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国民からの敬愛の大きさは、明治天皇をお祀りする明治神宮や神宮外苑に作られた各施設により知ることができます。
原宿駅を降りて右側、大きな鳥居から一歩中に入ると新鮮な空気につつまれ、雰囲気がガラッと変わります。鬱蒼と繁るこの森は自然のものではありません。造営前は荒れ地同然だったそうです。造営工事が始まると北は樺太(サハリン)から南は台湾、中国北東部(満州)まで国内を越えておよそ10万本の木が奉納されたということです。青年団による勤労奉仕で行われた植林作業はのべ11万人が参加したそうです。
これだけの熱意のもと、何を植えれば100年後に自然の森として育つのか? 当時の専門家が検討を重ねた結果、椎や樫といった照葉樹を植えることに決定しました。伊勢神宮や日光東照宮のように荘厳な場には、杉林が当然と思われていました。大正時代、既に都市化により東京には公害が進んでおり、大木や老木が枯れるという現象が起きていました。それを考慮してこの地には照葉樹をと決断されたそうです。100年経った今、その判断の正しかったことは明治神宮を訪れてみればよくわかりますね。
ナイターが盛んな頃の夕方、JR信濃町駅を降りるひとの多くの手にはたくさんの飲み物や食べ物が下がり、神宮球場へ向かる列が自然にできてきます。駅から歩くこと5分。神宮外苑が広がります。手前にはバベキューの匂いが立ち込める森のビアガーデン、その隣には子供が安心して遊べるにこにこパーク、奥にはテニスコートやラグビー場と広い敷地には、大人から子供まで一日を健康的に楽しく過ごせる施設がそろっています。
通りを渡ると聖徳記念絵画館の威容が現れます。その向こうは赤と白のクレーンが何本も立ちあがり、新国立競技場の工事が急ピッチで進んでいるようすが見えてきます。
実はここ、明治天皇の葬送の儀が行われた場所なんです。当時は陸軍の青山練兵場でした。聖徳記念絵画館の裏側の駐車場の奥が、明治天皇の柩を載せた車、御轜車(ゴジシャ)が安置された場所です。今は建立と同時に植樹された楠が大きく育ち、夏の暑さをさえぎるように涼やかな影を作って立っています。
絵画館には明治天皇とその后である昭憲皇太后の御事績を、1枚縦3m横2.7mの日本画と西洋画40枚づつ、計80枚に描かれて展示されています。明治天皇のお生まれから大喪の儀まで、時代の移り変わりが歴史とともに描かれ、明治という時代を理解できるようになっています。絵画館内の静けさの中で、明治を感じて過ごす夏のひとときもいいかもしれませんよ。
絵画館前の広場の植え込みにひっそりと据えられている案内板があります。気づかずに通り過ぎてしまう方も多いと思います。1926年(大正15)1月に完成した日本で初めての本格的な舗装を記念するものなんです。道路は舗装してあって当たり前の現在ですが、最新鋭の機械による国産のアスファルトを使った初めての舗装がここなんです。1992年まで66年間現役で使われていたということです。またこの案内板の前の舗装は当時のままということです。100年近く前のアスファルト舗装の上を、みんなが何も知らずに歩いたり車で行き来している、なんと素敵な歴史なのでしょう。
実際には私たちが知らない明治時代、でもその恩恵は今もたくさん受けているんですね。来る2020年に東京オリンピックが開かれる時には、この明治の森にもたくさんの国の人が訪れ、静かな森のたたずまいと活躍する選手たちを楽しんでもらえれば、と感じずにはいられません。