多くのカテゴリー、特に世界の主要24時間レースにはすべて参戦経験を持つレーシングドライバーの松田秀士さん。そして、「美しすぎるレーシングドライバー」として、サーキットレースやドリフト競技、ラリーそしてゲームのキャラクターとしても登場している塚本奈々美さん。このおふたりに共通するのは『眼のトレーニング』を継続して行っているということ。「イワキメガネ」関内店でスポーツヴィジョントレーニングを行うおふたりに、「モータースポーツと眼のトレーニング」をテーマに対談を行なっていただきました。

世界中の24時間レースに参戦している松田秀士さん

ーー松田秀士さんはアメリカのインディカーシリーズに参戦して、1996年のインディ500では8位入賞されたという輝かしいエピソードとともに、世界中の24時間レースにも出られてますよね? ル・マン24時間レースやニュルブルクリンク24時間レースはもちろん、デイトナ24時間レースやスパ-フランコルシャン24時間レースにも出られています。




松田秀士(以降、松田)「そうですね。スパに関しては5回出ていて、ニュルブルクリンクの24時間は3回ですね。あとはル・マンが2回、デイトナが1回。N1レース時代に十勝24時間レースも出ていますよ。面白いエピソードがあって、当時のマシンはデフロスター(曇り防止装置)がないので、大雨のレースでは窓が曇ったらクルマに積んであるバケツの中に中性洗剤とモップで走りながら拭いて……なんてことをやってた時代もありました(笑)」




ーーレースしながらモップで窓拭きですか! すごい時代ですね。そんな24時間レースに出場する一方、F3やF3000、そしてグループAやグループCのレースにも出られています。日本のGTレースに関しては100戦以上ですね。




松田「ル・マンはローラ・ジャッドでSWC(スポーツカー世界選手権)でした。デイトナはスパイスというグループCカーのシャシーがあって、それにシボレーの6リッターエンジンが搭載されていましたね。700ps出ていました。これは笑ってしまう話なのですが、予選では4000回転しか回せなくて、レースになったら2500回転! だけどすごいトルクがある。でも記憶としてはデイトナがきつかったですね。なぜかというと1月にあるレースなので、夜がめちゃくちゃ長いんですよ。昼間がおそらく6時間程度しかない。夜が長いから非常にきついんです」




ーーそんな松田さんが眼に対するケアを始められたのが20年ほど前だと聞いています。どんなきっかけがあったのですか?




松田「きっかけはF3000をやっているときでした。1時間から1時間半あるF3000のレースを終えると、体力的に非常にきつい。当時はパワステもなく、シフトもHパターン。ダンフォースも非常にきつくて大変なレースでした。レースが終わると眼が真っ赤になっているんです。最初はゴミやほこりが入っていると思っていたのですが、特に眼の内側がひどく赤くなるんですよね。当時、鈴鹿のヘアピンを立ち上がってスプーンに行くまでの路面は今よりもだいぶ荒れていました。そこをF3000で走ると5速で全開。当時はトランスミッション自体に6速がなかった。5速全開でスプーンまで行くのですが、できるだけ抵抗を少なくしたいからコース幅をいっぱいに使ってきれいにアウトに走りたい。外に膨らむときに、左側の視力というか視界がすごく大事なんです。でも、なんか左側の眼だけスクリーンに映っているような感じがしていたんです。遠近感がまるでなく、左目だけが画面を見てるような感覚になっていて、これはおかしいと思いました。




ーーお医者さんに行かれたんですか?




松田「はい。自宅の近くにあった眼科に行って先生に話をしたら、視力自体は1.5で問題はない。調子が良いと2.0くらいまで見えていることもある。だけど先生がすごく親切な方で、『近視もないし乱視もひどくはないけれど、もしかしたら隠れた遠視があるかもしれないから半日ぐらい検査のつもりで来てください』と言ってくれたんです。なぜ半日も必要かというと、検査用の目薬を入れると瞳孔が開いて、その状態で視力検査するといろいろなことが分かるからなんです。そこで見てもらったところ、わずかだけど明らかに隠れた遠視があることが分かりました。それがまず疲れの原因であり、頭の中が疲れてるんだよと言われました。ただその後、先生が体を悪くしてしまって、結果的にその眼科はなくなってしまうんです」




ーーそれはいきなり大変でしたね。




松田「僕もそれで1回遠視用のメガネを作ったのですが、まったく合わなくて違和感がものすごかった。全然メガネをかけていられないんです。そもそも、僕はもともとディスプレイを見るとものすごく疲れるタイプ。ちょうどショルダータイプの携帯電話から、かまぼこ形の携帯電話になったころでした。小さなディスプレイが見えなくて困りました。原稿も手書きのものをファックスで送るような時代だったのがワープロになり、そこでもすごく疲れを感じた。それが次に液晶のカラー画面になり、パソコンが出始めたのですが、これもものすごく疲れる。その後、スマホが普及するようになるんだけど、とにかく目がひどく疲れる。首はもともとF3000時代に怪我をしていることもあり、すごく凝って手がしびれたりもする。これはなんとかしなければと思っていたときに、イワキメガネさんを紹介していただいたんです。アイメトリクス製(※顔の立体形状を3D計測して組立てるオーダーメイドのメガネ)のメガネを買って、きちんと検査もしていただき、遠視と乱視が少しあることも分かり、それでものすごく日常が楽になりました」




ーーレースへの影響はありましたか?




