これまで、長期ストレスを把握する方法として最も一般的なアンケートは、数か月ごとの定期的な状態把握には有用だが回答者に負担がかかるなど、頻繁な実施は困難だった(Perceived Stress Scale:PSSのアンケートを使用。世界で最も広く利用され、長期ストレスも反映されるなど信頼性が高いとされている。直近1ヶ月間の心理状態を回答し、ストレスの度合、長期ストレスかどうかを識別できる)。また、ウェアラブルセンサから取得する生体情報を用いて、高ストレス者と低ストレス者を二段階で分別する技術では、高ストレスの兆候を検知することはできなかった。
本技術は、心理学の知見(二次的なストレス評価)から新たに見出した生体情報の特徴を用いて、段階別に高精度な長期ストレスの推定を可能にする。これにより、高ストレスの兆候を含めて把握することで、「高ストレスになることを未然に防ぐ」ことを実現する(図1)。本技術は、例えば、従業員本人による日常的なストレス管理や高い負荷が予測される組織へのストレス軽減施策の実施などに貢献する。
従業員の心身の健康を維持、向上させることで企業の生産性を高めることは、企業経営の上で大きなテーマとなっている。労働安全衛生法の改正により、ストレスチェックの実施が義務化されているほか、最近では、経営課題のひとつである「働き方改革」の一環として、従業員の健康管理に積極的に取り組む企業も増加している。
従業員が抱える心身の不調の主要因のひとつとして、長期的なストレスの蓄積が挙げられる。組織や従業員の健康管理上、長期ストレスの程度を雇用者や従業員本人が常日頃から把握し、対処していくことは極めて重要だが、客観的に捉えることは容易ではない。
従来から最も一般的な手法であるアンケートは、長期ストレスの程度を細かく導き出すことができる反面、回答者に負担がかかるなど、頻繁には実施できないことから、ストレスが高くなった人の発見が遅れるという課題がある。近年開発されたリストバンド型ウェアラブルセンサによるアプローチでは、取得した生体情報を用いて、ストレスが高い人と低い人の2段階に分別する技術は開発されているものの、ストレスが増加している過程など、細かなストレス状態の推定は困難だった。そのため、高ストレスになる兆候を検知することはできていなかった。
今回、複雑な関連性を持つ生体情報から、機械学習により、長期ストレスに関するストレス値の細かい差異を表現できる適切な"生体情報特徴量"の抽出手法を開発した。本手法により、長期ストレスを常時推定・把握できるため、高ストレス状態になることを未然に防ぐことが可能だ。
■ 長期ストレスの細かな差異を捉える "生体情報特徴量"の抽出手法を開発
リストバンド型ウェアラブルセンサで取得した生体情報から、長期ストレスを精度よく推定するために、今回「一時的に大きなストレスを受けると、その後些細なこともストレスと感じてしまう」という心理学の知見を導入し、これを反映できるような長期ストレスの微細な差異を表す"生体情報特徴量"を考案した。これにより、生体情報による推定で、アンケート結果に相当する細かで高精度な長期ストレス認識を実現する。
・「生体情報の時間経過による変化」を用いてストレスの細かな差異を表現
長期ストレスの推定に用いる特徴量を生体情報から抽出する際、心理学の知見を用いて、1ヶ月単位の長期間にわたり生体情報の特徴に変化がない場合と、その期間中に大きなストレスを感じて変化がある場合を区別する。最近開発されたリストバンド型ウェアラブルセンサを用いる手法によって測定された生体情報の特徴に両者に違いがみられなくても、時間経過による変化をとらえることによって、長期ストレスの細かな差異を測定できる。その結果、高ストレスの兆候を含め高精度に把握できるようになる。
今回、リストバンド型ウェアラブルセンサを使いて、本技術をNEC社内で検証したところ、従来技術と比較し、より正確に長期ストレスを推定できたことを確認した(図2)。またアンケートによるストレス値と比較したところ、平均誤差±3.3で高精度に長期ストレスを推定できることを確認した。これは高低2段階しか区別できなかった従来技術に対し、本技術では高ストレスの兆候を含めて6段階まで区別できることに相当する(図1)。
なおNECは、今回の成果の一部に関して、3月20日(火)から23日(金)まで、東京電機大学 東京千住キャンパスにて開催される「2018年電子情報通信学会総合大会」において、22日に発表した。
URL: https://www.dendai.ac.jp/event/2017/20171114-01.html