SiC(シリコンカーバイド=炭化珪素)は、炭素(C)と珪素(Si)の1:1の化合物で、ハイブリッド車やEVの走行用モーターを制御するためのインバーターなどに必要なパワー半導体に用いる新しい材料だ。従来のSi(シリコン)に比べ、電力ロスが5分の1程度にまで低減できるのがSiCの強みで、SiC製パワーデバイスが実用化されれば、ハイブリッド車の燃費、EVの電費を大きく向上させられる可能性がある。
大きく電動化へ向けて進み始めた自動車産業にとっては、きわめて重要な技術である。デンソーは1980年代からSiCの基礎研究を始め、1992年から豊田中央研究所と共同で開発を進めてきた。
2000年代に入ってトヨタも加わり開発が進展。2014年5月にトヨタは、デンソー、豊田中央研究所とともにSiCパワー半導体を開発、1年以内に走行実験を開始すると発表していた。その際にもSiCパワー半導体を使うことでハイブリッド車の燃費10%向上を目指す、としていた。
今回、SiCの結晶を作成する工程を見せてもらった。熾烈な開発競争の真っ只中にあるだけに、もちろん撮影はNG。デンソーの強みは、SiCウエハからパワー半導体、モジュール化、そしてインターバーシステム化まで一貫して自社で開発できる点にある。
デンソーが特許を持つRAF(Repeated a-face)法で製造されるSiCウエハは、その品質の高さで他の追随を許さない。結晶化が難しいSiCで結晶欠陥が他社の4分の1。ル・マン24時間を戦うトヨタのハイブリッド・レーシングカーにも使われていると噂されているSiCパワー半導体(担当者に質問したら、「そうですね。でも弊社製かどうかはわかりません」と言っていたが、他社製を使う理由はないだろう)。
現在のSiパワー半導体を使ったインバーターの電力効率が85~90%だとすると、SiCパワー半導体を使えばそれが95~97%になるというから、燃費・電費の改善に大きな力を発揮するのは間違いないのだ。