REPORT◎山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)
2017年のフランクフルト・ショーで、地元ドイツの自動車メーカーが最も積極的にアピールしたのは、自動車の電動化にさらなる加速度を生み出すことだった。ちなみにVWは、その目的を達成するために、2030年までに200億ユーロ(約2兆6000億円)を新たに投資することを発表。2025年までには80車種ものEVが新たにデビューを飾るという。VWグループのプレミアム・ブランド、アウディにとっても、もちろんEVシフトや完全自動運転の実現は重要なテーマだ。
フランクフルト・ショーのアウディブースには、それを象徴するコンセプトカーとして「Aicon=アイコン」が出品され注目を集めていたが、一方でアウディ・スポーツからは魅力的なパフォーマンスを誇るニューモデルも誕生し、内燃機関を搭載するスポーツカーにもまだまだ進化の可能性があることを印象づけた。電動化、完全自動運転、そして従来モデルのさらなる進化。今年のアウディの面白さは、それらがいずれもバランス良く、強くアピールされていたことにあったのではないだろうか。
【アウディ・アイコン(コンセプトカー)】
アウディで主役の座を担ったのが、コンセプトカーの「Aicon」だ。全長が5444㎜にも達するボディは視覚的も相当なボリューム感で、あるいはそれはアウディのフラッグシップ・サルーン、A8の未来像を示唆しているのではないかという想像も膨らむ。
このAiconのように完全自動運転が実現すると、自動車からステアリングホイールやペダル類は完全になくなってしまう。したがって観音開きのサイドドアをオープンすると、その先に広がるキャビンは完全なリビングルームの感覚。ドライバーやパッセンジャーは、PIA=パーソナル・インテリジェント・アシスタントによって自動車とコミュニケーションを取り、快適な移動を楽しむことが可能になる。
Aiconに搭載されるパワーユニットは、それぞれに4輪を駆動する4基のエレクトリックモーターだ。最高出力はトータルで353ps、最大トルクは550Nmを発揮する。フルチャージからの最大航続距離は800kmオーバー。800ボルトの高電圧システムを採用しているのも見逃せない。
【アウディ R8 V10 RWS】
アウディのハイパフォーマンスモデルにとって“クワトロ”すなわちフルタイム4WDのシステムを搭載することは、これまで当然のことと考えられていた。だがアウディ、そして実際にその開発と生産を担当するアウディ・スポーツから、今回のフランクフルト・ショーに持ち込まれた限定車「R8 V10 RWS」は衝撃的な1台であったともいえる。
このモデルは、ミッドに搭載される5.2ℓ仕様のV型10気筒自然吸気エンジンを搭載し、540psのパワーをリヤに伝える後輪駆動モデル。ちなみに車重は、4WDシステムの廃止で、スタンダードなR10 V10より50kg軽い数字となった。シャシーのセッティングも、もちろんRWD用に見直されている。ボディはクーペとスパイダーの両方が用意され、各々999台が限定生産される予定。0→100km/h加速はクーペで3.7秒。よりスパルタンでピュアな走りを好むカスタマーには、この限定車は注目の存在といえる。
【アウディR8 V10 Plus スパイダー】
R8スパイダーのラインナップに、これまでなかったハイパフォーマンスモデルの「V10 Plus」が追加された。ミッドに搭載されるエンジンは、スタンダードモデルと同様に、5.2ℓのV型10気筒自然吸気だが、最高出力は610psというスペックになる。7速のSトロニックを組み合わせ、駆動方式はもちろんクワトロとされる。
【アウディ RS 4 アバント】
アウディ・スポーツからは、新型の「RS4アバント」も世界初公開された。搭載されるエンジンは450psの最高出力を誇る、2.9ℓのV型6気筒TSFIツインターボ。最大トルクも600Nmと魅力的な数字で、これは従来型のRS4アバントと比較して、170Nmもの強化となる。組み合わせられるトランスミッションは8速ティップトロニック、駆動方式はもちろんフルタイム4WDのクワトロだ。
アウディ・スポーツではこの新型エンジンの開発において、さらなる高効率化を重要な課題としてきた。燃費性能はNEDC=新欧州ドライビングサイクルの複合モードで8.8ℓ/100km。CO2排出量も199g/kmに抑えられている。最高速はリミッター作動により250km/hに制限されるが、オプションのRSダイナミックパッケージを選ぶと、280km/hまで引き上げることが可能。実際のセールスは2018年初頭から開始される予定で、欧州での価格は7万9800ユーロからと発表された。
【アウディ A8】
フルモデルチェンジを受け、新型へと進化した、アウディのフラッグシップ・サルーン「A8」がフランクフルト・ショーでデビューを飾った。さまざまな技術的なトピックスを満載して登場した新型だが、やはり最も大きな話題といえるのは、レベル3の自動運転技術(アウディAIトラフィックジャムパイロット)が採用されたこと。高速道路上で60km/h以下の渋滞時のみという制限はあるものの、この条件下にあればドライバーは前方監視の義務も含め、完全に運転操作から解放されることになる。
ちなみに新型A8は運転、そして安全支援の機能が実に40種類も搭載されている。すべてのモデルに48Vの電源システムを活用したマイルドハイブリッド機能を採用したことも大きな話題だ。そしてこの新型A8で実現した最新の機能は、今後さまざまなアウディ車へとそれが継承されていくことになる。