今シーズンから使用される「Gen2(=ジェン・ツー:第2世代)」のマシンは、モーターに供給可能なエネルギー量がほぼ倍増したバッテリーを搭載し、昨シーズンまで行われた決勝レース途中でのマシン乗り換えが必要なくなった。また、モーターの最高出力も200kWから250kWに増え、最高速度が時速225kmから280kmにアップするとともに、静止状態から2.8秒で時速100kmに達するなど大幅な性能向上が図られている。
ヴェンチュリー・チームでは、昨シーズンも活躍したエドアルド・モルタラ(スイス)と、元フォーミュラ1(F1)ドライバーのフェリペ・マッサ(ブラジル)がZFのパワートレインを搭載したマシンをドライブする。また、今シーズンデビューしたドイツの「HWAレースラボ」チームは、ヴェンチュリーのカスタマーチームとしてレース車両の供給を受けて参戦する。従って、シーズン5ではZFのパワートレインを搭載した4台が、毎戦フォーミュラEのスターティング・グリッドに並ぶ。
ZFで、フォーミュラEの電動アクスル開発を担当するテクニカル・プロジェクト・マネージャー、トバイアス・ホフマン氏は以下の様に語っている。
「モータースポーツにおいては、ものすごい速さで技術開発が行われます。また、技術規定に関する詳細が明確になる前に開発を進める必要があったため、突発的なレギュレーション変更などへの迅速な対応力も要求されました。そんな中、成功の鍵はZFグループ全体でのプロジェクトへの取り組みです。Eモビリティ事業部を中心に、特にZFレースエンジニアリング社とZFのアドバンスエンジニアリング部門がこのパワートレインの開発に大きな役割を果たしました」
ヴェンチュリーが搭載するシステムは、モータースポーツ専用の電動パワートレインとしてZFが初めて開発したもの。量産用システムと比較すると非常に高性能で高いトルクを有するフォーミュラEのパワートレインには、効率の良さも求められる。そこで新しいパワートレインは、電動モーターとトランスミッションの作動時における相互作用の最適化も念頭に開発された。
つまりフォーミュラEでは出力上限が決められているため、パワーの効率的な伝達が非常に重要。「競争力向上のため、トランスミッション設計に大幅な変更を行いました。今シーズン用のトランスミッションは、ZFとして初めてシングルギヤ(1速)を採用するとともに、ハウジングには軽量合金を使用しました。その結果、昨シーズン用と比較して40%近くの軽量化を実現するとともに、パワートレイン全体での効率も向上しました」と、ホフマン氏は付け加えている。
インバーター(パワーエレクトロニクス)も、ZFとして初めて高性能シリコンカーバイド・モジュールを使用して開発された。またケーシングは、全てカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)で作られている。コントロールソフトウェアは量産車用をベースに数年にわたるテストを繰り返し、モータースポーツ向けの最適化を施している。
ZFレースエンジニアリング社のノルベルト・オーデンダールCEOは、シーズン開幕にあたり以下の様に述べている。
「ショックアブソーバーやクラッチなど当社の伝統的な製品に加え、電動パワートレインのレースへの投入を通して、モータースポーツおよび電動モビリティにおける、特に過酷な環境下におけるZFの技術力を披露したいと考えています。そうした当社の方針に、フォーミュラEはベストな舞台を提供してくれるでしょう」