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日本でも新年を祝うお菓子として浸透しつつある「ガレット・デ・ロア(galette des rois、王様の菓子)」。サクサクのパイ生地にアーモンドクリームのフィリング、そして最大のお楽しみは、そのなかにたったひとつ入っている「フェーヴ(fève、そら豆の意味)」。切り分けた時に、フェーヴが当たった人は王冠を被る権利が与えられ、その幸運は1年間続くといわれています。フェーヴは、現在は陶製の小さな人形などが多くなっていますが、昔は本物のそら豆が使われており、萌芽やこれから生まれてくる生命の発芽を象徴していました。
占いにも似たわくわく感が楽しめるガレット・デ・ロワの起源は、古代ローマにおける農耕神サートゥルヌス(サターン)の祭典「サートゥルナーリア」にさかのぼります。この祭典では豆をひとつ入れたケーキが供され、豆が当たった出席者を宴の王とする習慣がありました。サートゥルナーリアは古代ローマでも盛大に行われ、奴隷と主人がこの期間だけ役割を入れ替えて振舞ったそうです。
もともとは1日だけだったこの祭典ですが、徐々に盛り上がりが高まり、なんと1週間に延長されることに。アウグストゥスをはじめ、歴代の皇帝はこの破天荒なお祭り騒ぎを短くしようとしましたが、ローマ市民の間に騒乱と大規模な反乱を引き起こし、あえなく失敗に終わったとか。サートゥルナーリアがいかに人々に愛されていたかを物語るエピソードですね。
ガレット・デ・ロアの名称にある「ロワ(王たち)」とは、フランス語で「ロワ・マージュ(rois mages)」と呼ばれる東方の三博士のことを意味します。ガレット・デ・ロアは本来、東方からベツレヘムを訪れた三博士よって、幼子イエスが見出された(公に現れた)ことを記念する日であるキリスト教の祭日「公現祭(épiphanie、エピファニー)」を祝うお菓子なのです。
公現祭は、一般的にはクリスマスである12月25日から数えて12日目の1月6日があてられ、クリスマスはこの日まで12日間続きます。
日本ではクリスマスが終わるとクリスマスツリーやリースは姿を消し、空気が一変してお正月の準備がはじまります。しかし、キリスト教を信仰する国々では、公現祭までツリーもそのままにしている習慣があります。それは、東方の三博士たちが星に導かれてベツレヘムにたどり着き、贈り物をささげて礼拝をしたのが、キリストが誕生した日から数えて12日後といわれているからです。
クリスマスの最終日にあたるは公現祭は盛大にお祝いし、昔はクリスマスケーキもこの日に食べていたそう。そして、クリスマスツリーも1月6日のこの日まで飾っていたのです。
年末は、新年の準備や年賀状、大掃除など、めまぐるしい忙しさ。クリスマスツリーは年明けまで飾っておき、クリスマスの余韻を楽しむのも一興かもしれません。そして、新年の集まりでは1年を占う「ガレット・デ・ロア」をお忘れなく!
参考文献
ジョエル・ロビュション『四季を彩る52の食材と料理 ロビュションの食材辞典』柴田書店 1997