REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
RIDING IMPRESSION●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
撮影協力●ホンダコレクションホール/ホンダモーターサイクルジャパン
PHOTO●ホンダモーターサイクルジャパン/近田 茂
ホンダが大きく飛躍したきっかけとなった代表的なモデルは、世界に誇るスーパーカブだろう。スーパーカブは、1958年(昭和33年)に初代スーパーカブC100が登場以来、年月を重ねるごとの着実に進化した。
2018年(平成30年)にはキャストホイールやフロントディスクブレーキを備えた豪華な「スーパーカブC125」が発売されるなど、今もなお多くの人々に支持されている。
「カブ」というネーミングが生まれたのは、「スーパーカブC100」ではなく、1952年(昭和27年)にリリースされた「カブF号」から。
カブF号とは、正確には“自転車用補助エンジン”のこと。市販の自転車に、重量約6kgのカブF号(補助エンジン)を組み合わせるというシンプルな構造で、庶民の生活にもすぐに浸透。2ストロークエンジンならではのサウンドから、カブF号は通称“バタバタ”とも呼ばれ、親しまれた。
別名“自転車オートバイ”とも呼ばれたカブF号は、全国的に爆発的なヒットとなり、スーパーカブC100に先駆けて、ホンダ躍進の基盤を築いた。
「Cub」のロゴが描かれた、赤いエンジンカバーが目印となるカブF号は、空冷2ストローク単気筒49cc(ボア40mm×ストローク39.8mm)。最高出力は1.0ps/3600rpm、最高時速は35km/hに設定(ともにカタログ値)。
駆動方式はチェーン。左右のペダルを両足でこぎ、タイヤを回転させて始動させるしくみだ。
カブF号を装着した写真の自転車は、山口自転車製。レトロ感に満ちたスプリング付きのサドル、左右に広がったハンドル、ワイヤー式ではなくアーム連動式の前後ブレーキを採用した「戦後間もない昭和のテイスト」が随所に伺える。
カブF号のポイントは、湯たんぽor水筒のような白いガソリンタンク。草刈り機のようなレバー式スロットルも、カブF号ならではの装備だ。
「カブF号」を発売するにあたり、ホンダは全国の自転車店に着目し、全国の約5万5000店の自転車販売店に「カブF号」の販売促進用ダイレクトメールを送付。前金と引き換えに、段ボール箱に詰めた「カブF号」を発送するという、当時としては革新的な方式で販売された。写真上は当時の発送方法を再現したものだ。
補助エンジンである「カブF号」の当時の販売価格は、2万5000円。「カブF号」の売れ行きは上々で、約1万3000店の自転車販売店が、ホンダの新たな販売拠点となった。
カブF号の成功で、ホンダは大型設備投資や新工場を建設。6年後に発売される、スーパーカブC100の大きな足掛かりにもなった。
ポートカブC240の走りを、当サイトでもおなじみのジャーナリスト・近田 茂氏にレポートしてもらおう。(以下、近田氏)
発売当時は、エンジン音から別名「バタバタ」とも呼ばれたカブF号。「自転車オートバイ」と言われていたのも懐かしい。男性はもちろん、当時は女性が運転していたのも多かったと記憶している。
補助エンジンを搭載した試乗車は、山口自転車製の実用車。業務用自転車とも呼ばれる、いわゆる荷物運搬用のヘビーデューティーなタイプだ。体感的に車重は、30kg前後あると思われる。
カブF号とは、自転車用補助エンジンを指す。カブF号は汎用型なので、別の自転車にも後付けできるのが、当時の大きなポイントであり、メリットとなった。
マシンにまたがって、車体を起こしてみる。パワーユニットはリヤタイヤ左脇の低位置にマウントされるためか、約6kgのエンジンの重量はさほど気にならない。
エンジンの始動は、ペダルをこぎながらの、いわゆる押し掛けスタート。操作方法は、ハンドル左手にあるレバーを親指で押しながらペダリング。レバー操作でクラッチが切れるので、まずはペダルをこいで発進する。
その後、レバーを離せばクラッチが繋がってクランキングされる。しばしペダルに抵抗を感じるが、そのうちにエンジンが始動。ペダルをこがなくても、リヤタイヤを回転してくれる仕組みだ。
ハンドル右側のスロットルレバーを調節すれば、まるでクルーズコントロールを設定したような走りになる。
もっとも“バイク”のようなパワフルさはないから、上り坂などでのパワー不足の時は、人力でペダルをこいでエンジンをアシストしてやればOK。あらゆる面で規制の緩かった、昭和20年代の大らかさが窺い知れる1台だ。(近田 茂)