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コーヒー豆は、コーヒーノキ(アカネ科コーヒーノキ属)の果実の種からつくられます。果実は「コーヒーチェリー」と呼ばれ、赤や紫、品種によっては黄色の果実部分を取り除き、種を乾燥させてから焙煎する工程を経て、コーヒー豆として私たちのもとに届きます。
コーヒーノキの起源は、「人類発祥の地」ともいわれるエチオピア。現在、主に栽培されているのはエチオピア原産のアラビカ種と、コンゴ原産のカネフォラ種ですが、アラビカ種が生産量の7〜8割を占めています。レギュラーコーヒー(豆から淹れるコーヒー)に用いられるのは、豊かな風味と酸味があるアラビカ種の方。カネフォラ種は苦味が強く、主にインスタントコーヒーなどの加工用に使われています。
赤道を挟んだ北緯・南緯25度の熱帯地方で、コーヒーの栽培が可能な地域を「コーヒーベルト」といい、アフリカ、東南アジア、中南米を中心に60〜70か国が集まっています。このベルトのなかで、標高が高く、平均最低気温15度で平均最高気温30度の間、十分な雨量と強烈すぎない日照が、良質なコーヒーをつくる条件といわれています。代表的な生産国と、目安となる味わいの特徴を知っておきましょう。
◆アフリカ
【エチオピア】
コーヒーの起源。フルーティな酸味とクリーンで華やかな香り。
【ケニア】
しっかりした酸味とコク。バランスの良い味わい。
【タンザニア】
柑橘系の酸味とすっきりした後味。「キリマンジャロ」が有名。
◆アラビア半島
【イエメン】
果実味のある豊かな味わいとスパイシーな香り。「モカ」が有名。
◆東南アジア
【インドネシア】
コクと苦味のある力強い味わいが特徴。「マンデリン」の産地。
◆中南米
【ブラジル】
世界第1位の生産量。ブレンドコーヒーにも使われるバランスが取れた味わい。やさしい酸味とほど良い苦み。
【コロンビア】
クセが少なく、ほどよい酸味と甘みのあるマイルドな味わい。
【グァテマラ】
すっきりとした酸味と余韻の残る豊かなアロマ。
【ジャマイカ】
酸味と苦味のバランスが良く、甘くマイルドな味わい。「ブルーマウンテン」の産地。
14世紀末、コーヒーの苗木がアラビア半島のイエメンに持ち込まれます。17世紀には、紅海に面したイエメンの港町「モカ」からヨーロッパ全土に向けて出荷されるようになりました。当時は、エチオピアとイエメン以外にコーヒー豆の産地はなく、コーヒーを船積みする「モカ」はコーヒーの代名詞となりました。
コーヒーの原産地はエチオピアですが、世界に広めたのはアラビアの商人たちで、ヨーロッパでは「モカ」はコーヒー発祥の地とされていたのです。エチオピア産、イエメン産のコーヒーが「モカ」と呼ばれ、コーヒー風味のお菓子などに「モカ」とつくのは、この名残りが現代まで引き継がれているからなのですね。
数種類のコーヒー豆を配合した「ブレンドコーヒー」に対して、「モカ」「コロンビア」「ブラジル」など、一種類の豆で淹れたコーヒーを「ストレートコーヒー」と呼びます。一方で、最近広がりを見せているのが「シングルオリジン」という呼び方。「ストレートコーヒー」と「シングルオリジン」。一体どこが違うのでしょうか。
「シングルオリジン」は、直訳すると「単一産地」。農園や区画単位で、特徴や魅力を伝えたコーヒーのことで、誰が、いつ、どこでつくったコーヒー豆かを、一定レベルまで追跡できることを意味します。追跡可能性(トレーサビリティ)にすぐれていることで、信頼できる品質のコーヒーを安心して楽しめるのが「シングルオリジン」の最大の魅力といえます。
コーヒー豆は、かつては地域ごとに混ぜて売られることがほとんどで、農園の特徴が見えにくく、生産者の工夫や努力も価格に反映されるとはいえませんでした。「モカ」「コロンビア」「ブラジル」などとして売られるコーヒー豆は、生産国はわかっても生産者は見えてこないのです。
「シングルオリジン」の見分け方は、農園名や生産者名で売られていること。コーヒー豆も、ワインや野菜などと同じ農産物と考えるとわかりやすいかもしれません。中間業者を通さずに、現地に足を運び生産者と直接取引をする「ダイレクトトレード」で、「シングルオリジン」を提供するコーヒーショップも増えていますね。
生産者に品質に応じた対価を保証することで農業としての持続可能性が高まり、消費者は高品質で美味しいコーヒーに出会える「シングルオリジン」は、コーヒーの新しい楽しみ方といえそうです。
参考文献
村澤智之/山本加奈子『コーヒー語辞典』誠文堂新光社