四方をびっしりと埋めた観衆が、琴ノ若に温かい拍手を送った。「思い切って前に出ることだけを考えていた」。24歳の若武者は、真っ向から貴景勝に挑んだ。 大関の圧力に屈することなく、うまくいなして崩し、一気に前へ。「受け身にならずに攻めようと思った」と、突き押しで対抗。腰をしっかり落として押し出した。 2場所続けて優勝争いに加わり、自己最高位の西前頭2枚目で臨む。埼玉栄高の1学年先輩、貴景勝とは過去2戦2敗。成長のほどを示すには、これ以上ない相手と言えた。 新入幕だった2年前の春場所は、コロナ禍により無観客での開催。角界は徐々に本来の姿を取り戻し、今場所は最大で9割ほどの観客を入れる。幕内では経験したことのなかった熱気を肌で感じ、「お客さんが多いのはいい」と笑みを浮かべた。 新三役を視界に捉え、最高のスタートを切った。「しっかりと、いい相撲を続けていきたい」。祖父は元横綱琴桜、父は師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)。恵まれた体格に恥じないような、堂々とした取り口を貫けるかが飛躍へのカギとなる。 (了) 【時事通信社】 〔写真説明〕貴景勝(右)を攻める琴ノ若。押し出しで破る=8日、東京・両国国技館