- 週間ランキング
ビロードモウズイカ (天鵞絨毛蕊花 Verbascum thapsus)は、 ゴマノハグサ科モウズイカ属に属するヨーロッパ・北アフリカ原産の二年草。
植物の中でも指折りの奇妙な響きの和名は、知らない人がいきなり聞くと、「イカの一種?」などと勘違いしそうです。天鵞絨(ビロード)は、全草が灰白色のビロード状の毛に覆われていることから、毛蕊花(モウズイカ)は、雄蕊(おしべ)も毛に覆われている花であることを表しています。
日本には、明治の初めに観賞用として輸入され、強壮な性質からたちまち逸出して全国に広がりました。
草丈はおおむね1.5m、時に2m以上に成長します。荒廃地や空き地、開けた草原などに進出し、冬期にも残るがっしりとした土台のロゼットから初夏には花茎をまっすぐに伸ばし、何十もの花が密生するトウモロコシを立てたような穂状花序を作り、初秋頃まで長く咲き続けます。下から順に咲く規則性はあるものの、日当たりや風向きなどにより花の咲き方はランダムになり、穂のあちこちが開花している様子もよくみられます。
現在成田空港が立地する千葉県成田市の三里塚付近一帯は、かつては皇室のための畜産物を生産する下総御料牧場(空港建設に伴い栃木県に移転)でした。ジンギスカン料理発祥の地とも言われる御料牧場には、輸入された外国産の飼料に混じって、様々な外国産の植物が移入、逸出して野生化していました。
今ドラマのモデルとして話題を集めている近代日本植物学の父・牧野富太郎(1862~1957年)は明治末期の1906年、下総御料牧場を訪ね、様々な外来植物を確認採集しています。著書『植物一日一題』で、その際見慣れない植物を見かけ、採集したことを記しています。それがワルナスビ(悪茄子 Solanum carolinense)でした。
ワルナスビはナス科ナス属に属する北アメリカ原産の多年草。草丈30cm~1mほどですが、概ね4、50cmで地中には長く匍匐する根茎が這い、放置しておくと一帯に群生します。
6月ごろから咲き始めて夏の間咲き続ける花は、花径2cmほど、合弁した星型の五弁花で半開し、純白もしくは薄紫の花弁にちょんと突き出た黄色い雄蕊がなかなかかわいらしく目を引きます。卵形の葉もまた両縁が2~3回切れ込むゆるやかなウエイブの鋸歯でいかにも親しみやすい雰囲気です。
けれども茎、葉柄、葉の葉脈裏、花がくには、ナス科に特徴的に見られる星状毛(放射状に広がる細かな棘状の毛)が発達した鋭いトゲが生えていて、うっかり触ろうものなら非常に痛い思いをします。
一度根を下ろすと根絶が難しいきわめて強い性質と繁殖力、そして全草にソラニンを含む毒草であることにより、環境省の外来生物法の「要注意外来生物」(注視監視が必須な外来種)に指定されています。
先述した牧野博士も、下総御料牧場から自宅に持ち帰り植えたところ大繁殖してしまい難儀した経緯から名付けた、と述懐しています。しかし
ワルナスビとは「悪る茄子」の意である。前にまだこれに和名のなかった時分に初めて私の名づけたもので、時々私の友人知人達にこの珍名を話して笑わしたものだ。(『植物一日一題』)
とあるように、名付け自体は会心のものと気に入っていたようです。
ブタナ(豚菜 Hypochaeris radicata)は、キク科エゾコウゾリナ属に属する、ヨーロッパ原産の多年草。昭和の初めに日本列島に侵入、全国に分布を広げています。「ブタナ」というちょっとかわいそうな名に似合わず美しい植物で、さながらタンポポを背の高いすらりとモデル体型にしたかのよう。このためタンポポモドキという別名もありますが、やはりブタナのほうが一般的です。原産地であるフランスでSalada de porc=豚のサラダと呼ばれることから、キク科植物学の先鞭とされる北村四郎(1906~2002年)により命名されました。「豚のサラダ」とは豚肉と合わせたサラダに使われるのかと思われがちですが、豚が好んでこの草を食べることからそう呼ばれるようになりました。人間が食べてもその葉は美味しく、フランスでは田舎の野草料理として使われます。
