量産拡大を図ってきた。
今回、2016年の小型ハイブリッド車向けでの実用化に続き、さらに高トルク、高出力が求められる、Honda製2モーターハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-MMD」を搭載する中型ハイブリッド車にも、重希土類完全フリー磁石が採用された。課題となる耐熱性は、熱間加工法により磁石の耐熱性を高めると共に、磁石形状の適正化を始めとするモーター磁気回路の新規開発、また、モーター内で磁石を積極的に冷却する軸芯冷却構造の採用などにより達成された。Hondaにより開発された軸芯冷却構造は、ローターの回転中心であるシャフト内に冷媒であるATFを供給し、遠心力を利用してローターを直接冷却する方式。ステーター上部からATFを滴下する従来方式と合わせて採用することで、冷却性能が向上されている※5。
同社は今後、需要状況に応じ、随時、重希土類完全フリーネオジム磁石の生産拡大を図っていく方針。永久磁石は急激に進行しつつある自動車の電動化シフトの中で需要が拡大する一方、資源課題を抱えていますが、同社は重希土類完全フリー化技術により選択肢の多様化を図ることで、自動車の電動化に貢献すると共に、今後、拡大が期待される磁石事業の育成を図っていく。
※1: 希土類(レアアース)の区分の一つ。軽希土類、中希土類、重希土類の3つに分類。
※2: i-MMDは、Intelligent Multi Mode Drive(インテリジェント・マルチ・モード・ドライブ)の略。
※3: 大同特殊鋼調べ。
※4: i-DCDは、Intelligent Dual Clutch Drive(インテリジェント・デュアル・クラッチ・ドライブ)の略。
※5: INSIGHT PRESS INFORMATION資料 (https://www.honda.co.jp/factbook/auto/INSIGHT/201812/)および青木忠信, 伊東悠太, 内藤友和, 平西亨:「高出力モータへの重希土類フリー磁石適用技術」,自動車技術会 2018年秋季大会学術講演会講演予稿集より。