プレゼンテーションや広報資料ではブレーキについての言及はなかった。ということはイースと同じシステムを用いているということか。なおさら、何か工夫を凝らしているのではと想像する。さらに、4WD仕様がベンチレーテッドディスクを装備しているということで、そのあたりをご担当者に訊いてみた。
お答えいただいたのは、車両性能開発部の前平拓哉さん。当方の予想どおり、4WDの仕様を変えたのは質量が増加したからで、熱容量を検討した結果だという。具体的には、FWDの12インチロータに対して、4WDのベンチレーテッドロータは13インチに径を拡大、さらに前後の制動バランスを取るためにリヤドラムについてもFWDの165mmから4WDは180mmにドラムを大きくしている。なお、シュー幅は同じ。
とはいえ、FWDに採用したブレーキシステムはイースと基本を同じくするもの。イースの車重670kg(430kg/240kg)に対して、トコットの車重は720kg(460kg/260kg)。50kgものウェイト増ながら、あのブレーキフィールはどうやって実現したんですかと訊いたら、一例として──と教えていただいたのがペダルの話だった。
イースと同じブレーキだというなら、じゃあレバー比を変えて効きを調整したんですかと問うても「いえ、同じです」とおっしゃる。じゃあペダルレイアウトが違うんですかと訊いたら「わずかに違います」というお答え。む。わずかってなんでしょう。「ペダルシートが違うんです」。
ペダルシートとは初めて聞く単語である。お察しとは思うが、いわゆる踏む部分である。シートの形状と角度がイースからチューニングしてあるという。
軽い操作力で、女性や老人でもコントロールしやすいというコンセプトに沿って車両は開発された。クルマが重くなったからと制動力の立ち上がり方を変えると、意図した方向性から外れてしまう。また、短いストロークの中で効きが変動するとカックンブレーキとなり、だからストロークを稼ぐように、足首の角度でコントロールできるようにペダルシートに改良を施した。これにより、ブレーキペダルが重たいという印象を払拭、軽い操作感を実現した。
プレゼンテーションでもポイントとされていた軽い操舵感とのバランスも良く、一体感を生み出せたと前平さんは胸を張る。そのとおりだ。しかしシャシー班で綿密な擦り合わせをした結果ではなく、それぞれが目指した完成形が偶然同じフィーリングを創出できたのだという。車両の開発コンセプトがいかにしっかりしていたのかを物語る。
「じつは」と前平さんはさらに続ける。もともとはすべて4WDのブレーキサイズ、ワンスペックで開発を進めていたのだという。ちなみにこちらはムーヴ/タントのシステム。しかしそうするとオーバスペック気味であり、ばね下重量の増加やそれにともなう車両運動性の違い、そしてコストの問題などが生じてしまう。そこで、イースのシステムを用いる「ワンサイズ小さいもの」の開発がスタート、車両重量が軽いのでフィーリングを含めた制動性能を満足できるブレーキができあがったという。
たかが50kgというなかれ。クルマが猛烈に軽いのだ。そこにおける人間一人分に当たる重量の影響は計り知れない。現有のリソースを用いながら知恵と工夫でクリアしたエンジニアの執念に感動した試乗だった。