超電導バルク材は、超電導材料の結晶の塊で半導体シリコンのように種結晶を使って溶液から成長させて製造、整形する。形状は合金系永久磁石と同様のブロック状だが、10倍以上の磁場強度が可能。同じ物質から製造した超電導線材を巻線したコイルに比べて、小さい体格・寸法で高い磁場(10T(テスラ)以上)を発生できることから大型超電導機器のコンパクト化に期待が寄せられている。
一方で、高品質で大面積の超電導バルク材の製造には制約があり、従来は大型の超電導磁石やモータに代表される大型超電導機器等への適用は困難と考えられていた。この課題の解決を含めて東京海洋大学、ABB、新日鉄住金の3者の開発したモータは、次のような特徴をもっている。
①モータの回転子に組み込む超電導磁石(界磁極)として高品質な超電導バルク材を成形・集成、組み合わせて構成する新しいバルク界磁極ユニットを考案採用
②バルク界磁極ユニットをモータに組み込んだ状態で容易に着磁できる新しい着磁方式の考案採用
③バルク界磁ユニットは標準化可能であり、30kW実証機から大出力機まで同一規格かつ寸法仕様の高性能の界磁極ユニットを提供
グループは異なる回転数や負荷の状況などの実回転試験を行うことで、実用化への懸念事項のひとつである減磁の問題を含めた超電導バルク材の挙動を検証した。これまでに最長360時間の負荷試験を含め総計700時間に近い運転を実施している。実証機の最大トルクは537Nmで、超電導バルク材を利用したモータとしては世界最高値。
超電導バルク方式のモータにおける懸念事項であった運転中の界磁極ユニットの温度安定性と減磁の可能性に関しては、良好な温度安定性(±2℃以内の温度変動)と磁場安定性(減少率は磁場センサの誤差範囲内である1%以下)を確認した。今回の成果は、電気推進船その他の輸送システム、風力発電などへ適用可能な、超電導バルク材を利用した新しい方式の大出力高効率モータの実現可能性を示すもの。今後、超電導モータの開発が進み実用化されると、持続可能な社会の実現に貢献できるものと期待される。