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しかしその後は現在の長屋兼オフィースがある同郡碑文谷村にひたすらこもり、家の者以外とは特に接することなく、また口をきくこともないまま、シコシコと日々駄文を製造している。
そんな暮らしを6年ほど続けたある日、というか具体的に言っちゃうと昨日、拙者はひとつの事実に気づいてしまった。
自分の性格がやたらと「頑固かつ排他的」になっているのだ。
拙者の長屋兼オフィースはまったく大したことのないあばら家ではあるが、それでも自分が快適に過ごせるよう、すべての物やその配置などは完全な自分好みに細かくチューニングされている。そして拙者はひとり親方(自営業者)であるため、誰かに指図されたり、訓戒や打擲などを受けることもまったくないまま、ほぼすべての行動を、自分が思うとおりのやり方でのみ執行している(時おり、発注元の編集部で土下座していたりはするが)。
……そんな生活を6年間も続けた結果、拙者はどうやら「お山の大将」になってしまったようなのだ。
とにかく、ごく稀に玉電などに乗って御府内に行こうとすると、電車内や駅構内、あるいはそこらへんにいる者どものやっていること、言っていることなどがいちいち気に食わなくて仕方ないのである。
といっても、彼ら彼女らは特段な異常行動をしているわけではない。
つり革につかまって立っている拙者の前で座っている男の脚が、ちょっと(本当にちょっとだけ)前に出ているとか、狭い茶店で横の椅子に座っている男が組んでいる脚が、ほんの少し(本当に少しだけ)拙者のいわゆるパーソナルスペースを侵害しているとか、焼鳥屋のカウンターで隣に座る喫煙者が、そのライターと灰皿をなぜか(少しだけ)拙者側にオフセットさせているとか、その程度のことである。
その程度のことなのに、拙者は思わず「ムキーッ!」となってしまい、その者をぶん殴る……わけにもいかないので、まだ茶を飲んでいる最中であったり、注文した焼鳥がデリバーされてもいないというのに、「栗田さん、出よう!」とばかりに勘定を済ませ、とっとと店外に出てしまうのだ。