世界一を決め、トロフィーを手にするドジャース大谷と山本(左)(撮影・菅敏)

<ワールドシリーズ:ヤンキース6-7ドジャース>◇第5戦◇10月30日(日本時間31日)◇ヤンキースタジアム

ドジャース大谷翔平投手(30)が悲願のワールドシリーズ制覇を達成した。移籍1年目、最優先はチームの一員として「なじむ」ことだった。周囲に惑わされることなく信念を貫いてきたが、シーズン序盤は焦り、心が揺れた。徐々に“ドジャース野球”を自らに浸透させ、潜在能力と絡み合わせチームを頂点まで押し上げた。グラウンドの内外で支えられた頼もしい仲間たちの存在も見逃せない。【取材・構成=斎藤庸裕】

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大谷は、自ら発した言葉通りにドジャースの世界一奪回へ必要不可欠な存在になった。昨年12月の入団会見で「優勝を目指しながら、まずは『欠かせなかった』と言われる存在になりたい」と宣言。その真意は-。シーズン中、繰り返し口にしてきた言葉を踏まえると、一貫した意識が1本の線で浮かび上がってくる。

「本当に1年目のつもりで、まず環境に慣れる、チームメートにも慣れることが最優先」

2月の春キャンプ初日、最初の質問で謙虚に答えた。頂点をつかむには、ともに戦う同僚はもちろん、首脳陣や球団組織が同じベクトルで進んでいかなくてはいけない。そのために、自分から“ドジャース野球を知る”必要があった。

今季は長打力を生かしながら「走ること」をテーマに掲げた。確かにスピードはドジャースに足りない要素だった。もっとも、ロバーツ監督が求めるものは、進塁打やチーム打撃など数字には表れない部分で貢献する「緻密さ」だ。大谷は開幕当初、チームへの貢献を意識するあまり、本来のプレーができなかった。首脳陣の目にも「多くの注目があり、失敗をしないように、と思っていたのかもしれない」と映った。

そこが、大谷らしくなかった。ロバーツ監督を始め、コーチ陣は「失敗してもいい。誰でも失敗はする。そこから学び、映像を見て、よりよいプレーをすればいい」と選手たちに伝えていたという。全力疾走、野球IQの高さ、球際の強さ、挽回する精神力。元々、大谷の強みでもあった。

自分の特長を再認識し、シンプルに、懸命にプレーする姿勢を示した。過酷な戦いをともにしながら、大谷とドジャース野球は徐々になじんでいった。前半81試合を終えた時点で大谷は「時間がたつにつれて、この人はどういう人とか、チーム全体としての印象もそうですけど、自分がドジャースという球団、チームメートにまず慣れる必要がある。そういう意味では素晴らしい前半戦だった」と手応えをつかむと、後半戦で一気に加速した。

長打と走力を兼ね備える唯一無二の存在は、シーズン終盤で追い上げてきた同地区のライバル・パドレスを振り切るのに不可欠だった。8月23日に「40-40」に到達し、9月19日には「50-50」を達成。あくまでチームの勝ちを優先し「無心でしっかり自分の役割ができるように」と意識を継続した結果の産物だった。

「出塁する選手も多いですし、ホームランも出てますけど、それ以外の走塁だったり犠牲フライ、そういう細かいところがしっかりできているのがいい野球につながっている」

大谷の言葉はいつしか、ロバーツ監督の求める野球スタイルに重なった。データとしては昨年、ナ・リーグ11位だったチーム盗塁数105が、今季136に増えリーグ6位(西地区で1位)となった。一方で、どの世界でも土壇場で勝敗を決するのは、懸命さや最後まで諦めない意志の強さ。数字に表れない部分で流れが左右される。個性あふれる集団と大谷のらしさ、そして、ドジャース野球が最終的に完全融合した。その結果が、悲願の世界一へつながった。【斎藤庸裕】

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 大谷翔平、世界一へ最優先したのはドジャース野球と個性あふれる仲間に「慣れる」ことだった