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食材(加工食品)にはパッケージに「賞味期限」「消費期限」いずれかが表示されていますが、「賞味期限」とは「おいしく食べられる期限」。一方の「消費期限」「安心して食べられる期限」。似たような言葉で混同しやすいのですが「消費期限」を表示した食品は傷みやすいものが多いので、期限内に消費する必要があります。
── 今日は、傷んだ豆腐をうまく「活用」(?)した滑稽話の演目「酢豆腐(すどうふ)」を紹介しましょう。
昼下がり、町内の若い衆が集まって「一杯やろう」という相談をしています。昔の職人の仕事は昼前には終わってしまったといいますから、今と違って早い時間からお酒を飲むことができたのでしょう。
ところがみんな、お金がありません。
お酒はなんとか都合できたものの、肴(さかな おつまみのこと)を買うことができません。一人が「爪楊枝を肴にしたらどうだ」などとバカバカしいことを言っていますが、食べるものがなくてはせっかくのお酒の魅力も半減です。
ちょうどそこへ通りかかったうぬぼれ屋の半公を「町内で美人と評判のみいちゃんが。お前にほれてるぞ」と、うまくおだててその気にさせて、ちょっとしたお金を作ることができました。
すると誰かが、昨日の豆腐の残りがあったことを思い出しました。気はよいけれどちょっと思慮の足りない与太郎に「おい、昨日の豆腐どうした?」と聞くと、「ちゃ~んと釜の中にしまっておいたよ」と言います。
江戸時代はいまのように冷蔵庫などない時代。季節的に夏ともなれば一晩置いていたことで、豆腐は腐ってカビが生えてしまっています。少し鼻を近づけるだけで酸っぱい臭いがして、とても食べられたものではありません。
そこを運悪くたまたま通りかかったのが、横町の若だんなです。この若だんな、通(つう)ぶってキザなので、実はみんなに嫌われています。新ちゃんが「よし、あいつにこの腐った豆腐を食べさせてみよう」とイタズラが始まります。
「若だんなはお身なりがよくて金があって、さらに男前ときているから、女の子はほっときませんねっ」とお世辞をいうと、お世辞とも思わず若旦那は、にんまりします。そんな様子に、まわりもにんまり。若旦那は調子に乗って、自分がいかにモテるかというノロケを始めます。
「ところで若だんな、あなたは通な方だ。実はこんな食べ物をもらったんですが、食べ方がわからない。教えてくれませんか」と、例の傷んだ豆腐に唐辛子をかけたものを出します。
若だんな、日頃から通を気取っていますから、ここで「知らない」とはいえません。
「ああ、珍しいねえ。これなら一回食べたことがあります」
「そんなら、食ってみてください」
引っ込みがつかなくなっている若だんな、鼻をつまみながらも「では、失礼して……、この鼻へツンとくるの……、ここです、味わうのは。この目にピリっとくる……、「目ピリ・鼻ツン」なるものが……、いゃあ、これはオツだね」と、なんとひと口食べてしまいまったのです。
「いやあ、若だんな、食べましたねえ。恐れ入りました。ところで、これはなんて食べ物ですか」
「これは酢豆腐でしょう」
「なるほど酢豆腐ねえ。どうぞたくさんおあがんなさい」
「いや、珍しい酢豆腐はたくさん食べるものではありません。ここはひと口にかぎります……」
滑稽話の演目「酢豆腐(すどうふ)」は、関西では「ちりとてちん」という題になっています。そういえば、何年か前に朝の連続テレビのタイトルにもなりましたね。今でもお酒の席で日本酒やワインの銘柄に詳しいことを自慢にして、通ぶる人は必ずいますが、昔からそうした人をからかって楽しんだ人は多かったようですが、みなさんはそんなことをしないように!