レーシング・コンストラクターとして名を馳せるイタリアの「ダラーラ」。これまで数多くのレーシングマシンやフェラーリをはじめとするスーパースポーツカーの開発に携わるなど表立った活動はしていなかったが、ついに自らのブランド名を冠したロードカーを製作、「ストラダーレ」という直球のネーミングをもってリリースを開始した。果たしてその完成度とは?




REPORT/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

ダラーラ製だからこそ価値がある。

フェラーリ、マセラティ、ランボルギーニ、そしてデ・トマソと、さまざまなイタリアン・メーカーでエンジニアとしての卓越した才能を発揮し、その後は自らのレーシングカー・コンストラクターを設立……。これまで多くのサクセス・ストーリーを残してきたジャン・パオロ・ダラーラ。一昨年の11月に70歳の誕生日を迎えた彼は、この時にきわめて衝撃的なニュースを世界に向けて発信した。それは彼自身が長年の夢としてきた、ダラーラ社独自のスポーツカーを限定生産すること。そしてそれからちょうど1年後に、イタリア語で“道”を意味する“ストラダーレ”の名を掲げ、正式に発表された。ちなみに「ダラーラ・ストラダーレ」は、今後5年間にわたって600台のみが生産される計画だ。




ダラーラ製のロードカーをドライブすること。それがいかに高い価値があるのかは、現在同社によって供給されている、アメリカのインディカーシリーズや日本のスーパーフォーミュラなどに投じられるマシンの存在を知る者には多くの説明を必要としないはず。ダラーラはこれらのトップカテゴリーともいえるモータースポーツにマシンを独占供給するコンストラクターである。インディカーは2018年から全車共通のユニバーサルエアロキットを導入。スーパーフォーミュラも2019年には新型シャシーの「SF19」を採用するが、これらはいずれもダラーラによるものだ。それらと同じダラーラ製のロードカーを手に入れ、公道やサーキットで自由にその走りを楽しむチャンスが、600人のカスタマーに与えられたのだ。それを価値あることと表現するのは当然だろう。

まずはダラーラ・ストラダーレの概要を解説しておきたい。実際にこのモデルを見て、まず感動させられるのは、優秀なエアロダイナミクスそのものを表現したかのようなボディデザインだ。ダラーラと、トリノのグランスタジオのコラボレーションによって誕生したストラダーレのボディは、フロントウインドウさえ備わらない、イタリアの伝統的なオープンスタイルともいえる“バルケッタ”が基本。カスタマーはここから、フロントウインドウを装着した「スパイダー」、Tバールーフの「タルガ」、そしてガルウイングドアを備えるフルキャノピーの「クーペ」へと、アタッチメントパーツを使用することで好みのスタイルにストラダーレを変身させることができる。




このようなシステムを可能としているのは、ダラーラの誇る軽量で高剛性なCFRP製モノコックを基本構造体とするからであり、走行中のストレスはすべてこのモノコックが負担する構造であることが直接の理由。CFRPで成型されるボディパネルはカウリングに過ぎないのだ。このモノコックの前後にはアルミニウム製のサブフレームが接続され、リヤのサブフレーム上にパワーユニット一式が搭載される。

ミッドに搭載されるエンジンは、フォード製の2.3リッター直列4気筒をベースに、ダラーラによって独自のチューニングが施されたもの。実際にはブロックを除けば、その構成部品のほとんどは一新されており、さらにツインターボのシステムがこれに加わる。最高出力&最大トルクは400ps&500Nmと発表されている。




組み合わされる6速ギアボックスは、オーソドックスな3ペダル・マニュアルのほかに、2ペダル・ロボタイズド式のセミATを選択することが可能だ。駆動方式はもちろんRWD。ダラーラの発表によれば、このストラダーレのウエイトは、最もスタンダードな仕様で855kg。この軽量性とエアロダイナミクスによって、0→100km/h加速はわずか3.25秒で、そして280km/hの最高速度が達成されるという。




参考までにこの最高速時にストラダーレが得るダウンフォース量は820kg以上。空力効率は2.4以上と、これも非常に魅力的な数値が実現されている。前後のサスペンションはダブルウイッシュボーンで、3ウエイのアジャスタブルダンパーが標準装備となるほか、サーキット走行用には車高調節機能も設定されている。

感動のエアロダイナミクスとスタビリティ!

今回ダラーラが、このストラダーレのテストドライブのために用意してくれたプログラムは、トータルで2日間にもわたるものだった。ベースとなるのは南イタリアのナルドにある、現在はポルシェによって所有されている「ナルド・テクニカルセンター」。ここは直径がほぼ4km、一周が14km強にも達する、真円の高速周回路があることでも有名な実験施設だが、今回はまず1日目にそのハンドリングコースを使用して、オプションのトラックパッケージを装着したモデルを、そして2日目には風光明媚なサレント半島の海岸線をメインとしたオンロードコースをスタンダードなモデルでドライブする機会が与えられた。ちなみにハンドリングコースでのドライブをサポートしてくれたのは、元F1ドライバーであり、このストラダーレの開発にも初期から携わってきたマルコ・アピチェラ氏。これもまた贅沢な経験ということになる。




