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芽を出して間もない草、新しく萌え出てきた春の草を若草と表現すると、目の前に新鮮な色や香りが浮かびます。緑をたずねて野山へ出かければ、清々しい空気のなかに若草の香りをたっぷりと吸うことができますね。新しい季節の息吹を身体に取り入れて自然と対話をする、春にしかできないような気がします。
都会に暮らしていると店頭に出まわり始めた春野菜を見て、春の到来を実感することもあるかもしれません。蕗の薹、菜の花、ゼンマイにタケノコなど、春に旬を迎える野菜の特徴はほんのりとした苦味。この苦味成分は植物が鳥や虫に食べられないようにと身を守るためのものだそう。私たち人間にとっては胃の働きをよくしたり毒消しにと、日本には昔からこの苦味を大切に味わう食文化が伝えられてきました。
1年を通じて出まわる物もありますが、やはり旬をとらえることはビタミンやミネラルといった栄養面で優れると言われています。春の苦味を味わうお総菜は、おばあちゃんの味だったり、お母さんの味として家庭で守られ伝えられてきた嬉しい伝統です。さまざまな美味しい味があふれる今だからこそ、季節を感じる食材を少しでも取り入れていく食事は、私たちの健やかな生活を守ることにもつながっていくのではないでしょうか。
春の花の魅力はなんでしょう? 寒い冬を越えてきた枯れ枝に、ぷくっと小さくて固い芽があると気づいた時の命の喜び。薄く透けるような緑色に萌え出た若い葉のいたいけなさ。そんな始まりの奇蹟を感じているうちに、やがて風のあたたかさに育まれて、膨らみ色づくつぼみに思うのは力強さ。一輪、二輪と咲き始めればいつの間にか枝を隠してしまうくらいの花盛りへと。近くで見ると、柔らかく開いた花びらの重なりや蕊の繊細さに造化の妙を感じます。また離れてみればふんわりとそのあたり一帯を包みこむ大きさにも驚かされます。
満開の花に誘われて人々がその下をそぞろに歩きたくなるのは、この霞のような雲のような花に包まれたいからかもしれません。あふれる光とともに輝くのが春の花の魅力なのでしょう。少し寒さが残る夜の花もまた味わい深いですね。
春のお菓子といえば桜にちなんだ桜餅、そして蓬の入った草餅はぜひ食べておきたいですね。桜の葉と蓬どちらも春の素材を生かした香りが魅力です。桜餅の始まりは享保年間。江戸向島の長命寺の寺男山本新六が考案したと言われています。
水で溶いた小麦粉を薄く白焼きにして中に小豆あんを入れ、塩漬けにした桜の葉2枚で挟み売り出したところ、長命寺の桜餅として大変な人気を博したのだとか。隅田川の土手に続く桜並木はその頃から名所として知られており、集まる花見の客にとっては、どちらも楽しみだったことでしょう。
一方関西では道明寺粉という干し飯を使った桜餅が一般的ということです。最近ではどちらの桜餅も和菓子の売り場に並んでおり、好みで選べるようになっているのは嬉しいですね。
さて、桜餅や草餅に合うお茶は何がいいでしょうか。お好みもあると思いますが、少し濃いめのお煎茶が人気のようでした。お茶の苦味があんこの甘さを引き立て、さらに後味をさっぱりとさせてくれます。
ところで、桜の葉は食べますか? それとも残しますか? 時々話題になりますね。私はお餅にうつった桜の葉の香りを楽しむのがいいと思いますが、あなたはいかがでしょう。
参考:『ブリタニカ国際大百科事典』