東京海洋大学とABB Corporate Research、新日鐵住金は、共同で新しい超電導バルク同期モータの開発を進めてきた。これまでの多くの超電導モータでは超電導の電線を巻き線したコイルが用いられてきたが、このたび東京海洋大学とABBは新日鉄住金が開発した高品質な超電導バルク材(QMG)複数を組み合わせて成形集成した大型磁石を採用して出力30 kWの実証機を設計・製作し、回転試験に成功した。本実証機の設計構造は、出力MW(メガワット)級のモータや発電機に容易にスケールアップが可能であり、電気推進船その他の輸送システム、風力発電などへの超電導モータの実用化に向けた新たな可能性を広げるもの。

 2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)に示されるように、効率的なエネルギーの創生と利用による人の生活と環境との持続的共生は世界にとって重要な課題である。世界の用途別電力消費量のうち約半分はモータによって占められるように、モータのエネルギー消費量は非常に大きく、0.1~0.2 %の効率改善でも省エネ効果や省CO2効果が大きいと言われている。モータの高効率化のひとつの手段として、電気抵抗がゼロになる超電導技術の適用があり、世界中で超電導モータの実用化を目指した研究開発が進んでいる。




 超電導バルク材は、超電導材料の結晶の塊で半導体シリコンのように種結晶を使って溶液から成長させて製造、整形する。形状は合金系永久磁石と同様のブロック状だが、10倍以上の磁場強度が可能。同じ物質から製造した超電導線材を巻線したコイルに比べて、小さい体格・寸法で高い磁場(10T(テスラ)以上)を発生できることから大型超電導機器のコンパクト化に期待が寄せられている。


 一方で、高品質で大面積の超電導バルク材の製造には制約があり、従来は大型の超電導磁石やモータに代表される大型超電導機器等への適用は困難と考えられていた。この課題の解決を含めて東京海洋大学、ABB、新日鉄住金の3者の開発したモータは、次のような特徴をもっている。




①モータの回転子に組み込む超電導磁石(界磁極)として高品質な超電導バルク材を成形・集成、組み合わせて構成する新しいバルク界磁極ユニットを考案採用


②バルク界磁極ユニットをモータに組み込んだ状態で容易に着磁できる新しい着磁方式の考案採用


③バルク界磁ユニットは標準化可能であり、30kW実証機から大出力機まで同一規格かつ寸法仕様の高性能の界磁極ユニットを提供




 グループは異なる回転数や負荷の状況などの実回転試験を行うことで、実用化への懸念事項のひとつである減磁の問題を含めた超電導バルク材の挙動を検証した。これまでに最長360時間の負荷試験を含め総計700時間に近い運転を実施している。実証機の最大トルクは537Nmで、超電導バルク材を利用したモータとしては世界最高値。




 超電導バルク方式のモータにおける懸念事項であった運転中の界磁極ユニットの温度安定性と減磁の可能性に関しては、良好な温度安定性(±2℃以内の温度変動)と磁場安定性(減少率は磁場センサの誤差範囲内である1%以下)を確認した。今回の成果は、電気推進船その他の輸送システム、風力発電などへ適用可能な、超電導バルク材を利用した新しい方式の大出力高効率モータの実現可能性を示すもの。今後、超電導モータの開発が進み実用化されると、持続可能な社会の実現に貢献できるものと期待される。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 東京海洋大学/ABB/新日鐵住金:船舶や風力発電用の超電導バルクモータを新開発