できるだけシンプルな構造を実現するために、左右のドアすら持たないストラダーレだが、シートクッションのセンター前方には、乗車時にまず足を置くスペースが設けられているからコクピットへのアクセスはさほど難しくはない。ホールド性に優れるフルバケットタイプのシートに身を委ねると、モノコックのデザインをそのまま使用したキャビンのデザインに“マン・マシン”の一体感を視覚的にも感じることができる。




ハンドリングコースで試乗したモデルは、ロボタイズド型の6速ギアボックス仕様。ダラーラによれば、現在までのオーダーでは、ほぼ8割のカスタマーがこちらを選択しているというが、コーナリング時にブレーキとステアリングの操作に専念できるという点では、確かにそのメリットは大きい。

アピチェラ氏がドライブする、同じトラックパッケージ仕様のストラダーレを追う形で、ハンドリングコースをラップしていく。ピットレーンを加速する段階から、その軽快な動きには一瞬で魅了されてしまったが、さらにコース上では、ミッドの2.3リッター直列4気筒ツインターボエンジンのレスポンスやトルクバンドの幅広さに感動させられた。アクセルペダルの細かい動きにも忠実に、そしてほとんどタイムラグを感じさせることなく反応するエンジンの仕上がりは、カスタマーがサーキット走行を楽しむ時には大きなアドバンテージとなるだろう。高速域でのパワーフィールも素晴らしい。排気のエネルギーを使用するツインターボエンジンであることと、そしてエキゾーストシステムが短くなるミッドシップレイアウトでありながらも、そのサウンドはなかなか魅力的なチューニングに感じられた。




ハンドリングの楽しさも圧巻だった。特に驚かされたのは、ストレートエンドでの車速が240km/hほどに達した後、そのまま進入する高速コーナーで感じたスタビリティで、それはまさに強大なダウンフォースを発生するエアロダイナミクスによって得られる感動的な瞬間でもあった。エアロダイナミクスを徹底的に追求した最新世代のスーパースポーツでは、十分なダウンフォースが得られない速度域では逆にコーナリングに難しさを感じるような場面も多いのだが、このストラダーレに関しては、どのような速度域でもコーナリング時のスタビリティは絶対的だ。




試乗中にその限界など微塵も感じさせなかったモノコックの剛性感、そして前後サスペンションの正確な動きも、このような印象を抱かせる直接の理由と考えていいだろう。ジャン・パオロ・ダラーラは、昨年このストラダーレを発表する席において、「自分自身がサーキット走行した際でも、十分に楽しく感じられること」をコンセプトとしたと、今回のテストドライブ・プログラムに姿を見せたダラーラ社の現CEO、アンドレア・ポントレモリが語ってくれた。まさにそのダラーラの言葉こそがストラダーレの魅力を象徴している。

意外にも乗り心地は”快適”

 プログラムの2日目にオンロードでドライブしたストラダーレは、このアンドレア・ポントレモリ自身が所有するモデルで、ダラーラが所有する第1号車に続く、2号車として製作された個体だという。トランスミッションが3ペダルの6速MTとなること、そしてトラックパッケージを装備していないことなどが前日のモデルとは大きな違いだったが、走りの基本性能はもちろん共通。ドライブを始めた直後には、ペダルのクリアランスがやや狭いことが気になったが、慣れるにつれて積極的なシフト操作を楽しもうという気持ちになった。コーナリングは相変わらず、このストラダーレが最も得意とするところ。さらにオンロードでは乗り心地の快適さも印象的で、これはサスペンションそのものが持つ剛性の高さが大きく貢献したものであることが容易に想像できた。




キャビンにもある程度のラゲッジを収納できるスペースを見つけることは可能だが、実はストラダーレのエンジンルーム後方には、独立したラゲッジスペースが用意されている。このハンドリングの楽しさと快適性があれば、カスタマーはこのストラダーレをどこまでもドライブしたいという衝動にかられることだろう。そしてそれを実現するために、ストラダーレはロードカーとして必要十分な実用性を持ち合わせていることも最後に付け加えておかなければならない。




ちなみにこのダラーラ・ストラダーレのプライスは、バルケッタのベーシック仕様で15万5000ユーロ。世界最高峰のレーシングカー・コンストラクターが生み出した限定生産のロードカーであることを考えれば、コストパフォーマンスは相当高いといえるだろう。

【SPECIFICATIONS】


ダラーラ・ストラダーレ


ボディサイズ:全長4185×全幅1875×全高1041㎜


ホイールベース:2475㎜ 


乾燥重量:855㎏


エンジン:直列4気筒DOHCターボ


総排気量:2300㏄


最高出力:294kW(400㎰)/6200rpm


最大トルク:500Nm(51㎏m)/3000~5000rpm


トランスミッション:6速MT


駆動方式:RWD


サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン


ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク


パフォーマンス 最高速度:280㎞/h 0→100㎞/h:3.25秒 

Dallara Stradale

情報提供元: MotorFan
記事名:「 【独占レポート】ダラーラが放つ”本物のリアルスーパースポーツカー”に初試乗!