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朝の散歩道、下草を踏んで行くと靴のつま先が露で濡れていることはありませんか? 朝露がこんなところにも降りていたんだと気づかされます。朝の露をたっぷり帯びた露草は青紫色の花が鮮やかです。万葉集に露草や朝露をうたった歌がたくさんあります。そのひとつをご紹介しましょう。
「月草に衣は摺(す)らむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも」よみひと知らず
月草は露草の別名です。露草の鮮やかな青色は染料として布にこすりつけて染められました。たとえ朝の露に濡れて美しい青色が褪せてしまったとしても、露草で私は衣を染めよう、と歌っています。露草の青の鮮やかさが目に浮かびます。露草は日が高くなるにしたがってしぼんでしまうせいか、朝の色の清々しさはひときわです。その色を衣にとどめておくのもまた難しかったのですね。
日の出がすこしづつ遅くなり日の入りも早くなり、夜が次第に長くなっています。昼間の水蒸気が冷えると露になり草花に宿ります。夜になるとその露に月の光が映り「月露」と呼ばれるのはご存じですか? 月露は転じて自然を意味するということです。夜の闇に沈んだ小さな露に映し出される月の光は雄大な宇宙そのもの。自然の大きさをひとしづくの露に見出だす詩情の素晴らしさを感じます。忙しい昼間とは違う朝夕のひとときにそっと目を向けてみて下さい。いつもと違う気づきがありそうな季節です。
「曼珠沙華」の濃厚な赤は緑がしだいに色を落としていく中に強烈な個性を放ちます。サンスクリット語の音をそのままうつして漢字を宛てたものとのこと。意味は天界の花、これを見ると自然に悪業から離れるといわれているそうです。このように聞くと「曼珠沙華」の文字が生き生きと意味をもってきます。最近では群生している曼珠沙華が秋の観光の目玉になっているところも多く、燃え立つような赤い花がいっぱいに広がる風景を駅のポスターなどで見かけます。
紅葉を前にした鮮やかな赤の風物をもう一つあげたいと思います。それは「葉鶏頭」、秋の深まりとともに赤の色を増してくるような気がします。花がニワトリのとさかのように紅い「鶏頭」と似ていますが、これは葉っぱです。雁が北の国から渡ってくる頃に赤く色づくことから「雁来紅(がんらいこう)」ともいわれます。「寒露」の初候は「鴻雁来(こうがんきたる)」です。その年に初めて渡ってくる雁を「初雁」といい、晩秋の訪れを知らせる北からの使者となっています。雁の飛来を見る機会の減った今ですが、宮城県の北部では多くの雁が冬を越すためにやって来るといいます。初雁のニュースをぜひ届けていただきたいですね。
「匂い松茸」といわれるように、独特の香と風味で絶大な人気を誇る松茸だけは、秋にならないと出てきません。それは松茸が生育する赤松の林の土壌をはじめ、気候や天候といったさまざまな条件が揃わないとできないからということ。おまけに探すには目利きが必要なほどの難しさといわれます。ゆえに高値で、庶民にはなかなか手の届かない高嶺の花と言えるかもしれません。
松茸は憧れとして置いておくとして、今はスーパーや八百屋さんの店頭に、それぞれにあった栽培方法で作られた、美味しい茸がたくさん並んでいます。
シメジ、マイタケ、エリンギ、はなびら茸などをオリーブオイルでさっといためたら、レモンをかけるだけで茸のひと皿はできあがります。シンプルな調理が茸の風味を楽しむのには一番ではないでしょうか。
「秋の日はつるべ落とし」といわれるように、まだ明るいと思っているといつの間にかまっ暗になっていて驚かされます。秋の深まりはふと気づくと一気に進んでいるもの。駅までの道にも9月とは違う気配を感じることはありませんか? 肌に触れる朝の空気、夕方の風の匂いにあなたの感覚を研ぎ澄ませてみてください。身のまわりにあるあなただけの小さな秋がきっとみつかりますよ。