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嗅覚について調べてみると五感の中でただ一つ、嗅覚は本能行動や感情、記憶を司る脳の大脳辺縁系に直結しているということです。
1杯の珈琲の香りに集中していた頭脳と身体の緊張がほぐれていくのがわかったり、ふと鼻にした匂いで懐かしい昔の想い出のシーンが一瞬にして立ち登ってきたり、これは嗅覚が持っている力だったのです。
私たちは嗅覚によって、新鮮な空気を感じて思わず深呼吸をしたり、疲れた時には野原で大の字になった気分を想像し、草花や土の匂いを思い出して癒されることもできるというわけです。
他の視覚、聴覚、触覚、味覚といった感覚は視床下部や大脳新皮質など理性を司るところを経て大脳辺縁系へ伝わるため、感知される前に何らかの意識が働く要素があるようです。嫌な臭いを我慢するのはなかなか難しいのも納得です。
嗅覚は視覚や味覚といった感覚が先行すると、それほど気にせずに過ごしてしまうことがあります。ある日気づいたら嗅覚が低下していた、ということもあるそうです。そんな時は積極的に匂いを嗅ぐことで回復していくことも期待できるとのこと。食事の時に匂いを確かめる、生活の中に好きな花やアロマを取り入れ、意識して匂いを嗅ぐといった小さなことを積み重ねるのが大事とか。また、嗅覚を感じないことから鼻の疾患がわかったりもするそうです。
匂いで生命の危険を察知する、嗅覚は人間が動物として持つ本能だと改めて気づきます。意識して大事にしていきたいですね。
参考:
外池光雄著『匂いとヒトの脳 -脳内の匂い情報処理-』フレグランスジャーナル社
人間の本能に作用する「香りを楽しむ」歴史は、原初からあったのだろうと想像されますが、日本で文化となって現れるのは仏さまへ捧げるお香が始まりようです。
『日本書紀』推古天皇の時代に、大きな沈香(じんこう)が淡路島に流れ着き、住民が薪とともに竈にくべて焚いたところその芳香が遠くまで漂い、これは大変なものに違いないと朝廷に献上したことが記されているそうです。香道では日本の香りの文化の始まりとしています。
また、香り高い沈香や栴檀(せんだん)香が仏像の開眼供養の時に奉納された記録があり、香木は仏教とともに伝来し供え香として用いられていました。仏壇に線香をあげる習慣として今の私たちにつながっています。
香りの楽しみ方として聞香(もんこう・ぶんこう)があります。香りをかぐことを「聞く」と表現しているのです。「源氏香」は香りを楽しむ文化として広く人々に知られています。5種類のお香をそれぞれ5つ、25の包みを作りその中から無作為に5つ取り出し、1つずつ皆で回しながら香りを聞きます。
「源氏香の図」は回し聞いた1番目から5番目までの5種の香りの内、同じ香りのものを横線で結んだ聞香の結果を表したものです。種類は52、名前は『源氏物語』五十四帖から最初の「桐壺」と最後の「夢浮橋」を除いて付けられています。
『源氏物語』といえば平安時代に宮中で暮らす多くの女性たちが登場し、美しい季節の色を重ね合わせた十二単に香りを薫きしめるようすが描かれています。良い匂いをそこはかとなく漂わせる香りの文化が生活の中で息づいていたことがわかります。
参考:
本間洋子著『香道の文化史』吉川弘文館
匂いは本能を刺激する、そんな特徴は平安時代の歌からも感じられます。
「うつり香の うすくなりゆく たき物の くゆる思ひに きえぬべきかな」 清原元輔
あなたの移り香が薄くなっていく、その微かな薫物の匂いのように、あなたを恋い焦がれる思いに私は今にも消え入ってしまいそうです。と熱い心を詠った作者、清原元輔は『枕草子』でお馴染みの清少納言のお父さん、と知るとこの歌がグッと身近になってきます。たとえ香りは薄れても、恋しい思いは香りの記憶とともに深く心に刻まれていきます。
香りは想い出となるとともにまた、日常生活の中で心身をリラックスさせてくれるものでもあります。香道のように本格的なものでなくとも、自由な楽しみ方ができる香りのグッズがたくさん揃っています。
○「お香」
伝統的な和の香り「お香」を「香炉」に入れて薫らせて、立ちのぼるけむりと広がる香りにひたるのも落ち着きを感じます。
○「インセンス」
エキゾチックな香りが好きでしたら「インセンス」といわれているお香はいかがでしょうか。今は多種多様な香料をブレンドすることで、繊細な香りを醸し出す製品が作られており、さまざまなシチュエーションで楽しめるようです。
○「アロマ」
植物から抽出したエッセンシャルオイルは心と身体を自然に帰すような働きを感じます。火を使わないデフューザーもあり安全に使うことができるのはいいですね。
さあ、好みの香り、楽しみ方をゆっくり探しに行く休日もいいと思いませんか。