松田「そのころはGTにも乗っていましたが、10周くらいはもつ。でも10周を超えてくるとブレーキングポイントが若干曖昧になるような状態で、それは自分でも自覚がありました。これはダメだと思って別のメガネを作っていただいて、それからは安定し始めた。当然加齢とともに老眼が進んだりといろいろなことが起きるので、それを修正していただきながら、遠近両用を使うようになってみたりもしました。そういうことでかなりクリアしていったんです。アイメトリクスさんにお世話になり始めてからすぐに、こういったビジョントレーニングというものを始める機会に恵まれました。これからもっと広めていきたいから、よかったらやりませんかと誘われて始めたのがきっかけです」




ーーイワキメガネさんに誘われたんですね。




松田「はい。でも、始めたのはいいけれど、このトレーニングがものすごく疲れるんです。こんなに疲れるものだとは思わなかった。僕はトレーニングが結構好きで、当時は、水泳や加圧トレーニングなどもそのころからやっていました。持久力をつけるために、ノンストップで1時間泳いだりもしていたんですよ。それでも、この眼のトレーニングはまたちょっと違うものだと思いましたね。




ーーというのは?




松田「筋トレでパンプアップして、音を上げているようなものとは違うなと。けれどもそれだけ疲れるということは、自分の中にだめなところがあるということ。先ほども話したようにF3000時代の目の問題もあるし、視力に対してひどく自信をなくしつつありました。トレーニングやるとこんなにダメになっちゃうのだから、きっとそういうところが弱いのだと思い、続けてきたんです」

距離感の認識が苦手だった塚本奈々美さん

ーー塚本奈々美さんは、こちらに1年間くらいお世話になっているとのことですが、きっかけはどういったことですか?




塚本奈々美(以降、塚本)「距離感を取るのが下手だなと思っていたんです。サーキットで走っているときは、50mや100mの看板など目印が多いですよね。ところがドリフトをやってみたときに、スポッターと呼ばれる指令を出す人間から「あと1メートル奥に来い」というような指示が出たときに、逆に手前になったり奥になりすぎたりとずれることがあったんです。『お前の距離感の感覚はどうなってるんだ』と、よく喧嘩になりました。私もそのことで悩んでいたんです。奥に来いと言われても、自分の中でこれが1メートルと思っていたものが全然違う」




ーーそこで原因の追究を始めた。




塚本「脳科学の本を読んでみたり、いろんなことをやってみたのですが、あるときにイワキメガネさんにお世話になったときに、眼のトレーニングを行なっているということを知って興味を持ちました。スピードに対しての眼の力、見る力も弱いだろうし、もともと私は眼が疲れやすい。PC眼鏡をかけないと眼が痛くてパソコンも見られないし、スマホを見ていてもどんどん眼が疲れてくるんです。野球選手とかがテレビ番組で、早い動きのものを見極められるかどうかみたいなことをゲーム的にやっているのを見て、私には見えないんだろうなと思っていました」




ーー原因はわかりましたか?




塚本「イワキメガネさんで見ていただくと、左目がすごく弱いということが分かりました。もともと乱視が強いですし、見る癖もありますし、レーシックもやっています。また、もともとの自分の癖とか、いろいろなことがあって寄り目をすることもできなかった。左目がサボってしまうから寄ってくれないんです。自分には弱い部分が多くあるということが分かり、せめて眼の疲れを取ることだけでもと思って始めたのですが、日常生活がどれほど変わったかを毎回報告できるようになっていました」

平均台の上を歩く訓練。
眼を開けながら、そして眼をつぶりながら前進する。


ーー結果はすぐに出たんですね?




塚本「そうですね。その後ニュルブルクリンクで夜のレースを走らせてもらいましたが、情報量が多い。S耐に出たことすらもないのに、あれだけいろいろな車に抜かれたり、いろんな旗が振られていたりとか……」




松田「今はもっと少ないかもしれないけれども、200台から300台位が出ているからね」




塚本「やるべきことがたくさんあるのに、さらにたくさんの判断もしなければならない。そのときに、昔に比べて見る力がとてもついていると思ったんです。こっち(※たとえば体の右側)に集中しているけれど、ここ(※たとえば体の左側)で起きている情報も拾えるようになって、そういうことは昔だったら絶対にできなかっただろうと実感しましたね」




ーートレーニングの効果が表れているということですか?




塚本「ここには2週間に1回通っていますが、1ヵ月から2ヶ月くらいで本を読んでいても疲れなくなりました。眼に力が入っているという感覚がなくなったんです。ドリフトなどの競技をしているときにも、距離感で怒られることが少なくなったし、ブレーキングポイントも見極められるようになりました。これは続けなきゃいけないと思いましたね。




ーーどんなトレーニングをされたんですか?




塚本「様々なメニューがありますが、たとえば、いろんなことをやりながら声をかけられて判断するというようなものは、松田さんが一緒に開発されたものに近いものでした。今年からはラリーもやらせてもらっています。TGRラリーという、入門ラリーですが、人に情報を与えてもらって目とは別に判断するという作業になります。しかもクルマがサーキットとは違う動きをする。でもそこもすんなり拾えたし、逆にまだこういう課題があるということも感じられたので、また相談をしながらメニューをステップアップさせたりしています」




(つづく)

上下の紙に振られた数字を順番に読む。たとえば、上の紙の左上、下の紙の左上・・・と順番に、眼を動かしながら読みあげる。やってみると、眼と脳が非常に疲れる。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 【対談】レーシングドライバーは眼が命。松田秀士さんと塚本奈々美さんが行なっている「ヴィジョン・トレーニング」とは?