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寒さを感じたときに鳥肌が立つ理由は、人の皮膚上で「立毛」と呼ばれる現象が起こっているためです。
私たち人間は、生きるために内臓を動かしたり、体温を調節したり、血液を循環させたりしていますが、これらはすべて無意識のうちに行われます。こうした無意識の動きを調節しているのが自律神経です。自律神経は、起きているときや緊張しているときに優位になる交感神経と、寝ているときやリラックスしているときに優位になる副交感神経によって成り立っています。寒さを感じると、交感神経が優位になり、毛穴のそばにある「立毛筋」と呼ばれる小さな筋肉が収縮します。立毛筋の収縮によって毛穴が閉じると、普段は横になっている毛がぴんと立ちます。この現象を「立毛」といいます。立毛筋が収縮すると、毛穴の周辺がやや盛り上がり、「鳥肌が立った」状態になります。
実際、鳥肌が立った肌をよく確認してみると、毛穴があるところだけ皮膚が盛り上がっていることがわかります。この立毛現象は、人以外のほ乳類に見られるもので、動物は毛を逆立てることで外気温による体の冷えを防いでいます。人間の祖先も、外気から身を守る術を持たなかった時代には、鳥肌を立てることによって毛を逆立て、冷えから身を守っていたと予測されています。
しかし、服装や暖房器具などで寒さをしのげるようになった今、人の体毛は退化し、鳥肌で毛を逆立てても冷えを防ぐ手段にはなりません。つまり、寒さを感じたときに鳥肌が立つのは、祖先から引き継がれてきた体の習性の名残といえるでしょう。
体毛によって寒さをしのぐ必要性が失われた今、人の体毛は退化し「体を守る」という本来の役割を果たせない状態になっています。
では、日常的に鳥肌が立つような環境に置かれれば、体毛の発達が促されるのでしょうか?こうした疑問に対し、1つの回答を見出したのが国立台湾大学(NTU)の生物医学工学部の教授Lin Sung-jan氏が率いる研究チームです。研究チームは、立毛を引き起こす交感神経の反応が、発毛や育毛を司る毛包幹細胞の活性化にも影響することを発見しました。[注1]
Lin氏と共同で研究を主導したハーバード大学の教授も、交感神経は短期的には鳥肌を立たせ、長期的には毛髪の成長を促す働きがあることを示唆しています。[注2]
鳥肌が立つメカニズムが、世の多くの方を悩ませる薄毛問題を解決する日がくるのもそう遠くないのかもしれません。
鳥肌は寒さを感じたときだけでなく、恐怖や感動を覚えたときにも立つことがあります。小説などでも、恐怖やおぞましさ、畏敬の念を感じたときに「毛が逆立つ」「総毛立つ」といった表現がよく用いられますが、これらは鳥肌と同じ立毛現象を意味しています。寒さを感じたときに鳥肌が立つのは冷え対策の一種ですが、恐怖や感動を覚えたとき、寒くもないのに鳥肌が立つのはなぜなのでしょうか?
実は鳥肌のメカニズムは、現代科学・医学をもってしても全容が解明されておらず、恐怖・感動によって鳥肌が立つ理由は明確にされていません。恐怖や怖れに関しては、鳥肌を立てて毛を逆立てることにより、通常より体を大きく見せて相手を威嚇するためではないかという説が有力視されています。たとえば猫は怒ったり、恐怖を感じたりすると、毛を逆立てますが、これは相手を威嚇して退けるための行動です。
ただ、深く感動したときに鳥肌が立つ理由に関してはまだまだ研究途上で、今後の発見や解明に期待が寄せられています。
鳥肌が立つと、全身がぞわぞわしたり、背筋がぞくっとしたりして、少なからず嫌な思いをします。恐怖や感動による鳥肌を防ぐ術は今のところありませんが、寒さによる鳥肌は、適切な服装を選ぶことである程度防ぐことができます。気温が低い冬場は、保温性の高いインナーを着用する、厚手のジャケットやコートを着込むなどの対策を行えば、鳥肌が立つほどの寒さを感じにくくなります。
服装選びに悩みやすい春や秋、季節の変わり目などは、事前に1日の気温や天気をチェックし、どんな服装が適しているのか調べておくのがポイントです。日本気象協会が運営する「tenki.jp」では、1日の気温・天気の予測に合わせて適切な服装を提案する「服装指数」を発表しています。各地域の朝・昼・夜ごとの服装指数を公表していますので、お出かけ前にチェックして、寒さによる鳥肌対策にぜひ役立ててください。
[注1]FOCUS TAIWAN「NTU researchers seek clues on hair loss in goosebump phenomenon」
[注2]The Harvard Gazette「Getting to the bottom of goosebumps」