2010年12月の初代デビューから約7年を経て、9月6日にワールドプレミアを果たした新型日産リーフ。メカニズムの共通点は多いながらも全面的に進化を遂げ、新技術を数多く採用。内外装も大きくイメージチェンジした、この2代目リーフの開発を指揮した磯部博樹CVE(チーフビークルエンジニア)に、その狙いを聞いた。

航続距離・出力・トルクとも大幅に増強された新型リーフのパワートレイン

--初代デビューからの約7年間で、リーフ自体も進化し、競合車も数多く現れました。それを踏まえ、今回の新型リーフで特に力を入れて開発したのはどのような点になるのでしょうか?




磯部 大きく分けて二つあります。一つは、電動化の進化です。今回、航続距離は280kmから400kmへ、出力は109psから150psへ、トルクは25.9kgmから32.6kgmへ大幅に高めたことで、走りに一層磨きがかかっています。




元々EVは加速のレスポンスや、アクセルペダルを踏んだ分だけちゃんと進む、ガソリン車ではちょっと遅れたり踏みすぎて戻したりするようなこともなく、足の裏の感覚がそのままタイヤにつながるようなリニアリティがあり、特に交差点からゼロ発進する時の加速感がすごく気持ちいいじゃないですか!




それを具体的には、0-100km/hタイムを15%も短縮しました。高速の合流も、初代では苦手な面もあったのですが、こちらは30%もタイムを短縮していますので、乗った瞬間に走りの良さを体感できるようになっています。

「e-Pedal(イーペダル)」の制御イメージ

さらに、ノートe-POWERのものをさらに進化させた「e-Pedal(イーペダル)」を、新型リーフに初めて採用しました。それはどちらかと言えば、減速サイドをよりリニアに操作できるものです。




今までは、アクセルを戻して惰性で走り、その後でブレーキを踏んで……という、グラフにすれば速度が一定ではなくカクカクと下がるようなものが、アクセルペダルの踏み加減だけでリニアに操作できるという、今までのクルマにはできなかった運転の楽しみ方が味わえるようになっています。

「プロパイロット」の作動イメージ

もう一つは、自動化の技術です。昨年セレナに初搭載した「プロパイロット」を新型リーフにも採用しましたが、これは電動パワートレインとの組み合わせが非常にいいんですね。




例えば前車に追従するようなシーンでも、モーターはレスポンスが早いですから、車両側が指示したトルクをすぐに出せ、スムーズに追従できます。

「プロパイロットパーキング」の作動イメージ

そして今回「プロパイロットパーキング」という、お客様が潜在的に不満に思っている駐車のシーンを自動で行えるようにしたのが、一番の売りだと思います。




--航続距離400kmは、開発当初から目指していたものだったのでしょうか?




磯部 内燃機関のクルマのお客様の使用頻度・走行距離に関するデータを見ますと、最も長いのがアメリカで、それでも航続距離が250kmあれば、85%程度のお客様のニーズはカバーできます。




日本では9割以上の方が250km以下で使用していますので、実用で250km走れればほとんどのシーンで困ることはありません。




年に1、2回、帰省する時などは、途中で1回は充電しなければならないでしょうが、それ以外の日常では不満なく使えると思います。




また、急速充電する際も、バッテリー容量が30kWhから40kWhへ増えていますので、30分間同じように充電したとしても、初代より新型の方が、急速の高電流が入る時間が長くなり、結果として航続距離も伸びています。




--EVはもっと航続距離を伸ばす必要があるのでしょうか?




磯部 400kmというのが、現時点での一つのバランス点だと思いますね、バッテリーの価格に対する。航続距離が仮に600kmあったとしても、価格が200万円高くなってしまっては、お客様は買ってくれませんから。




今後バッテリーの技術が進歩し、価格が下がり、より高密度にエネルギーを貯められるようになれば、もっと航続距離を伸ばせると思いますね。

初代より大幅に改良された新型リーフのプラットフォーム

--新型リーフでは、モーターやバッテリーモジュール、プラットフォームは先代から踏襲していますか?




