- 週間ランキング
「シーラカンス」と聞いて「あ〜あれね」とすぐわかるのは、日本人くらいなのだとか…海外の一般市民にはほとんど知られていないという、希少な「生きている化石」。え、まだ生きてるの? そう思われたとしても、無理はありません。
じつは長い間、シーラカンスは恐竜と一緒に絶滅したと考えられていたのです。ところが、1938年に南アフリカで生きているシーラカンスを発見! 生物学界では「恐竜が生きていた」というレベルの大ニュースだったといいます。その後もインドネシアなどで確認され、いまも海の深いところで元気に暮らしているとわかりました。それも、太古の地層から見つかる化石とほとんど変わらない姿で… 。黒地に白いプチプチ模様の、ずんぐりした体つき。「ワイルドで古い感じ」を全身でアピールしているかのようです!
シーラカンスは、水深200m(深海の入口)くらいにある洞窟で群れて暮らしているといいます。お食事するため、夜はさらに深いところまでお出かけ。あまり早く泳げないもので、海底を漂いながらエサが近づくのを待ちます(体の白いプチプチでカモフラージュ?)。捕獲されたシーラカンスのお腹の中からは、リュウキュウホラアナゴのような長い深海魚がまるごと登場することも。お食事もワイルドな「逆立ちしつつ丸呑み」スタイルなのですね。
かつてはたくさんの種類がいたそうですが、現在はアフリカ系とインドネシア系(見た目ではほぼ区別できない)2種類のシーラカンスが確認されています。まわりの環境にこだわらない大雑把な性質によって、長い年月をありのまま生き残れたのか? それとも、深海ってじつはとっても生きやすい環境なのか? …シーラカンスは、生きものの「進化の謎」を解き明かすカギ、ともいわれています。
シーラカンスには、背骨がありません。かわりに体液のつまったホースみたいな脊柱が1本。これが名前の由来にもなっています。他にも、脳や心臓がとってもミニサイズだったり、鼻で電気を感じるらしかったりと、特徴だらけ。なかでもふつうの魚と完全に違っているのは、胸ビレと腹ビレです!
シーラカンスのヒレときたら、筋肉ムキムキな柄の部分があり、ほとんど「腕」…マッチョな感じは、ここから醸し出されていたのですね。これは「肉鰭(にくき)」といって、持っているのは、現存する魚類のなかではハイギョとシーラカンスだけ。これが進化すると四つ足動物になるのだそうです。なんとシーラカンスは、「陸の動物に限りなく近い魚」だったのです。
かつては「ヒレを足のように使って海底を這っているのではないか?」という説まであったそうです。実際は、櫓を漕ぐようにゆっくり泳ぐのですが、この動きは人間の腕の動きにつながるともいわれています。身長(体長)は180㎝くらい。しなやかに曲げたりねじったりできる手足(ヒレ)。光を反射して緑色に輝く目。なんだか、すてきな人魚みたいなプロフィールですね。
陸の生きものに近いというのに深海にいるのも不思議です。ひとつには、動きも遅いし、ちょっとくらい暗くて水が冷たくても生存競争しないでいたい、ということらしいです。じっさい、シーラカンスは魚ではありえないくらい死亡率が低く、不老のまま100歳くらいまで生きているという研究報告も!!
しかもシーラカンスは、あかちゃんを産みます! 卵をお腹の中で孵すのですが、解剖時には、ほぼ大人と同じ形で、30㎝もの大きさに育った幼魚が入っていたそうです(いつどうやって出産するのかなどは、わかっていません)。多くの魚のように、生まれたとたんパクッと食べられる心配は、あまりなさそう…こんな特性も、長寿を支えているのでしょうね。
ところで、シーラカンスって魚としては美味しいのでしょうか…? 2m近くもあるなら、マグロくらいの肉がとれそうです。ある研究者が市場でシーラカンスを見つけ、声をかけ損ねている間に切り身になって販売されてしまった、という記録もあるので、少なくとも食べることは可能なようです。
じつは日本人にも食した人がいました!! 魚類学者の末広恭雄博士は、シーラカンスを解剖する際、ちょこっと試食してみたそうです。その感想は「水に浸けた歯ブラシのような味」。…自分でも気づかなかったけど、毎朝シーラカンス食べてたよ(涙)と、微妙な気持ちになりますね。80年代に、少年マンガ誌の企画でも試食されていますが、やはり大不評(食べたのは「アラレちゃん」や「ドラゴンボール」の作者・鳥山明先生です!)。シーラカンスは、ヒレ以外はあまり動かさないので肉質はゆるゆる、逆に筋膜(マグロの肉にも白いスジがありますね)は強力なので、水っぽくスジっぽい、ということのようです。アミノ酸の問題でうま味がないのでは、ともいわれています。
また、シーラカンスのもつ脂は人間には消化できないため、たとえすごく美味しくても、たくさん食べると下痢をするので気をつけましょう(機会はないかもしれませんが)。コモロ諸島での呼び名は「ゴンベッサ」。もともと「食えない魚」「使えない魚」という意味だったのですが、シーラカンスが希少で高く売れる現在は「釣り上げると幸福をつれてくる魚」という意味に変わったのだそうです。
生きているシーラカンスに日本で会うことは、残念ながらできません。けれども、本物の標本や化石などが展示されている水族館・博物館があります。福島県の『アクアマリンふくしま』、静岡県の『沼津港深海水族館』など、剥製や冷凍とはいえものすごい迫力! ですので、興味のある方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
シーラカンス研究は、(シーラカンスと違って)日に日に進化しているようです。泳いでいるシーラカンスにも、いつか会ってみたいですね!
<参考文献・サイト>
『シーラカンスの謎』安部義孝・岩田雅光(誠文堂新光社)
『シーラカンス』上野輝彌(講談社)
『アクアマリンふくしま HP』
『沼津港深海水族館 HP』