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重ね煮は、ひとつの鍋のなかに食材を重ねて入れていき、コトコト煮込めばできあがり。手間いらずで素材の美味しさを引き出す調理法として、注目を集めています。野菜は下ごしらえに手間がかかると思いがちですが、基本的に皮はむかずにアク抜きもしません。調味料は、ひとつまみの塩、少量のしょうゆやみそ。だしも必要ありません。忙しい日常に追われる私たちには、なんともうれしい限りですね!
しかし、これは単に手がかからない手抜きの料理とは対極にあるもの。重ね煮は、人の幸せと健康を願う強い思いから導き出された調理法なのです。
重ね煮を考案したのは、長崎出身の食養料理家・小川法慶氏(1910年〜1994年)。料理は健康な体を作り、健康を維持していくためのものという信念のもと、縁のあった人々に主に口頭で伝えられたそうです。それから50年あまりの時を経て受け継がれてきた重ね煮は、食の安全性が重視され、健康志向が高まりをみせる現代、あらためて脚光を浴びているのです。
重ね煮のポイントは、食材の「重ね方」にあります。自然界のすべてのものには「陰」と「陽」の性質があるという古代中国発祥の「易学」による考え方を、鍋のなかに応用しているのです。
陰陽の法則は、たとえば、昼と夜、天と地、太陽と水というように、陽と陰の相反する性質のものから、自然のエネルギーは成り立っていると考えます。前者が活発で興奮的、温める作用がある「陽」、後者が静かで抑制的、冷やす作用がある「陰」ととらえ、この性質は季節や風土、食物、人間のからだなど、あらゆるものに存在していると考えます。
重ね煮は、食物がもつ陰陽の性質を重ねて煮ることで調和させる調理法。土の中に育つ野菜(陽)は上に、土の上に育つ野菜(陰)は下にと、自然界の天地と逆の順に鍋に重ねていきます。そこに火を加えると、陽の性質の野菜は下に、陰の性質の野菜は上に向かって本来のエネルギーを発揮します。こうしてそれぞれの持ち味が調和して、野菜本来のうまみが引き出されるのです。
なんだか魔法みたいな調理法ですが、重ね煮をつくる時は食材がもつ陰陽の性質を頭に入れておくと便利です。野菜の陰陽の性質はとても明快。土から上に出て生長する葉菜・果菜・花菜は陰性、土のなかに根を張って生長する根菜は陽性です。米や雑穀などの穀物は中庸、魚介や肉はすべての野菜より強い陽性に、逆に、きのこや海藻類はすべての野菜より強い陰性になります。
重ね煮に特別な道具は必要ありません。ふたがきちんと閉まる鍋があれば大丈夫。
さっそく、野菜本来の美味しさをひき出す重ね煮をつくってみましょう!
◎春野菜のみそ汁
みそ汁も重ね煮の調理法で美味しくできます。みその加え方に驚きが!
材料は、下記のように鍋に重ねていきます。
【重ね方】
〈上〉
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みそ 大さじ3強(60g)
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ちりめんじゃこ 小さじ2
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玉ねぎ 1/2個(100g)→くし切り
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じゃがいも 少1個(120g)→4〜5つに切る
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キャベツ(葉) 1〜2枚(80g)→ざく切り
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わかめ(乾物) 3g→はさみでざく切り
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〈下〉
【つくり方】
※水 4カップ、三つ葉 3本→2㎝の長さに切る
1. いちばん上のみそは、一口大にして点々と置く。
2.材料の7〜8分目まで水を加えてふたをし、強火にかける。
3.湯気が出てよい香りがしてきたら、弱火にして野菜がやわらかくなるまで煮る。
4.残りの水を加えて強火にし、かき混ぜて味をととのえる。ひと煮立ちしたら、三つ葉を散らして火を止める。
◎春野菜のピクルス風
酢でさっと煮るだけのピクルス。新ものの野菜が出回る春におすすめです。
材料は、下記のように鍋(ほうろう鍋)に重ねていきます。
【重ね方】
〈上〉
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にんじん 1/3本(30g)→薄い半月切り
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キャベツ 1/4個(300g)→手でちぎるか、
色紙切り
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玉ねぎ 1/2個(100g)→色紙切り
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セロリ 少1本(80g)→厚めの輪切り
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ひじき(乾物) ひとつまみ
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まいたけ 大1/2袋(60g)→小房に分ける
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〈下〉
【つくり方】
※合わせ調味料
・梅酢 小さじ1〜2
・りんご酢 大さじ5〜6
・水 1/3カップ
・はちみつ 大さじ1
・山椒の実 大さじ1
・胡麻油 小さじ1
・塩 小さじ1/2
1. ボウルに合わせ調味料の材料を入れて混ぜておく。
2.材料が入った鍋の上から1をまんべんなく回しかけてふたをする。これを中火にかけ、2分ほど煮て鍋ごと水につけてさます。
重ね煮にすると素材がもつ自然の甘みやうまみが引き出されるので、基本的に砂糖は不要。油も香りやコクをつける程度に使うだけ。シンプルでからだにやさしい料理ができあがります。春はさわやかな色と香りの野菜が美味しい季節。旬の味覚を、ぜひ重ね煮で味わってみませんか。
参考文献
梅崎和子 『体にやさしい重ね煮料理 旬を丸ごと生かす食卓』講談社 2006