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島崎:きょうはよろしくお願いします。
信本さん:学生時代に、今、島崎さんが腕にしておられるそのジウジアーロの腕時計、私も買って、してました。
島崎:おや、とすると最初のオリジナルの頃ですね?
信本さん:はい、最初のやつでした。
島崎:僕のは復刻版で、実はこれで2本目なのですけど……という話は時間が許せば後ほどさせていただくとしまして、早速、MX-30のお話をお聞きしたいのですが、これまで何度か試乗の機会がありましたが、乗り味などクルマの全体的なドライバビリティがどんどんよくなっていますね。相変わらず、気持ちが整うクルマだな、と。
信本さん:ありがとうございます。
島崎:そしてやっと。思えば最初にEVモデルを見た時はボンネットを開けると、向かって右半分が……。
信本さん:スカスカで(笑)。
島崎:どう見ても……。
信本さん:なにか付きそうな……。
島崎:あの時に“ロータリーエンジンを発電機とする電動化技術を搭載したクルマ”と仰っていたクルマが、ようやく登場した訳ですね。僕らもあの時のモヤモヤが消えて今晩からゆっくり寝られる気がします。確か当初からの企画、順番でしたよね?
信本さん:そうですね。3種類をもつ計画は最初からありました。コロナ禍の影響を直接受けていた訳ではなく……。
岩田さん:開発課題的なことがありまして。
島崎:といいますと?
信本さん:あまりたくさんは話せませんが、NVH(編集部注:Noise、Vibration、Harshness=騒音、振動、突き上げ)の問題は大きかったことのひとつでした。
島崎:NVH、どういった?
岩田さん:エンジン音ですね。通常のイメージ、期待ではロータリーはスムーズだろう、静かだろうということがあると思います。我々にもありました。その中で1ローターで使うというのは構造的な打ち消し要素がないので、周波数が低いこともあり、当初、対策がなかなか難航しました。
島崎:RX-8が終わって11年、以降もロータリーの火を絶やさずに取り組みを続けてこられたそうですが、それでもポンと簡単に載せられた訳ではなかった?
岩田さん:1ローターにした時の課題が想定以上でした。
島崎:ロータリーというと、雑誌の記事などで“モーターのように”と表現したくらいでしたから、NVHの課題などむしろ意外ですが。これまでにも1ローターの実績は確か……。
岩田さん:レンジエクステンダーを作った時に1ローターを使いましたが、あの時は容量がもっと小さいものでした。そかし今回は「これくらいは発電したいよね」と出力等々考えた時の大きさにした時のハードルは相当に高いものでした。
島崎:そういうことですか。
岩田さん:エネルギーも大きくなり、1ローターなので音色という観点でいうと周波数がすごく低い。4気筒、6気筒であれば甲高くなってくれる期待がありますが、1ローターはボボボボボ、と。低い周波数だと直すにも質量がかかってきますし、全体的に共振モードも広範囲に及ぶとか、そういったことの手当てに腐心しました。
島崎:そんなに大変だったのですか?
岩田さん:たかがロータリー、たかが1ローターという訳ではありませんでした。
島崎:僕は今、自分で2気筒ツインエアのフィアット500に乗っており、他のどんなクルマでも快適に感じますので(笑)、そういうお話、ちょっとわかる気もします。
岩田さん:ああ、そういった経験値をバックグラウンドにお持ちの方は「これはこうだよね」とおわかりいただけるのですが、大抵のユーザーの方は4気筒とか、今なら内燃機関には興味がない……そんな淋しい時代にもなりつつありますが、そういうお客様からすると、そもそも形もヘンテ……。
信本さん:そう言っちゃいかん、かな。
島崎:いえ、記事上ではヘンテコリンは僕が言ったことにしておきますのでご心配なく。だいいち僕はヘンテコリンなクルマは大好物ですし、MX-30はデビュー時から好きなクルマです。ユニークな、といえばいいかな。
岩田さん/信本さん:そう、ユニークな!
島崎:でも、そこまでしても、やはりマツダとしてはロータリーエンジンをこういう形で実現させてという強い思いがあったのですか?
岩田さん:ロータリーは細々ながらずっと続けてきました。電動化時代という中で、53kWの出力をこれだけ小さなパッケージで出せてと考えた時に、通常でしたら3気筒を積まないといけないということになる。小さくてもちゃんと出力が出せるというのは、我々にしかできない強みだと思います。
島崎:確かにあれだけコンパクトなパワーユニットはないですものね。そのためにMX-30は出た時からあそこに……。
岩田さん:建設予定地みたいな。
島崎:上手い! 今後、原稿を書く時に使わせていただいてもいいですか?ところで改めてですが、ロータリーEVもMX-30の登場と同時の“着工、竣工”という訳にはいかなかったのですか?
信本さん:もともと同時に出す予定ではなく、順番どおりでしたが、もう少し早く出す予定ではあったのですが……。
島崎:EVモデルがすでにあって、それに対しての棲み分けはどう考えればいいですか?
岩田さん:最初は、とにかくBEVを用意しないと!という思いが強くありました。
島崎:なるほど。改めてロータリーEVの1番の魅力というとどこになりますか?
信本さん:やはり平日はEVのように使っていただけて、毎日ではないけれどたまに遠出をする時も安心ということだと思います。もちろん急速充電器も使えますし、遠出の時にBEVのように使っていただいてもいいですし、発電しながら走っていただいてもいいです。
島崎:使い方の自由度がより広いということですね。
信本さん:EVに乗りたいなぁ、モーターの走りが気持ちよさそうだなぁ、でも充電が不便だから二の足を踏んでいる。そういう方にちょうどいい商品になっていると思っています。
島崎:さまざまな問題がクリアされますね。
信本さん:手前みそですが、乗れば気持ちいいですし。
島崎:足回りの設定などは専用ですか?
