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緑色の若い穂が伸びきると穂に並ぶ「籾」がひとつずつ開いていき、籾の中から白い「雄しべ」が長く伸びてきます。これが稲の開花です。ふんわりとして美しいですね。1本ごとに雄しべの先の袋が破れ花粉が飛び散り、同じ籾の中にある純白の羽毛のような雌しべに受粉します。稲は自家受粉だったんですね。花が咲いている時間はおよそ2時間ほど、受粉した籾は再びしっかりと閉じてしまいます。「花の命は短くて…」暑い8月の午前中におこる真夏のドラマといえそうです。
「赤ん坊の乳に吸ひつく稲の花」 長谷川櫂
田圃といえばイナゴ取り! そう思う方も多いでしょう。昔の話ですが、イナゴ取りをしたから、といって何度か佃煮を貰ったことがありました。大発生すれば大きな被害になりかねないイナゴです。一時期は農薬の散布によって激減しましたが、食の安全性が考えられるようになって減農薬が実践され、イナゴが田圃に戻ってきたと聞きます。稲の葉を食べてしまうイナゴの対策は、草取りをしっかりしてイナゴの食べ物となる雑草を稲の近くに生やさないことだそうです。イナゴの習性を考えての人間の知恵ですが、実践するのはたいへんな労力ですね。
「往年の貌して蝗飛び出しぬ」 佐藤麻績
受粉が行われた籾の中では養分が吸い上げられ、次第にでんぷん質が充実していきます。この美味しいでんぷんを狙ってやって来るのが、すずめ等の鳥です。驚かせて追い払う、これが鳥対策の第一歩。田圃といえば案山子が立つ長閑な風景? これはもう昔の話です。キラキラ光るものを吊したり、鷹を思わせるような凧を飛ばしたりと工夫は重ねられてきました。その中で田圃いっぱいにネットを張る、これが一番の対策になると聞き思わず眼を見開きウーンと唸ってしまいました。お米を守る大変さをひとつずつ噛みしめたいものです。
皇位継承後初めて五穀豊穣を祝う収穫祭は特別です。「大嘗祭」として国の内外にむけて大切な儀式として行われていきます。この時神前に供えられる初穂は今年の5月13日に「斎田点定の儀」によって決められました。東日本は悠紀(ゆき)地方として栃木県が、西日本は主基(すき)地方として京都府が選ばれました。悠紀とは神聖なお酒のことで、第一のもの。主基は第一に次ぐものという意味だそうです。日本の東西から神様に捧げるトップクラスのお米とお酒を造るための田圃が、平安時代の『延喜式』にのっとり「亀卜(きぼく)」という占いで決まったのです。亀卜とはアオウミガメの甲羅を縦24㎝横15㎝、厚さ1㎜の将棋の駒の形に加工して、火であぶり亀裂の形で占うものです。21世紀の現代に10世紀からの法律を用いていることに驚きはありますが、守り続けてきたことを守ることは、米を作り続けてきた日本の国を守ることに通じているのでは、と感じています。
毎年お米の出来は日本人の大きな関心の的です。気象変動の不安もでてきている今、おいしいお米をいただくために私たちができることといえば、やはり祈ることのほかない、そんな気がします。
8月の田圃は力強いエネルギーに満ちた青から、実りを抱えた充実のたおやかな青へと変化していきます。田圃を見る機会がありましたら、じっくり観察してみてください。