デフサッカー日本代表対クリアソン新宿のエキシビションマッチ発表会見でポーズを取るメンバー。左から同代表の古島啓太、松元卓巳、吉田匡良監督、新宿の北嶋秀朗監督、須藤岳晟、丸山和大代表

聴覚障がい(ろう者)のデフサッカー日本代表チームは28日、JFLクリアソン新宿と4月28日(午後7時キックオフ)に東京・国立競技場でエキシビションマッチを行うと発表した。

国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が主催する4年に1度の「デフリンピック」が11月に東京で開催。世界一に向けた強化と大会告知が狙いで、Jリーグ入りを目指す新宿相手に異例の真剣勝負となる。

デフサッカー日本代表側からは、吉田匡良監督、GK松元卓巳主将、MF古島啓太副主将が登壇。対するクリアソン新宿側からは、丸山和大代表、北嶋秀朗監督、須藤岳晟主将が並んだ。

聖地で、しかも健常者でサッカーを生業とするチームを相手にガチンコで臨む。吉田監督は「耳が聞こえないというのは一つの個性。これだけのパフォーマンスができるんだというのをお見せしたい」と意気込んだ。

障がい者サッカーでは過去に例のない、聖地・国立での壮行試合。吉田監督は東福岡高時代に選手権でこのピッチに立った元プロ選手で、「頑張っている選手たちに日の目を見る舞台を」と要望。日本ろう者サッカー協会は、関わりのあったクリアソン新宿の丸山代表に話を持ちかけた。

クリアソン新宿はダイバーシティー(多様性)という社会課題を包摂する新宿という街をホームタウンとし、日頃からさまざまな社会活動を展開しているクラブ。北嶋監督もこの話を受け、「直感的に、こういうのは一緒に頑張りたいと思いました。我々はサッカーを通じて感動や豊かさを届けたいと思っているので、ハンディを持ちながら一緒にサッカーをやっていることには心が打たれますし、本気の試合をやってデフリンピックでの優勝に繋げてもらいたいです」と快諾した。

シーズン中の難しい時期でありながら、須藤主将も「試合が実現してうれしい。本気で戦うことでお互いに学びがあると思うので、勝利に向けて戦っていきたい」と意欲を示した。

デフサッカー日本代表の松元主将は、名門・鹿児島実サッカー部に所属していた2年生から活動を始め、今年で19年目になるベテラン。かつては小学校のグラウンドや、公園の雑草まみれの場所で代表トレーニングを行っていたことを明かした。当時は日本サッカー協会の傘下でなく、独立した団体だったため、活動費も自分たちで持ち出し、限られた環境で細々とやってきた。

それが16年に7つの障がい者サッカー団体が日本サッカー協会(JFA)の傘下に加わり、そして3年前から同じ八咫烏(やたがらす)のエンブレムに統一され、同じユニホームで戦っている。活動費もJFAからの分配金のもと、年7回ほどの合宿が行えるまでになった。

松元主将はこの過程を思い出し、込み上げる感情を抑えられなかった。涙を流しながら「世界一が見えるところまできた。苦労とか、そういう時代があったからこそ今の時代がある。この環境に甘えたり満足することなく、日本サッカーは強いんだというのをいろんな方面から世界に発信したい。本当に大きな1歩になる」。国立競技場の舞台に立って、健常者の格上チームと対戦できる喜びを語った。

世界ランキング6位というデフサッカー日本代表は、2年前の世界選手権で決勝に進出。ウクライナに1-2で敗れ準優勝だった。それだけに今年のデフリンピックでは世界一を目標に掲げている。

松元主将は「サッカーの聖地で試合ができることは夢の夢でした。支えてくださる方々には感謝の気持ちでいっぱいです。11月のデフリンピックで世界一を目指して日の丸を背負うので、どこが相手でも負けていい試合はありません。ガチンコで試合ができればと思っています」と手話を交えながら話した。

古島副主将は「JFLというカテゴリー試合をするのは初めてですが、やはり世界一を目指す上で勝たないといけないと思うので、結果にこだわってやっていきたいです」と意欲をあらわにした。

平日の水曜日夜の開催だが、1万人の集客を目指し、チケットは2月10日から発売される。誰もが手を取り合える社会の創生へ、サッカーの枠を超えた画期的な一戦となることを期待したい。【佐藤隆志】

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 聴覚障がいのデフサッカー日本代表、クリアソン新宿相手に聖地国立で画期的一戦「お互いに学び」