信本さん:BEVと同じところになるようにセッティングしています。バッテリーの重量、剛性、接地感、あと弊社のトルク制御技術のe-GVCプラスなど、BEVと同じ乗り味にしています。
島崎:BEVに対して車両重量は?
信本さん:BEVが1650kgなのに対してR-EVは1780kgなので、130kgほど重くなっています。
実はR-EVはフロントが180kg重く、リヤが50kg軽いんです。
島崎:前後の重量配分はそういう違いということ、足の設定もそれに合わせてということですね。
信本さん:なのでタイヤの指定空気圧はBEVがフロント250kPa、リア260kPaなのに対し、R-EVはフロント、リアともに260kPaに。フロントはバネも少し固めて、ダンパーも減衰力を上げ、バランスを取るためリアもちょっとだけ上げています。リヤの減衰力については、一旦“良し”としかけて、ヨーロッパで走らせてちょっと上げた経緯があります。
島崎:おお、資料にはないお話ですね。
信本さん:フロントヘビーできっと訊かれるから教えてくれと確認したのですが、操安の担当者は「重量に合わせてチューニングしただけ」と言っていましたが(笑)。
島崎:タイヤは同じですよね。とするとパワートレインの違いで“音・振”も変わってくる訳ですよね?
岩田さん:そうですね、タイヤや風の音は大きく変わりません。やはりBEVにエンジンを載せる変化が音・振には大きくて、その音源をどこまで落とすか、そこは1番腐心したところです。
島崎:手当てをジックリとやられたのですね。
岩田さん:ええ、振動が伝わるところの遮断や、排気系は管を長くとりサイレンサーの容量も大きくとってといったこと。それと使い方とセットになりますが、普通の走り方では30km/h以下では極力エンジンがかからないようにしようとか、乗る方がガッカリされないよう知恵を絞りました。
島崎:乗っているとどの場面でも嫌な音を感じないですよね。ちょっとしたアクチュエーター系のメカ音も含めて。単純に、試しにアクセルをグイと踏み込むと、手応えのある音も聞こえますね。
岩田さん:エンジンがかっている時であれば、基本的には吸・排気脈動、エンジン振動といった成分のものです。ただ普通の内燃機関にある篭ったり唸ったりする成分や高周波で耳障りな領域がなくて、エンジンが回っている、きれいな次数音(=回転している物体の回転数に比例する周波数の音)になっています。
島崎:ロータリーエンジンは久しぶりですが、自然で無理のない回転運動ということですね。
岩田さん:回り続ける感じの……。
島崎:スムースということは、ストレスが小さくて高効率ということでもあるのでしょうね。
岩田さん:基本的にEVですが、高負荷領域を使うのが熱効率的にはロータリーの得意な領域になっているので、2300から4500rpmの範囲で使うのですが、内燃機関の場合は1500rpmをなるべく超えないように軽負荷で使いましょうというのが一般的。今回のクルマは通常走行はEVに任せてしまって、高負荷領域では積極的に発電もしてやって充電の帳尻を上手く合わせているやりかたです。
島崎:資料を拝見すると、他車のシリーズHEVに対し90km/h以下ではエンジン稼働率は半分以下なんですね。
岩田さん:1発で発電量が高い状態を短い時間でやる。通常のノーマルモードではバッテリー残量が45%を切ったところからバッテリー残量を戻しながら走る、そんなセッティングになっています。
島崎:このクルマのオーナーになれたらシアワセそうだなぁと思うのですが、もし実際に乗ることになったとして、岩田さん推奨のもっとも効率よく、ガソリンスタンドへもなるべく行かずに済む、乗り方のコツはありますか?
岩田さん:使うのが40、50kmの範囲の中であれば、必要に応じて充電しながらロータリーエンジンは使わずEV走行のまま乗ります。バッテリー残量が40%あたりになるとずっとエンジンが補ってくれ、それで留まってくれるので、その場合はエンジンが電気を戻してくれている安心感もあります。経済性でいうと深夜電力で補うほうがメリットは高いですが、エンジンの音を聞いて「45%に戻してくれてるなぁ、メーターも戻ってきてるしなぁ」と安心しながら乗れるのは楽しいなぁと。
島崎:今、エンジンと仰ったときに、左斜め前方を指していらっしゃいましたね。
岩田さん:BEVに乗ってみたいけど電池の残量はどうなの? 航続距離は? 何年も大丈夫なの?と思っていらっしゃる方は多いと思います。そこを2系統の動力源でいざとなればエンジンからも発電できてどちらからも補充が効く。不安が払拭できていると思います。
島崎:ロータリーエンジンの“慣らし”は必要なんですか?
岩田さん:大抵は2300rpmからの高いところから回して使います。エンジンオイルの補充も1万5000km程度カバーしているので、定期点検で賄えると考えています。おそらく普通の乗り方で2300rpm程度、高速走行でも40%あたりなら高回転をずっとという訳ではなく、せいぜい3000rpmくらいしか使わないと思いますし。
島崎:マニアックな人にはロータリーエンジン専用のタコメーターがあると喜ぶかもしれませんね。
岩田さん:現状の小さなマークではなく、表示の一面をロータリーのマークにしてクルクル回っているような、そんな風にモニュメントさせてもいいんじゃないかという……そういうご要望はどんどん発信していただいて、開発の中で「ほらほら、こういうこともやらないと」と言えますので。
島崎:微力ながらこのインタビュー記事でも発信しておきますので、ぜひぜひよろしくお願いします。どうもありがとうございました。
(写真:島崎七生人)
※記事の内容は2023年12月時点の情報で制作しています。