磯部 いろいろ改良はしていますが、踏襲しています。何十年も前のプラットフォームで、衝突安全性能を満たせないというのであれば、全面的に設計を変更する必要がありますが、まだ一世代しか使っていませんので、今回は踏襲しました。




また、むやみに変更すれば、車両価格が上がってしまい、お客様にご購入いただけなくなりますので、それよりも使えるところはとことん使って、お客様に魅力を訴求できる「プロパイロットパーキング」のような新技術にコストを投入するよう配分しました。




--走りに関して、ボディやシャシーはどのように進化させたのでしょうか?




磯部 車体はまず、特に後部のねじれ剛性を15%上げることによって、ワインディングなどでのステアリングレスポンスを高めています。シャシーでは、ステアリングの部品のねじれ剛性13%を高めて、よりしっかりしたステアリングの特性にしました。さらにはクルマの重心そのものを5mm下げ、ロール角をより少なくしています。




こうした横方向の動きは、元々EVは得意なんですよ。重心が低く、重いものが車体の中心に搭載されて、モーターも比較的軽いですから、ヨー慣性モーメントが非常に小さいんですね。重いものが車体前端に載っていると、旋回動作する際に慣性が非常に大きくなりますが、EVはそれが小さいですから、すごくキビキビ曲がれます。




ですから前進と旋回は元々得意だったんですが、新型リーフにはさらに減速側にもリニアな動きを入れられましたので、全方位で走って楽しいクルマになったと思います。




--初代リーフに最近試乗した際、低速域でステアリングの手応えが頼りない感触がありました。乗り心地についても、大分しなやかになったとは思いますが、まだバイブレーションが出るシーンがありました。その辺りも…。




磯部 大きく改善しています。




--サスペンションのセッティングは、よりソフトな方向に振られているのでしょうか?




磯部 そうですね、ダンパーの減衰力を10%下げ、乗り心地を相当良くしています。そして、静粛性が非常に良くなっていますので、乗り心地と静かさの両方が、人の感覚と相まって、より快適に仕上がっていると思います。

シャープなデザインに改められた新型リーフのリヤまわり

--新型リーフは先代に対し、デザインの方向性が大きく変わりましたが、その背景は?




磯部 やはり、走りが良くなりましたので、それを形に表しています。よりワイド&ローにして、走りの魅力をシャープなイメージで伝えるというのが、今回の狙いですね。




--2018年に発売されるというハイパフォーマンスモデルの方向性は?




磯部 よりバッテリー容量とモーター出力が増えて、性能がアップしている、というものです。




--足回りや外観についても、よりスポーティなものになるのでしょうか?




磯部 いろいろ企画はあるのですが、今はまだお答えできません(笑)




--初代リーフはゆっくり走る年配の方が多いように思えますが、そこは変えていきたいというお考えなのでしょうか?




磯部 年配のお客様もいらっしゃいますが、走りそのものが気持ちいいと言って買ってくださるお客様もいます。特に女性のお客様の中には、例えばセレナとリーフの2台を所有している場合、元々視点が高いセレナに乗っていたけれど、リーフの方が運転が楽しいからと、長距離でもリーフばかり乗っているという方もいらっしゃいますね。




やはり乗り始めると、運転が楽しいのはリーフだということになります。足の裏で、アクセルペダルだけでリニアに操作できる、あの感覚が楽しいんですよね。自分の手足の延長のようにして動けるのがいいんですよ。




私もプライベートでリーフに乗っていますが、家に2台あって、「どちらでドライブに行きたい?」と言われたらリーフを選びます。




--新型リーフは、プロパイロットを使用している時も、同じようにリニアな感覚で自動運転してくれますか?




磯部 そうですね、その感覚に近づけています。




--ありがとうございました。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 【新型日産リーフ開発責任者・磯部博樹CVEインタビュー】電動化・自動化の進化を核に、よりリニアな走りを追求