全て根生で地面から直接広がるタンポポに似た葉群れから、高さ50cm以上にもなる花茎を伸ばし、先端にタンポポにそっくりの黄色い頭花を咲かせます。牧場や土手の斜面など広々とした日当たりのよい場所を好み、群生してそよぐさまは目を引き付けられずにはいられません。
タカサゴユリ(高砂百合 Lilium formosanum)は、ユリ科テッポウユリ亜属の多年草。高砂とは、中世から近世にかけての日本での台湾国の呼称で、その名の通り台湾の固有種で、日本には今から約100年前の大正末期から昭和初期頃に移入、逸出して野生化しました。
日本固有種のテッポウユリとは近縁種で、花は実際よく似ているのですが、なぜかテッポウユリの清楚で気品のある風情とは異なり、ヒガンバナ属から受けるような妖しさや暗さを感じます。
一つには、茎から生じる葉の異様な多さです。テッポウユリの場合披針形の葉が適度な間隔で輪生しますが、タカサゴユリは細く毛状の葉が、茎からびっしりと隙間なく生え出ていて、まるでけものの胴体か、毛ブラシのように見えます。また、全体が純白のテッポウユリの花と比べて、外花被片に紫褐色の色素が浮き上がり、ラッパ状の花の筒部にあたる部分が赤紫色に染まる花色も、どこか動物めいて見えます。
草体の大きさも異なり、テッポウユリが安定して50cm~1mほどなのに対して、タカサゴユリは1m~1.5m、ときに大人の背丈ほどにも成長し、夜、大きなタカサゴユリがうつむき気味にゆらめきながらたたずんでいるさまは、さながら幽霊のようでちょっとぞくりとします。一方で敷石の隙間や放置されたプランターなどの厳しい環境で育つ個体は草丈が30cm程度、花も小さくコンパクトになり、まさに雑草のど根性を見せつける珍しいユリです。
繁殖力はユリ属の中では異例に強く、日本産のユリの種子数が一蒴果あたり50~300個なのに比べ、タカサゴユリは1,000~3,000個。そしてユリ属の特性として自家受精しないという性質があるのですが、タカサゴユリは例外で、容易に自家受精をして結実します。さらに種子成熟の期間も短く、結実から8ヶ月で実生から開花するといわれ、これはユリの仲間では圧倒的な短さです。
厄介なのは、近縁種のテッポウユリとは交雑が可能なことで、近年では各地でテッポウユリとの交雑個体「シン・テッポウユリ」が出現し、遺伝子汚染が懸念されています。
ゼニアオイ (銭葵 Malva sylvestris subsp. ㎡auritiana)は、ヨーロッパ、西アジア、北アフリカに自生するアオイ科ゼニアオイ属に属する草丈60cm~2mほどの二年草。
日本には観賞用で輸入され、強壮な性質から逸出して野生化しました。もっとも古くは延徳三(1491)年、『山科家礼記』の記述に「小葵」として見られ、『大和本草』(貝原益軒 1715年)にも記載されています。小葵は、近縁種のタチアオイよりも全体に小さいことからそう呼ばれたのでしょう。
それがいつの頃か「ゼニアオイ」と呼ばれるようになったのですが、掌状に浅い切れ込みが入る丸っこい葉をコインに見立てた、という説明がなされがちですが、葉脈に沿ってクッと内側に折り込まれ、夏の日差しと雨を懸命に受け止めようとする子供の手のひらのようには見えるものの、コインにはあまり似ていません。
名の由来は、花が終わり結実するときに理解できます。扁平で円形をし、真ん中に穴の開いた実は、まるで穴あきコインのようです。
花は初夏頃から盛夏にかけて咲き、葉腋ごとに2~5個ほどの蕾がつき、茎に寄り添うように直径凡そ3~6cmの鮮やかな濃桃色の美しい五弁花を群生させます。花弁には赤紫の放射状の筋が入り、可憐さを一層引き立てます。
全草がタチアオイと同様に薬用として利用され、特に花は咳に特効のあるお茶として利用されています。
夏は過酷な季節でもありますが、南方系の植物にとっては日本のヒートアイランドも好適な環境となる場合もあります。陸地だけではなく水辺や水域にも多くの外来種が繁殖します。何だろう?と思う植物が見つかることも多い季節です。
参考・参照
植物一日一題 牧野富太郎(筑摩書房)
植物の世界(朝日新聞社)
野草図鑑 長田武正(保育社)
千葉県野の花 安原修次(光陽出版社)